大使館でお泊り会(4)-まさかの危機到来
「…………」
ざっ。
茂みの中から何かが現れる。
……すみません、ライト消したから何がいるのか全然見えないんですけど。
「犬だな」
「普通の?」
「言われているほど大きくなさそうだ。野犬だろう」
夜目が効くのだろう。
ヒノエが確認している。
うろうろとしていた影はそのまま道の向こうに、速足で消えていった。
「ふつうに野犬入ってるじゃん! エシェル、これふつうに危ないから!」
神魔の類でなくとも、噛まれたら問題である。
オレはすでに遠くまで探索に行っているであろう、エシェルに向かって思わず叫ぶ。
「進むぞ」
戻っても、さっきの野犬に会ったら怖いので、それしかない。
うぅっ なんでこんなことになった。
「……」
ふいに。ヒノエが足を止めて黙り込んだ。
なぜか見上げる形で、じっと虚空を見つめている。
「……ヒノエさん……?」
そういうのが、一番怖いんだよ。
やめて、本当にやめて。
声をかけても黙って気配を探っているようだった。
オレには相変わらず、少しの虫の音と、風が気の葉を揺らす音しか聞こえてこない。
「主様の方に、何か現れたようだ。ちょっと行ってくる」
「ちょ、行くってオレどうすんだ!」
「この辺りには気配はないから、じっとしているか道沿いに来れば合流できる」
そういってヒノエはすっと、空に消えた。
……こういうところ、普通に幽霊っぽいよな。
改めて、怖がっていたようなものと類似している存在と一緒にいた矛盾が胸中を占めそうになる。
が、怖いのでシャットアウトして自分の処遇について考える。
「ここにいるのも怖い! 一人でこの道行くのも怖い!!」
しかし、合流する方が遥かにましである。
オレは、目をつぶってダッシュする勢いで、その先へ行くことに決めた。
「ていうか、なんのための二人組だよ! 全然成り立ってないーーーーー!!」
あの式神はオレを守ってくれるためにいたんじゃなかったのか。
いや、式神の自分が「一番のり」になったらキミカズにそのまま譲ってあいつが一番、みたいなことはちょろっとみんなと別れた直後に言っていたが。
……それ以前に、ゲームとしては企画倒れな崩壊具合だ。
バサバサバサバサ!
「!」
茂みから多数、何かが飛び出してきた。
思わず腕で顔をかばう。
ただの小鳥だった。
こんな夜中に、いきなり飛び出すなんて……
いちいちドキドキしながら影の集団を、暗い空に見送ると……
ザザザザ
何かが走る音が近づいてきていることに気が付いた。
「……えーと……不知火さん?」
結構近くに来ているので、敢えてそっちは見ないで聞いてみる。
当然答えはない。
むしろ、音はそれよりも小さくて、賭博場で見たより遅いことには気が付いた。
これは違う何かだ。
鳥たちは、これが来たから逃げたんだ。
血の気が引いた。
「ギャァっ!」
「うわぁ!」
意外なことに。
茂みから飛び出してきたそれを、オレは避けることができた。
どちらから来るか完全に注意力がそこに向いていたこと、それから襲ってくるときに声を上げられたからだろう。
黙って襲い掛かられていたら、多分、避けられなかった。
目の前に現れたのは2匹の、何かだった。
何か、と形容したのは姿は見えているがオレにはどう表現したらいいのかわからなかったからだ。
しいて言えば、人の形をしているが、小さく、髪もなく目玉だけがぎょろりとしている。
服なんて言うものは着ていない、手足が細すぎる割に、腹は異様に膨れ上がっていた。
神でも魔でもなく、それは、日本の本で見かけるような異形さに見える。
妖怪、というのだろうか。
それとも小鬼?
餓鬼、というのもいたかもしれない。
ともかく、至極知能の低い「小物」なことはわかった。
それから人を襲うたちの悪いものであるということも。
「やっぱりここ、やばいよな」
一体は四つん這いになって、一体は二足で前かがみになる形でこちらを見ている。
なんとなく退路を横目で確認して、オレは逃げることにする。
振り切れるかわからないが、合流するならできる方が……
って、エシェルとキミカズに、戦闘能力とかあるかよ!
合流しても何の解決にもならない!
余計な可能性に至ってしまった。
あ、でもヒノエが行ったのか? だったら……
「ギシャァァァッ」
「!」
オレ、条件反射的に脱兎。
「うおぉぉぉぉ!」
ここ数年、出したことのない本気の全力ダッシュで道をたどる。
手にしているライトで先を照らしている余力はなく、走るにつれて灯りが大きく揺れる。
「ギャギャッ!」
着いてきてる、着いてきてるよ!
振り返っていると遅くなる気がするので、ひたすら走る。
……そして。
……護身用の銃があることを思い出した。
後ろで、小さな生き物が跳ねる音。
襲われる。
さすがに真っ向迎撃する気はなかったが、一応、扱いの訓練は受けている。
パァン!
振り返りざま、まともに確認しないで撃つが、まっすぐに狙って来ていたそれに当てることはできた。
もう一体がすかさず跳んでくる。
「……!」
銃口を向けるが、それより早く。
パンッと何かが破裂する音がしてそれは文字通りはじけ飛んだ。
「……?」
思わず顔を逸らして瞑った目を、片目ずつ開ける。
ゆっくりとそちらを見ると何も形を成していない破片が、道に散らばっていてオレは銃口を下ろした。
「……何だ……? 紙?」
道の上に落ちている、ひどく簡易的に人型を模した紙。
なんとなく、見たことがある気がする。
拾い上げようとした瞬間、再び何かが後ろの茂みを移動する音がした。
逃げるのが先だ。
ここは肝試しどころの場所じゃない。
そして、立ち上がったところに前方の茂みから、更に大きな何かが茂みを突っ切ってくる音が聞こえた。
ものすごい勢いで近づいてくる。
アレに追われたら、逃げられない。
隠れた方がマシだ。
とっさに判断したオレはあたりを見回す。しかし、後ろからも迫るそれ。
どのみち道沿いに移動をしてからでないと隠れることもできない。
しかし、それでは遅かった。
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