3.ミーハー警官と現実の誤差(1)
今日は新任の大使への顔出しだった。
とはいえ、本日の「はじめまして」は悪魔系だ。
割と狂暴な伝説が残るヒトなので、司さんが護衛についてくれた。
「何事もなくてよかったな」
「……いえ、司さんがいたから結構牽制かかってたみたいですよ」
「そうか?」
謙虚というか、こういうことにはあまりこだわらない人だ。
オレよりもむしろ司さんが相手の警戒対象、というかこの人いたらうかつな言動はできない、みたいな緊張感が漂っていた。
司さんからすれば問題が起こらなければそれでいいという感じで、特に相手にプレッシャーをかけていたわけではない。
司さんをはじめとするこういった時に護衛官として随伴してくれる人たちは、護所局直轄の警察組織に所属している。
オレが所属している外務関係が先立って組織されたので、実際会ったのはそこから数か月遅れだが今は割と上からの指名率が高いのでこうして一緒に歩くことが多い。
いくら親日と言えど初対面の神魔と会うのはものすごく気を張る。
なんとなく冷静でいてくれる司さんは、無理やり放り込まれたこの環境で割と良心だ。
「秋葉せんぱーい」
「……またあいつか」
町中に出ると、後ろから一木の声が聞こえてきた。
一木も警察。
街を同僚と組んで巡回する「おまわりさん」だ。
元々ものすごくミーハーで、そういう理由で神魔と関わる仕事に進んで就いたらしい。
オレには理解できない動機だが、神魔との最初の接触者と言われているオレには無要な敬意を抱いているらしい。
隙あらば神魔との話が聞きたいようで、会うたびにそんな話をせびってくる。
振り返ると、早速駆け足でやってきたその足がぴたりと止まった。
「……」
珍しい。
無駄に好奇の塊のような笑顔が消えて、挙げられていた手も下ろされる。
その視線は、司さんへ向いていた。
「…………」
何、その沈黙。
「あのっ、警察隊の人ですよね!?」
なぜか、聞いた。
確かに司さんは、主に人間側の治安を維持する警察……天使が現れる前の警察の延長である一木のものとは違う制服を着ている。
一木がいかにもな黒い制服なのに対して、司さんの制服は白い、上着はコートのような造りになっている。
だから、確証はなかったのだろう。
オレも初めて会った時は、そのことに違和感は覚えた。
が、単に服装の話でありそれだけの違和感だった。
「あぁ、そうだが……」
制服が違うのは所属の違いでよくあること。
大きく所属が違うので、一木と司さんは当然のように面識はない。
一木はその答えを受けて、ちょっと考えるような間の後、視線を下ろした。
その先には、司さんの刀がある。
基本、現在の警官は銃はもちろん、刀剣、その他あらゆる武器の携行が許されている。
神魔と人間の間で何かあった時に、旧規制では対応できないからだ。
武装は各々、扱いの得意なもので良いのだが、さすがに規制が変わってから2年で刀を持つ人は多くない。
趣味か、それまで何か習い事をしていた人間か、あるいは……
「刀、ですね」
むーん、と腰をかがめて近づいて見る。
ぶしつけだろうが、こいつの趣味の圏内だ。
オレに降りかかるわけじゃないんだけど、嫌な予感。
「本物ですよね、ちょっと見せてもらえませかっ!」
「駄目だ」
あっさり断られた。
「一木、お前も刀持ってるだろ? そんなにテンション上げることないだろ?」
見回り組は元々有志の人間、つまりミーハーな人間も多く、それだけに刀剣の普及もそれなりに早かった。
「だって、この人の……あ、すみません。オレ、一木秀平って言います」
「白上 司だ」
「あっ、先輩の話してた人ってこの人ですか!」
あまりねだられるので時々は話してやることがある。
大体一緒に行った護衛官がお前よりすごいというオチで終わらせているのだが、司さんのことはオチではなく、本心から別格じゃないかと話したことがあった。
それをこいつは覚えていたらしい。
「俺の話……?」
視線がオレの方に向いた。
「いや、ただ司さんがいると心強いって話ですよ。こいつと比べたら話にならないって」
「……人のいないところであまり話をするのはやめてもらえないか」
「すみません……」
褒めているのだから、悪いことではないのだが、今回に限ってはわかる。
司さんも多分、そのことを言っている。
藪蛇だった。
すっかり一木の興味は司さんへ向いてしまった。
オレが余計なことを話したばっかりに。
「白上……司さん、その刀。かなりの業物と見ました! ぜひ見せてください!」
きゃーー!というかつて一世風靡した刀剣女子に近いテンションでお願いをしている。
黙って首を振る司さん。
正解です。言葉で相手をしていたらこいつ、キリがないです。
「業物って、お前そんなの分かるの?」
素朴な疑問。
一緒に見回りをしていたやつらも集まってきた。
「わかりません!」
じゃあ、なぜ。
「でもその制服……本物ですよね?」
ものすごく興奮したように一木は改めて、司さんを見た。
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