そこにいる理由(2)
「妹が……まだ制度も確立されていないような頃に話を受けてな」
「妹。……
「そう、忍に性格が似ている、というのは話の中から薄々気づいているだろう?」
うん、わかる。
そもそも司さんの妹が忍の友人だったわけで、あの忍と意気投合するとか女子としてはけっこう、イレギュラーなのは想像がつく。
それが分かってきたころ、オレは司さんが忍の扱いになんとなく慣れている理由もわかった。
……つまり、似ているらしき妹さんの言動にこの人は人生の相当期間、つきあっているわけで。
免疫があるということなのだと。
それで、妹さんは割と抵抗なくこっちに来たがった?
……でも来てないよな。
そんな話は聞いたことがない。
とりあえず、オレが頷くのを見て司さんは話を続ける。
「そんな感じだから、喜んでこっちの世界に飛び込みたがってな」
ここまでは想像通り。
「俺は止めた」
うーーわーーーー
すっごい想像できる。
「当時は制度どころか神魔の立ち位置さえよくわからない状況だったし、危険なことが多すぎる気がしていたんだ」
その通りだ。
オレだって、訳が分からないまま放り込まれた世界であって、普通の友人が興味を持ったら全く勧めはしないだろう。
「よく止められましたね」
今現在こちらに来ていないということはそういうことだ。
「そう、普通の方法では無理だった。だから俺は、実力行使に出た」
司さんが実力行使って。
「まさか……」
脳内によぎる、ひとつの可能性。
「俺が先に入って、興味の対象を逸らしたんだ」
やっぱりかと言っていいものか悪いものか。
話を聞いていると色々と興味はあるだろうから、思ったほどは、みたいな展開にもっていけば確かになんとかなりそうだけど…
あるいは、それなりの駆け引きはあったのだろう。
いずれにしても、想像は割と容易だ。
というか、それもう人身御供って言いませんか。
「で、でも情報部門とかならまだ危険は……」
「森が興味を示したのは『武装警察』の方だった」
それはやばい。
普通に家族として、必死になって止めるレベルだ。
「情報部門にはすでに忍がいたからな」
……あれ。
「えっと、司さんの妹さんて、忍とは2年以上前から……?」
「あぁ。あいつが情報部門に入る前に、内々の話が来ていて」
………………………………。
オレは、そこまで言われてようやく首をくくりたくなった。
「……その話を持ってきたのって……」
「忍だな」
オレ→一人じゃ無理。誰か巻き込まないと
→いた。こいつなら(二度目)
忍 →割とあっさり了承。
→それなりに面白そう
→せっかくだから興味ありそうな人に声かけるわ
森さん→面白そう
→せっかくだから違う部署に。
→武装警察とか。
司さん→ダメ。絶対。
→人柱。
なんでオレは今まで気づかなかったんだ。
いつもどうしてこの至極良識的な人がこんなところにいるんだろうとは思っていた。
思っていたが……
すべての元凶はオレだった。
ガン。
オレの脳裏には、テーブルに額を打ち付けている自らの姿がよぎっていた。
そうか、それで忍は知らない方がいいと言ったんだな。
うん、知らない方がよかった。
どうしたらいいんだよ、この微妙な関係。
司さんなら他の道でも真っ当に歩めたであろうこの時代、その未来を歪めていたのは
まさかのオレかーーーーー……!!
正直、日本の未来より、この人の未来を歪めたことの方が、今のオレにとってはすごく、重い。
確かに、オレは忍に声をかける際、オレなりに土壇場で「ほかに誰かいるなら紹介しろぉぉぉ!」というような絶叫をした覚えがある。
覚えがあるだけに……
(ある意味)終わった。
「俺も秋葉と忍につながりがあるのを知って、薄々は気づいていたんだ。でもまぁ、それを言っても仕方がないと……」
ガンガンガン。
脳内のオレはひたすら、すみませんといいながらテーブルに頭を打ち付けている。
そんな目立ったことはされたくないであろう、司さんの許容応力が逆に痛い。
だらだらと汗をかきそうな閉口しっぱなしのオレを見かねてか、司さんは一口飲み物を口に運ぶと話をつづけた。
「だからこの話には、もう触れなくていい」
「えっ、あ、すみません!」
そしてそこで初めて謝罪の言葉が出せた。
「まさかオレが司さんまで巻き込んでいたなんて……」
「だからそれをなるべく言わないでほしいんだ」
なぜか逆にそう言われた。
思い出したくもないってことか?
だとしたら本当に終わっている。
オレ、この先、護衛についてもらえるんだろうか。
しかし、そういうわけでもなさそうだった。
「森も忍も、そのことをすごく責任に感じていて……」
「え……」
全くそんな風には見えない。
だが、確かに司さんについては事情を知っている割に、そんな話は一切したことがなかった。
オレが間接的に巻き込んだというのなら、格好のネタになると思うが……
「俺が初めて怪我をしたときに、真っ先に病院へ駆けつけてきたのが忍だったんだが」
「司さんが怪我!?」
出会ってからのイメージしかないので、いろんな意味を込めて声を大きくしてしまう。
対して、司さんの声は静かだ。
「秋葉……俺はそういう仕事をしているし、当時はまだ実験段階的な組織で、今ほど色々行き届いていない。その上、実戦の場数も踏んでいないんだから怪我くらいして当然だろう」
本人が悟っているほど、心苦しくなりそうだ。
ちょっと忍の気持ちがわかる。
「特殊部隊で負傷者が出た話を小耳にはさんで、まだ公式情報が出回る前に、越権パスを使ってリストを確認したらしい」
「越権パスってなんでそんなもん持ってるんですか、あいつ」
「さぁ、今は変更されて使えないそうだが」
いや、大事なのはそこじゃないです司さん。
当時はセキュリティが脆弱だった……あちこち破壊されて物理的にも不足していたせい、ということにして流そう。
「でも怪我って。森さんにも知らせたんですか」
「いや、確認をしないと混乱をさせると。それで一人で来たんだ」
即時駆け付けた割に、そこは冷静だ。ちょっと安心する。
「俺は軽傷で片手を吊ってるくらいだったんだが……」
片手吊ってるって、結構痛いよね!
そんなさらりと言っちゃうんですか。
続きを待つしかない。
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