長髪と絶叫マシンの関係性について

良識の防衛ライン(前編)

警察の仕事は多岐にわたる。

オペレーティングから実働部隊、監察なんて言うものもある。

その中に特殊部隊なるものが編成されのは大分前。

その人たちも増えてきたと知ったのは割と最近だ。


「で、どうして警察には変な人が多いのかな」


忍は割と冷静にその男の眼前に立っていた。


「絶対的に多いわけでなくて、目立つのがこういうタイプだと思ってほしい」


例によって良識代表みたいな司さんが、切に説いている。


「旧時代の常識人より、当時はイレギュラーだった人間の方が今の時代に適応しやすいからな~ まして戦闘要員なんて、古い常識引きずってる人じゃなれないだろ?」


だから、変人の比率は多いんだ。

説明を継いだオレは司さんに配慮して口には出さないことにする。

伝わっていると思うが。


「新しい時代に新しい感覚の持ち主こそが力を発揮する。フッ、正論だな」


そう言って男は不敵にほほ笑んだ。


「でも、今の時代でも一般人の男性で長髪はどうかと……」

「ていうか、なんでお前は司さんにつっかかってくるんだよ。……誰?」

「私は宮古みやこだ! 未来の総括司令の顔をよく覚えておいた方がいいぞ、小僧ども」


小僧呼ばわりされるほど年齢離れてるように見えねーよ。


そいつは監察に所属しているといった。

実働部隊の中心になる統括にも所属する司さんだから、普通に敵対心を燃やしているだけのようだ。

現れるなり立ちふさがって、久しぶりだな!から始まってしまった一連の一方的なトークがひと段落着いたところでこの始まりである。


「そもそも部署違いみたいだけど……特殊部隊っていきなり総括異動できるんですか?」

「一応、監察の中の諜報部員のようなものだから、適性があればできるんじゃないか?」


他人事。


「おのれ、白上! 下の者には目もくれぬということか!」

「司さんはそんな傲慢キャラじゃねーよ」

「人に対しておのれ、とかいう人は2年前には架空の人物くらいだったと思うけど、この人、漫画から出てきたの?」

「神魔の世界と同じように二次元との境界があいまいになったのかもな~」


のんきに話し続けるオレと忍。

危機感がないのにはもちろん、きちんとした理由がある。


「そのようなわけがないだろう! 今は実力がすべてを言う世界……この国だとて例外ではないのだぞ!」

「要するに司くんを目の敵にしているのはわかった」

「だったらそこをどかないか!」


わざわざ間に立っているのにも理由がある。

司さんは相手にしたくないようだが、あまりにもつっかかるので防衛線になっている。

いつもなら危険に対しては逆だが、たまには恩返しに壁になろう。ある意味、めんどくさいだけで危険はないようだし。


「用があるならそこからどうぞ」

「お前たち非戦闘要員が、目の前に立ちふさがったところで何の障害にもならんのだぞ」


脅しのつもりか刀の柄に手をかけた。


「護所法第27条。武器を所持する者は理由なしに人間を相手に刀を抜いてはならない」

「内規にもうたわれているな」


いえ、人として基本事項だと思います。


「実力世界だというなら才覚があればすぐに上ってこられるだろ、俺に突っかかる必要性がわからない」


いえ、ただの嫉妬です。


他人と比べて武勲がどうの無興味な司さん。

そもそもなぜ司さんがこんな時代に警察になんてなったのか、時々疑問だ。

のらくらと壁になっているオレたちを前にうーと唸って歯噛みをしている宮子。


野良犬か。


でもこのタイプは法律関係なしに刀振り回しそうだから、厄介そうだ。


「とにかく用がないなら行ってくれよ。オレたちは人待ちしてんの。仕事中なの」

「どんな有能でも人間相手に武力行使はできないことは分かってるからとりあえず、邪魔の邪魔します」

「じゃあ私は邪魔の邪魔の邪魔をする!」


馬鹿だ。


「そもそもこのご時世でも長髪ストレートは狙い過ぎだと思うんだ。刀武装していて黒髪長髪なんて、何か狙っているとしか思えない」

「髪型なぞ個人の自由だろう!」


問題が原点回帰した。


「絶対いるよね、黒髪長髪好きな女子」

「むしろどんな作品にも一人は黒髪長髪ストレートの男キャラっているよな。あれってやっぱり女子受け狙ってんの?」

