(おまけ)‐その舞台裏で‐

特殊部隊……というか、護所局には監察という部署がある。

正しくは、護所局の中の警察機構に属する組織である。


事件の際は、調査に入る専門の機関。

人と神魔が入り混じるこの時代では、実地で情報を集め、かつ危険な場所へも潜入捜査、なんてこともある。



逆スパイみたいなこともする繊細かつスリリングな部署である。



とは、宮古氏談。


「するとしーちゃんは、情報局の管轄する情報を独自に当たってくれるというわけか」

「進捗によっては派遣依頼も出る予定ですけどね」


忍はまさかの宮古進と会っている。

たまたま街で「みかけられて」絡まれているわけではない。

警察側での調査は、彼ら監察の仕事であることを知っていたからだ。



司がわざわざ自分を釣り上げたのは、そちらの進捗が芳しくないからだろう。

細かい情報は持っていても、決め手に欠ける。

おそらくはそんなところだ。


けれど、彼らが持っている情報を知っておく必要はあった。

情報局ではわからないこともあるだろうし、何より同じ情報を探すなんて、二度手間は省きたい。



「しかし、白上のやつ……わざわざ情報部の人間を危険にさらすようなまねをすることもないだろうに」

「いや、これ私が勝手に動いてるだけなんで」


そう言って、大通りのベンチで買ったばかりのペットボトルを渡す。

自分の分も封切って一口、喉を通した。


「彼は私が足を使ってまで調べだすとは思ってないと思いますよ。あとで気づくとは思いますが」


その通りなのだが、すり合わせはその後していない。

忍の方が、動き出すのが早かった。

何せ、その日の内だ。


最優先でそこから、というのがすでに脳内にあったのは確かだが、戻る道すがら、宮古をみつけて街中で声をかけ、今に至る。



「だが、いくらしーちゃんの頼みでも、我々にも秘匿権があるからな……」

「監察は情報の扱いに一番、神経使うところですもんね」

「そうなんだ。意外とそこをわかっていないやつが多くてな」


ため息をつきつつ、仰ぎ見る。

宮古は街路樹の緑の間、落ちる薄い木漏れ日にやや瞳を細めた。



意外と固い人間だ。

普段の宮古からなら、誰もがそう思うだろう。

だが、忍は割とすんなり受け入れる。


受け入れて……


「司くんだったらそこは、神経を使った上で話せるところは話してくれると思いますが」

「……! あいつと比べられても困るぞ、しーちゃん」


むっとさせることに成功した。

いや、間違っても不愉快にさせることが目的ではないのだが。


「それくらい柔軟に、宮古さんなら判断できるだろうなぁという話です」

「当たり前だ」


下げてからの、上げ。


これも別に、狙ったわけではないが、ナチュラル、無意識に忍は会話を続けている。


「どうせめぼしい情報が集まらなければすぐ合流ですよ。書類が出るか出ないかの差じゃないですか」

「まぁ……そう言われれば、そうだな」


司の前にいるのとは、別人のような人聞きの良さだ。

一体、どのような確執があるのだろう。


……あまり興味はなかった。

一方的に突っかかっているところを見れば、そんなものは無きに等しいことはすぐわかる。


現に司は、一切宮古の相手をしない。


「いいだろう。飲み物の礼に話をしよう」

「そんなものでいいんですか?」


暑いからベンチに座って話す。

その間も考えて差し入れただけで、他意はない。

随分、安上がりな人である。



忍はしかし、そう言って至極良心的な聞き返しをしたことを、直後に後悔する羽目になる。



「……他にも何か請求していいのかな」

「……」


よくないです。

なんとなく先が見えたが、今更この状況では言い辛かった。


「何かしてほしいことでも?」

「髪型のアドバイスをしてもらったところで、今度は髪留めに凝ってみようと思ってな。しかし、センスがなくて良くわからん」



私にも分かりませんが、リボンで済ませていいですか。



「とりあえず、その辺りの店で何かみつくろってはもらえないだろうか」


そんなことだろうとは思ったが、今度は小物で来るとは。

ちょっと意外だったが、髪型については遊びつくしてしまった感があるので、話を聞いた後は、それはそれでちょっと面白そうだと思った自分もいる。


「いいですよ。私で良ければ」

「本当か! いやぁ、なかなか男一人では見づらい売り場でもあるからな」


プレゼント仕様にしてもらって、ごかますとかいう頭はないらしい。

変なところで羞恥心を持っている人である。


「リボン一本でも、組み方でいろいろできるのでは」

「! なるほど、結ぶだけではないということだな?」


森のお気に入りの組紐は、司が買ったものである。

森は宮古のように髪が長いが基本、邪魔にならなければさほど頓着しない。

単にバレッタが壊れて、買いに行くのを面倒がっていたのを見た司が、たまたま目にしたそれを買って渡した。


長年の付き合いだけあって、趣味はよくわかっている。

緻密な飾り結びのそれを森はとても気に入った。


程度の話なわけだが……




なんでこうも、白上兄妹と正反対な固執っぷりをみせるのだろうか、この人は。




それが、さらなる確執の見えざる原因のひとつかもしれないが。


「じゃ、さっそくそこの店でも見てみましょうか」

「有難い。実は、ここのところずっと気になっていてな!」


髪留めなんて、100均から雑貨屋、デパートまで今どき、どこででも手に入る。

しかし、せっかくなので忍は息抜きがてら、嬉しそうな宮古につきあうことにした。



…………短い髪の忍と、長い髪の宮古。

それを見た人間は、しかし女性が男性に髪留めを選んでいるなどと言うことまでは、考えなかっただろう。



宮古 進の明日はどっちだ。

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