悪魔たちの遊戯(4)ー復活

「さぁ、盛大に見送りましょう!」

「シス……バードックさん!!」


棺桶が持ち上がる感覚。

あわあわと周りから騒ぎ出す気配が沸き立つ。


「なんですの?」

「いや、……一人で大丈夫ですか」

「あら、お優しいのですね。大丈夫ですわよ。なんでしたらこのまま火葬場の焼却炉まで搬入しましょうか」


こいつ、ひとりで棺桶持ち上げてるのかーーーーーー!!!!


秋葉の声が、割とわかりやすく聞いたので、その反応から何が起こっているのかは察した。


「大丈夫だよ。コンベアに載せれば自動的に天に召されるから」

「あら、悪魔でも天に召されるんですの? 神は懐が深い……それとも、言葉のあやというものかしら。あ、そういえばフェリシオン様から御香典もお預かりしていたのですわ」


宗教、混ざりまくってるだろ。

お前は何の神に仕えていたんだ。


アスタロト相手に、真顔で言う声。

その上、片手で取り出そうとしたらしく棺が大きく斜めに傾いた。


(やめーーー! 後にしろ!!)


「とにかく棺はそこに」

「わかりましたわ。えいっ」

「!!?」


周りのどよめきから何が起きたかは分かった。

というか、宙を舞う棺から、概ねの参列者の顔は見えていた。


……バードックは棺をその場から投げ捨てていた。



ずずーん。ぐしゃ。



「あら」

「……壊れてしまったね」


(オレが壊れるわーーーーーー!!)


落下速度と重さで、ベルトコンベアは壊れたらしい。

棺は思い切り斜めって、コンベアの残骸に突き刺さっている。


体が動かないので、魔法で自分の身を守ることもできない大変な事態。


(こいつら、本気でオレを殺す気か!? ……そもそもの意図はなんだ!)


シスターバードックについては、すぐに行きあたった。


…………生きていても死んでいても、殺す気だ。


(冗談じゃないぞ。なんとか、なんとかしないと……)


しかし、体は動かない。

目を開けることも……いや。


目は開いていた。


「あら、嫌ですわ。死後硬直ですの? えいっ」


(いでーーーーーー!!!!!!)


むりやり閉ざそうとするバードック。

というか、二本の指を思いきり突きたてられる。


閉じるんじゃなくて、潰す気か!


「おや、大変だ。……中身が出てしまった」

「………………………………」



ものっそい、ギャラリーから沈黙が流れてくる。

中身というのはグロテスクなものではなく、ダンタリオン自身のことだ。


彼は衝撃で、棺から放り出されていた。


「どうしましょう。とりあえず、棺に納めやすいように分割してみます? 八つがよろしいかしら」


丁寧に言ってるけどそれ、八つ裂きってことだよな!


このアマ、覚えてろ。


その時。


ぴく、と指先が動いた感覚があった。


「ん?」

「!」


うつぶせになった状態から、意識を指先に向ける。

動かせる。


全開とは言わないが、ゆっくりとなら体が効くようになっていた。

その動きがゆらりと立ち上がる幽鬼のように見えたのだろう。


「公爵が……!」

「死人が動き出した!」

「ひぃぃ! すっ、すみませんーーーー!!」


立ち上がった後ろ姿に、阿鼻叫喚。

なぜか謝罪の言葉を述べつつ、逃げる輩さえいる。


くもの子を散らすように、人はいなくなった。


「……あら、トドメが足りませんでしたの?」

「死人にトドメとかふざけんな」

「……お前…っ! 死んでないじゃねーか!!」


悼みに来たのではなく、トドメをさしに来たらしいシスターバードック。

わかってはいたが、来ること自体が想定外だし、それ以前にこの状況自体が想定外過ぎた。


危険だった……



ダンタリオンは改めて、秋葉の声に背後を振り返った。


「死んでねーよ。ってか、アスタロト! どういうことだ!」


視線が、アスタロトに集まる。

喪主という割にカジュアルなコートを肩にひっかけているだけの彼を。


「君が駄菓子を食べて急逝したから、せめて葬儀くらいはきれいにと思って」

「どこがきれいだ! その駄菓子に何か仕込んだだろ」

「なんのことだい?」


しらを切られる予感。


もうあのミニチュアのようなラムネもすべて処分されているだろうから、証拠は上がらないだろう。


「あ~もう」


ダンタリオンは、額に手をやって空を振り仰ぐ。


ふと。


冷静なふたりが目に入った。


「誰がどこまで、気付いてた?」


聞いても仕方ないことだが、気になるので、聞く。


「気づいてたって、何のことだよ。っていうかお前、駄菓子食って仮死状態にでもなってたの?」

「……うん、お前は何も気づかないよな。いいんだ、ずっとそのままでいろ」

「どういう意味だ!」


問題は、忍と司だ。

目の前で、喪服着込んで死者を暗殺(?)しようとした聖職者はこの際スルーすることにする。


あとのふたり。

自分が動けるようになっても、驚いたふうはないのが気になった。

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