一木主催の懇親会(4)

「あと、白ワインをよろしいかしら」

「オレはロゼで」

「赤はあるけどロゼはこういうとこにはないんだよ。レストランにでも行け」

「二次会か? 気が早いな」


何? ダンタリオンも酔っぱらってる?

魔界のヒトって酔うの?


いや、普通に神魔は出入りしてるから、敢えて酒を飲む意味はあるのか。

そんなことを新しく発見するオレ。


気付くと酔っ払い率が上がっていた。

主にさっきのオレから見たら、元の席の左手側。


…………忍に席代わってもらって、良かった。


「秋葉くん、タブレット貸してもらえますか?」


森さん、丁寧語。

まだ面識が浅いので、お互いこの辺りは礼を払っている。

というか、全然顔色変わってない入り口側組。


「森さんてお酒強いんですか?」

「どうかな、雰囲気で酔う方かもしれない」

「……それって」

「雰囲気が酔うに値しないなら、酔わないということだぞ」


司さんが静かに指摘した。

……うん、全然酔ってないように見える。


「みんなが酔っぱらうくらいまでは気力で持つよね」

「オレはお前が酔って醜態晒してるとことか見たことないから。ってか、気力で持たせてたの? 何のための飲み会?」


全然気が抜けてない人がここにいる。


「どっちにしてもあんまり酔わないから飲まない」


結局、忍も強いらしい。

アルコールの恩恵(?)を受けたことがないようだ。


「わざわざこうやって飲みに出ることってないけど」


森さんは背もたれ代わりになっている不知火に食事を分けながら言う。


「たまに宅飲みするのは楽しいよね」

「え、意外……」

「そうでもしないとほろ酔い状態になっているかもわからないんだ、私たちは」


ちょっと気、抜けよ。


「司さんも現場にいたりするんですか」

「司くんも誘えば一緒に飲んでくれる。特に森ちゃんが誘えばほぼ100%」

「……お前ね」


前に絶対そこはいじるなと、いじる人間は選べと言っておきながら、言いよった。


司さん、黙殺。


「でもだからといって、凄く酔うというわけではなく」

「時間の経過とともに酔いが覚めるから、そこに補充しても上限突破しない」

「……なんか便利だな、お前の友達」


意味は通じたのだろう。

ため息をつく司さん。

以心伝心というか、思考回路が一致しているのか、二人で一言みたいな感じになっている。

実際、今日の忍は社交場にもかかわらず、出力はいつもの口数の半分以下で済んでいる。


一方で、気が合うってこういうことなのかとちょっと感心してしまう。


「もう一木くんはつぶれたし、シスターと公爵は飲み比べになってるし、秋葉と司くんも普通に飲んだら?」

「飲んでる。普通に観察してるから問題ない」

「じゃあ普通にしゃべってよ」

「……どういう意味?」


多分、黙ってないでくださいという意味なんだろうが聞き返してしまう。


「通常運行だなと思っているだけだ」


その頃、時計は9時を回った。


「1時間ちょいか……時間的にはちょうどいいね」

「帰るか」


健全!

遊ぶことは遊んでたけど、一次会で9時で帰るって普通に健全!


不知火がお帰りの気配を察したのか立ち上がった。


「公爵ー 上がりますけどどうします?」

「あ? もうそんな時間?」

「あら、貴方もお帰りですの? 勝負はついてませんが、尻尾を巻いてお帰りになりますの?」

「っざけんな! 最後までやるぞ!」


帰る気がない模様。


「秋葉、どうする?」

「ここにいても、何も対応できる気がしない。帰る」


宣言通り、忍が会計をして店を出る。

今回はそろって女性陣がおごってもらうのが苦手というので、割り勘ということになっている。


「結局、酔っ払いを何人か観察して終わった。懇親会って言わないよな、これ」

「何か甘いものが食べたい」

「さっきの店で頼めばよかっただろ、ファミレスで二次会でもやるの?」

「「「…………」」」


あれ。

意外とみんなその気?

というか、これパターンなの?


「パターンではない。ただ、ありだなって思っただけ」

「お前人の心、読まないでくれる?」


読んでない、というが時々妙に鋭いので、実は何かそういう術式とか情報知ってるんじゃないかと思うオレ。


……酔ってるな。


「お酒はもういいけど、少し口直ししたいね」

「まぁそういうことなら……」


司さんはむしろ平常時に戻っている。

本当に、さっきの会はなんだったのだろうか。


もっとも一木にしても残った二人にしても、いつもではありえないメンバーだ。

それなりに有意義だっただろう。


ならオレも最後くらいは有意義に締めて今日は安眠したい。


「じゃ、そこのファミレス入るか」


率先して、ガラスドアを押した。


結局いつものメンバー+1人と一匹。



和やかに、その後の夜は過ぎた。

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