悪魔たちの遊戯(5)-次の約束
「私は、なんかおかしいなーくらいかな。急逝って理由がわからないし、高位の悪魔ほど眠りにつけば復活するとか聞いたことあるし」
忍がまず、答えた。
その通りだ。
いきなり葬式はまず、ない。
というか消滅はあっても、火葬にする習慣など魔界にあるはずもない。
忍の方は、自分の思考力の賜物から違和感を引き出していたらしい。
ダンタリオンは次に、司を見た。
「一応、仕事柄、気絶か仮死状態か、手遅れかくらいは判断がつく。悪魔基準がわからないから、黙っていただけで」
「そこ! 黙ってなければもっと早く解決だよ!」
「人様のルールには割り込まないことにしてるんです」
司は、仕事に関しては渡されたら責任をもってやるタイプ。
しかし一方で、面倒ごとはごめんなタイプなので、こういうところがちらほら見える時がある。
その線引きの判断は、主に彼の脳内の価値基準により下される。
「いや、お前……食人植物のあたりから、気付いてただろ」
「そんなことより、ベレト様の音楽隊借りたって、ホントですかアスタロトさん」
「もちろん。閣下はダンタリオンには日本で世話になったと快く貸してくださったよ」
「どうやって返却するんだよ。オレは嫌だからな」
断固そこは、二次災害を避けるに限る。
ダンタリオンは復活したので、きっぱりと断った。
「何かいい案があるかい?」
「公爵をターゲットにしたどっきりでしたとか、モニタリングでしたという手合いはどうでしょう」
「そうすると、閣下には事前説明してもいい感じになるよね」
「人間界で流行っている番組で、仕掛け人だけが知ることになっている仕様です、とか」
仕様。
閣下はすっかり日本びいきになったので、おそらく納得するだろう。
丁寧に菓子折りでも持っていけば完璧だ。
しかし、ダンタリオンは納得できるはずもない。
「シノブ、そんな奴に解決案を出すな。地獄の業火に焼き尽くされればいい」
「そんなこと言わないでくれないかい? 日本で平和ボケして知った君に、モニタリングのサプライズだよ」
「それ、今、シノブから仕入れた言葉だろうが!」
駄目だ。
こいつに付き合っていても勝てる気がしない。
それより、次回がないように予防策に徹するべきだろう。
「つまらないですわね。結局、火葬場まで行く予定はふいになったということですの」
「…………」
その予定を潰した本人がぽつりとつぶやいた。
「それにこんなに人を巻き込んで。ちょっとやりすぎでは?」
「そこは魔界の王に捧げる、壮大なモニタリングでしたということにしておくよ。人間の方が、浸透しているんだろう? そういうの」
アスタロトが、たった今仕入れたばかりの言葉を人間相手にもフル活用しようとしている。
「それに、けっこう資金流したからね。経済の活性化にボクは一役買った」
「ベルトコンベア敷くの、半端ないですよね」
そういえば。
死んでなかったのに、生きててよかったという人間が一人もいない件について。
「お前ら、ちょっとはオレという存在を大事にしろ!」
「「……どうせこんなことだろうと思ってた」」
これは途中からおかしいと気づき始めていた、冷静組ふたり。
モニタリング→「気づく」組と言ってもいい。
「生きてて良かったっていうか、意味が分からな過ぎてどうしようもないだろ、これ」
「うーん、ボクとしてはもう少し、魔界流の葬儀をほのめかして、ベルトコンベア上の企画もあったんだけど……」
「企画なのか? これは。何かの計画ではなくて」
一瞬流れる沈黙。
……
「嫌だなぁ。企画だよ。言っただろ、平和ボケした君に、たまにはサプライズをって」
どこまでが本心か、全く分からないのが不安要素にしかならない。
「たまにはいいだろう? スリリングで」
「……お前は、日本に遊びに来てるんだよな?」
「ここにはここの、遊び方があるみたいだから。まぁまぁ楽しかったかな?」
これも本音か、わからない。
「アスタロトさん、相当巻き込まれてる人多いから、勘弁してくださいよ」
「あはは、ごめんごめん。大がかりなのはそうそうやらないから。うん、大体わかったよ」
何がだ。
「そうですわ。巻き込まれた方が多くて、事後処理が大変だというなら、名案がありますわ!」
「?」
ひとしきり黙ってやりとりを眺めていた、シスターバードックの発言。
全員の視線が集まった。
「既成事実にしてしまえば良いのです」
ダンダリオン公爵、殺害予告が発令されました。
「てめっ! オレに死ねってか!」
「みんなが事なきを得るエンディングですわ!」
「ふざけんな! 人ん家来て暴れんじゃねぇ!」
広大な敷地で、壮大なケンカが始まった模様。
それを見ていた、アスタロト。
「なかなか、アグレッシブな解決方法だね」
「……何も解決しないし、かえって面倒なことになるから普通に片づけてもらえませんか」
本日最大の良識。
近江秋葉の言葉とともに、悪魔のお遊びは幕引きを迎えることとなる。
「じゃあ今度、どこかお勧めの遊び場を教えてもらえるかな」
「アスタロトさんの方が、遊び慣れてる感じですけど」
「そんなことないよ。神魔の情報ソースが多いから、ふつうなところに行ってみたいなぁ」
どうにも、人間と交友関係を深めたいらしい魔界のもう一人の公爵の気晴らしとともに。
喧騒の一日は、終わろうとしていた。
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