「作者に聞かなきゃわからないけど、テンプレだとは思う」


司さんは会話に参加してこない。

場を任されたのか、ふつうに参加する必要性を感じていないのかは謎だ。


「テンプレであれば、着物姿も更にありというものだろう!」


自分から研究熱心である旨を白状した。


「うーん、テンプレをなぞるだけじゃ他作品とのキャラかぶりで終わるよ」

「ジャ〇プでよくいそうだよな。オレ今、誰か思い出したもん」

「黒髪長髪ストレートなんて、ジャ〇プでなくてもあちこちに散逸している設定だ」


そうかもしれない。

思い当たる節があるのか、宮古と名乗った男は黙り込んだ。


「それに武装前衛で長髪とか、邪魔じゃない? 戦闘中に振り返ったら視界を遮りそうだし、今どき絶叫マシンでさえマフラーなどの着用は危ないから禁止されてるよ」

「絶叫マシン」

「ひっかかったら最悪死ぬる」


何それこわい。


「……確かに、戦闘に支障を生じそうだな」

「真面目なとこだけ拾い上げないでください」


とこれは忍のつっこみだ。

でも考えてみれば、確かにデメリットしか挙げられない。

職務上、ロン毛にする意味が分からない。

なんだか遠い目で司さんとオレは同時に、見た目王道設定を行く宮古を眺めた。


「なんだその憐みのまなざしは!!」


本人からはそう見えたらしい。


「このつやつやちゅるっちゅるの髪を見ろ! 男なら短髪だろとかそれ自体が旧時代の価値というもの!」

「男なら短髪だろ」


即、返し。


「忍……」

「個人の価値観です。これは時代じゃない。私は短い方が好き」


初対面の女である忍に言われてぐっと一歩下がる宮古。


「だから別に、長髪が好きな人がいてももちろんいいけど、周り見てみ?」


思わず周りを見渡す。

普通の街並み。そっちじゃない、と前を向いたまま忍に言われる。


「2年前、確かに日本は変わったよ。でもね、組織で働いてる人の中で、警察の中でそんなに長髪な人って、いる?」

「「……」」


司さんと宮古の沈黙。

そういえば、2年前を境にしてもこちら、勤め人でこんな長髪はいない。


「そんなに髪伸ばしているのは自由業で趣味の人か芸能人、アーティスト……少なくとも組織人には未だもかつても一定の規範が求められている」


ずどん。


何かが突き刺さった音がした。真理の矢であろう。

忍にしてはものすごく真っ当なことを言っている。


「だからキャラを立たせたいなら、もう少し工夫をした方がいいんじゃなかろうか」


そっちかよ。


「例えばどんな風にだ」


しかし、その男はくいついてきた。


「とりあえず、ポニテにしてみては」


それなら流しているより邪魔にならないというそれっぽい理由もつけたので宮古は是が非もなくそそくさと髪を結いあげた。

ていうか、バンドは持ち歩いてるんだな。


「こんなふうにか」


バーン。

そんな擬音がつきそうだ。

制服、吊り上がったまなざし、黒髪ポニテに刀……


「お前、アレどう見てもジャ〇プ産だろ。 見覚えあるぞ!」

「時代物でも出て来るんじゃないかな。それにあれは連載開始はジャ〇プだけど移籍したんじゃなかった?」

「……今更だけどお前ジャ〇プ読んでんの?」

「高校辺りで卒業しました」


成人したころから雑食になってねーなどという。


「図書館に行くと背表紙だけ端から端まで眺めるだけで2,3時間はかかってしまう」

「どういう過ごし方なんだよ…」


本当に雑食だということはわかった。


「これはなかなか悪くないな、ビジュアル的に、時代にも合っている」


ショーウィンドウに映った姿をポーズを微妙に変えつつチェックしている。

他人の振りをしてもいいだろうか。

いや、他人なんだけど。


「やめとけ、色々やめとけ。同性からの忠告だ!」

「そうだね、どんどん被りキャラが限定されていくだけだもんね。じゃあ異性からの助言」


オレのいうことに聞く耳もたないやつが、忍の言葉に食いついている。

これもう、警戒の圏外だろ。

明らかに忍の中で警戒対象から遊びの対象に切り替わってしまっているのがわかった。

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