天国のその下で
1.お近づきになりたい理由(1)
最近……ダンタリオンの奴が、妙に司さんに馴れ馴れしい。
馴れ馴れしいというのもちょっと違うか。
懐いている、というのも違う。
何といいのか……
「ツカサ、ここじゃ護衛なんて必要ないんだから座って休めよ。銀座のパーラーから取り寄せたフルーツもあるぞ」
「……いえ、職務中なので」
「そんな固いこと言わずに~」
媚びている。
……性格的にはそれも違う気がするが、だとしたらこれは一体どういうことなのか。
ただ、急にお近づきになりたい感はすごく伝わってきた。
だから司さんが逆に退いている感じでもあるんだが。
「お前なんなの? 何企んでるの?」
「企むってなんだよ」
「今日は用があるからオレ、呼んだんだよな。ここじゃ護衛も必要ないって自分で言ったよな」
今日のオレは、鋭い。
「護衛が必要ないのに、なんで司さんを指名してくるんだよ」
大体、こういう時は厄介な話のことが多い。
警察がらみの案件で、結局神魔がかかわるからオレも巻き込まれる的な。
だがしかし。
これが最近しょっちゅうだ。
普通に、事件も何もないのは丸わかりだった。
「常日頃、緊張にさらされている馴染みの人間を労って、休んでもらおうというオレの配慮」
「だったらまずオレを労え!!」
「お前は緊張にさらされてないだろ~?」
へろりと言ったので、反論するも更にへろりと返されただけだった。
確かに、司さんに比べたら緊張感なんて千分の一にも満たないかもしれないが……
負けるな、オレ。
「司さんだって忙しいんだよ。お前のお茶会とかに呼ばれてばっかいられないの!」
「一応、仕事じゃないか。外交官殿と交流を深めるためのお茶会。その護衛」
「この状況は、明らかにオレの方がおまけ状態だろ」
言い合うオレたちを眺めて司さんが小さくため息をついた。
「司さん、いいんですよ。はっきり言って。こいつにはむしろはっきり言うくらいがちょうどいいんです」
仕事だから、不満ごとを言わないのでオレが代わりに言う次第。
「お前と違ってツカサは礼儀正しいからな。仕事に手抜きがないんだな」
「人生手抜きっぽいお前に言われたくない」
「そのまま返す」
話が進まない。
「大体、司さんだって薄々気づいてるんでしょう?」
はっきり言った。
「何かおかしいって」
「……まぁ、そうだな」
それで態度がいつもより一歩引いているのだ。
大体、不法賭博場の一件で割と溝が出来るようなことしておいて、今更その態度は。
そうでなくとも司さんは距離を取ることで悪魔から放たれる甘言を、ことごとく回避している。
それがオレにもわかるレベルであることを認めて、素直に答えた。
「ほら見ろ」
「何言うんだツカサ。ツカサもシノブも秋葉以上にもう馴染みがあるだろ」
「オレ以上ってなんだ」
ことごとく比較対象にするんじゃない。
「態度があからさまなんだよ、言いたいことがあるならはっきり言った方がいいんじゃねーの?」
ダンタリオンはオレにそういわれて司さんを見た。
「そうだな、この状態を続けられるよりは早いかと」
きっぱりと返す。
うん、時間的に相当ロスだもんな、この公爵の相手は。
「なんだよ、ツカサまで……ただ、オレは……」
神妙な顔してもきっとろくな事情はあるまい。
「ツカサと仲良くなっておけばリミッターを解除してもらえるかと思って」
「「?」」
ろくでもないことだけはわかったが、言っていることはわからなかった。
「……何の話ですか」
とこれは司さん。
司さんも殊、前回の一件から、ダンタリオンの前だと時々ノー敬語状態になることが多くなっている。
それに関しては、自業自得だ。
しかし、これは普通に距離を取っているわけではなさそうな雰囲気。
「何って……特殊部隊の人間は、非常時に特定の神魔の力に対する制限を解除できるって話だよ」
回りくどいやり方をしても意味がないと理解したのか、ダンタリオンは元の不遜さをもって背もたれに体を預けて腕を組んだ。
「この国じゃ、治安上どの神魔も制限を受けてるからな。『有事』の際は、協力って名目で、制限解除してもらえるってウワサ」
「そうなんですか!? 司さん」
「お前、なんでオレにはため口なのにツカサには敬語なんだ……?」
そんなの、普通に敬意を表する相手かそうでないかの違いに決まってるだろう。
放っておく。
「噂だな。事実ではない」
「そうなのか!?」
今度はダンタリオンから驚愕の声。
「そういう案も一時あったようですが、結局、解放した神魔を制御できなくなる危険性、それから 甘言 に乗って解除してしまう輩もないとは限らないので廃案になったはず」
……今、まさにダンタリオンのこれまでの行動が暗に、諫められている。
ざまを見なさい。
「…ちっ。情報が古かったか。アンダーヘブンズの情報だから信憑性は高いと思ってたのに……」
あからさまな舌打ちが聞こえた。
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