とある魔界の公爵と外交官の一日(2)
「ほら、今度こそ魔界産の果物だぞ、珍しいだろー」
ダンタリオンが忍を懐柔している。
というか、いつもこんな感じだが。
「白いですけど、太陽が当たらないとかそういう理由ですか」
「どうだかな。そういわれると考えたことない」
こういう人間だ。
相手が魔界出身だろうと神様だろうとあまり気にしない。
現在は情報部門に所属している。
そこは自分で選ばせてもらえたらしい。
といっても、神魔との協定が動く際に新設された「護所局」の中では外交、情報、警察の3つが機能の大部分を占めるから三択だったらそこが無難だろう。
自分でも言ったように対人関係はあまり好きではないようだし、警察ははっきりいってこのご時世だと武装必須、戦闘スキルも最低限必要、みたいな感じになるのでいきなり入れと言われても無理な話だ。
……魔界のフルーツ見て、色素がない理由とか疑問に思うあたり、ふつうに情報部門で向いている。
「……甘くておいしい。というか、栄養は一体……」
聞かない方がいいんじゃないか。なんとなく
「秋葉もいただいたら」
「遠慮します」
「なんで。普通においしいよ?」
魔界産である時点で、普通とは言わない。
黙してそんな目線で答えていると、ダンタリオンは上から頭を押さえてきた。
「今どき、各神界やら魔界から果物くらい輸入されてるっつーの。公爵クラスがゲテモノ食うわけないだろう!」
ダンタリオンは読心の能力を持っているので、読まれないようにその手のフィルター機能をONにしてある。
しかし、普通に会話の流れとして、読まれた。
「食わず嫌いだよね、私もゲテモノは嫌だけど果物なら興味あるなぁ」
「シノブは好奇心旺盛だな。今度魔界ツアーでも企画して一緒に行くか? 日本語っぽく言うと『地獄めぐりの片道切符』とかだろ?」
「片道でどうするんだよ、帰ってこられないだろうが!!」
「往復切符、添乗員付きだったら参加します」
するな。
「もうそれはいいから。今日は仕事なの。オレは仕事で来てるの。仕事を早く終わらせて早く帰らせてください、ダンタリオン公爵閣下」
「……なげやりすぎて今日は帰れないくらいの勢いで対応したくなくなったな」
「大使館に泊まれるとか、けっこう興味ある」
やめて。
「警護の人も待ってるだろ? あんま待たせたらかわいそうだぞ」
こういうところは忍はきちんとしている。
それもそうだね、と仕事モードがONになった。
通常、外交と言っても護所局の相手は主に神魔なので、それなりに護衛官がついてくる。
いつも同じ面子というわけでなく、相手のレベルに応じてなのだがダンタリオンの場合はすでに親日で通っているので今日は名目上、着いてきてくれているという感じだ。
そもそもオレのような外交官は認証カードを持っているので、割と自由に出入り可能な大使館が多い。
2年前までの制度と違って大使館は「治外法権」でなく、普通に日本国内の施設で大使が駐在している、程度の立ち位置だ。
人間の国同士はあれやこれや。本国の機密情報もありそうな場所だから、見てほしくないものがあったのだろうが神魔となると特にそれもない。
勝手に来て、勝手に住みやすそうなところへ住んでいるというか。
まだ基盤が完成しきっていない頃には、自分で館を作ってしまった神様(ヒト)もいた。
いきなりインドチックな建物が東京のど真ん中に現れた日には、慌てて日本側が景観に合わせるようにとお願いしたとかなんとか。
日本好きで来る神魔も多いわけだが、別荘地じゃないことをまず、理解してほしい。
そんなわけで今日の仕事は、ダンタリオン公爵からの情報提供を受けること。
各国がズタズタの状態なので、人間の伝手で情報はほとんど入ってこないのが現状だ。
この先も、伝達手段がやられてしまっているからには他国がどうなっているのか知ることは難しいだろう。
こうなってしまうと知る必要はないのかもしれないが、天使については完全に襲撃してこないとは言い切れないので国の方も、各地の被害状況を押さえておきたいらしい。
そこで頼りになるのが、神魔のもたらす情報だった。
「……というわけで、N国についてはほぼ壊滅。ただし、あそこの宗教は隣国にも普及してるから神魔関係は生き残ってるみたいだな」
忍が持参した端末に口頭筆記よろしくリアルタイムで入力をしていく。
確認事項はそちらにすべて控えてあるので、事実上、公爵と忍の情報のすり合わせだ。
それが目的で今回はこいつを連れてきている。
そしてふと……話題が途切れると二人の視線がこちらに向いた。
「……何?」
「仕事終わらせて早く帰りたいんだったよな」
「そうだけど」
「お前何もやってないじゃん」
相変わらず、腹立つ。
「そうですよ、今日はそいつを連れてくるのがオレの役割です。大事な橋渡しの仕事ですね」
言ってやった。
「ほほーぅ? 大事な橋渡しか……じゃあ、今日は土産をたくさんくれてやるから帰ったらみんなで食べてくれ」
嫌な予感しかしない。
「それってゲテモノ類ですか、ドリアンとかそっち系ですか」
「どっちがいいと思う?」
聞くな!
心の中で半分つっこみ半分お願いの気分で、けれどオレは閉口するしかない。
これ以上何か言ったら、土産という名の嫌がらせが増える。
「とりあえず、持って帰るのが嫌なのでオレがいない時にしてくれますか」
「そうだなーシノブは真面目に仕事してるもんな。ご褒美に何かあげないとな」
何、その格差社会。
「真面目に仕事している人が馬鹿を見ないなんて、魔界の貴族って下手な人間より素晴らしいですね」
「魔界は実力主義だから。真面目に仕事しててもできない奴は馬鹿見るかもしれないけど、そもそも馬鹿見ても仕方ないレベルだから仕方ないな」
褒めるな。
悪魔じみた発言もやめろ。
もう黙るしかないオレは黙ったまま、忍がじゃあ帰ろうか、というまで待った。
割とすぐだった。
……最初から黙ってればよかった。
オレは思った。
外交的な意味では、ここへ出入りすると少しイレギュラーなことが起こる。
けれど在日歴が一番長いだけあって、ここへ来ることが最も多い。
困ったことに。
できるだけ、こいつを連れてきて露払いをしてもらおう。
なんとなく、「無理」という言葉しか出てこないオレは今後の方向性を考えるのだった。
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