第27話 300時間のこよみとのデート
『やほぉぉぉ! 朝から超元気、柔路さんちのこよみです!』
「おう……マジで朝から元気だな。あと近所迷惑だからもうちょっと音量は抑えようぜ」
インターホン越しに可愛くもうるさい声が俺の耳を攻撃する。
画面に映るその顔は、こころなしかいつもより輝いて見えた。
「ほら、そんなダルそうな顔をしないで。私との時間を減らしてまで柔路さんと遊ぶのだから、もっとテンションを高めて楽しんでらっしゃいよ」
「あ、ありがとうございます、氷雨先輩」
むすっとした顔だが、快く送り出してくれる氷雨先輩に軽く頭を下げて、俺は自宅の扉を開ける。
「こ、こよみ、だよな?」
「凄く失礼だね!?」
顔や髪型はいつも通り、ミルクティー色の髪をポニーテールにしているのだが。
「清楚というか綺麗というか……かわいいな」
「んっ……。ま、まあ? 柔路こよみといえばかわいい、かわいいといえば柔路こよみ的なところはあるし? かずくんが絶賛するのも無理はないよねっ!?」
わたわたと慌てるこよみも、今だけは愛らしいと思える。
桜色のカーディガンに、白いワンピースに同じく白のミュール。
THE・清楚という感じで、俺の好みをついてはいたのだが――氷雨先輩を思い出した。
謎の儀式をやらされたとき、氷雨先輩はこんな格好をしていたな。
そんなことを思ってしまったが、さすがにこれから出かける女子と他の女子を重ねるということはあってはならないだろう。
ぐっと感想を押し込んで、俺は口を開いた。
「あ、ああ。無理はないが、自分で言うのもどうかと思うぞ」
そうだ、よく考えたらこいつは氷雨先輩と比べて胸が乏しい族の方々ではないか。
同じ格好をしていても、体型が違えば印象も違う。うん、全然違うわ。
「ちょっとかずくん、なんか失礼なことを考えてない?」
「断じてそんなことはない」
ジト目で俺を見るこよみにノータイムで否定を表す。
こよみはしばらく疑わしげな目線を送ってきたが、こちらも負けじと対抗していたら諦めたようで。
「ま、いいや。……行こっか、かずくんっ!」
こよみは満面の笑みで俺に手を差し伸ばした。
◇◆◇
「ちょっと待て、雰囲気で手を取ったが周りの目線が痛いので外してもいいか」
「だーめ♡」
小さいながらも高い体温を伝えるこよみの手を、俺は手放せずにいた。
やろうと思えばできるのだが、やけに幸せそうなのでできない。
なんであんな陰キャっぽいやつが美少女と手繋いでんだコラ、と言いたげな周りの目線にHP《ヒットポイント》をゴリゴリ削られながら歩く。
「えっへっへっへっへ、みんなかずくんのことをわたしの彼女だと思ってるよ?」
「変な笑いやめろ。あとこよみも害被ってるだろ、笑っている場合じゃないと思うぞ」
「そうかなぁ? 案外わたしにとっては害がなかったりして?」
ころころと笑うこよみに、俺は何もできずにいた。
神様、こよみに対抗できる手段を俺にお与えください。
そんな、神様に祈るような内容でもないことを祈っていると、遊園地に着いた。
「いやぁ、なかなかこういうところって来れないよね。彼ピとデートなう~」
「誤解する言いかたをするな」
門に向かってとてとてと走るこよみに、俺は連れて行かれるがままになっていた。
……でも、これも悪くないな。
遊園地の魔力か、普段こよみに対して思わないようなことを思ってしまった。
「やほー! 来やしたーっ! 遊園地ぃぃぃ!!」
「やめろうるさい」
場内に響くキャンディボイスに、大勢が振り返る。
まだ近いところに人がいなかったら迷惑にはなっていないものの、やはり視線が痛いのでさっさとこよみを連れて移動する。
「あれぇ、ちょっとかずくん強引? ついに俺様系になっちゃったの?」
「違う、自衛だ」
「ぶー」
なぜか不服そうにするこよみだったが、そんな表情はすぐに消え失せた。
「親方ァ! 空から人々がぁ!」
「ただのジェットコースターだろ。あと親方じゃない」
上方を指差して騒ぐこよみに、俺は冷静な言葉を返す。
それでも爛々と目を輝かせるこよみに、俺は言った。
「……乗るか?」
「うんっ!」
子どもっぽい笑顔を浮かべて、こよみは答えた。
300円で拾った生徒会長がやたらと俺に甘えてくるのだが。 日向伊澄 @hasumiminato14
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