第24話 300/2分の計画
「じゃあ、計画を固めるわね」
「ぎょい」
ノリノリで言う氷雨先輩に、俺はルーズリーフとペンを差し出す。念のため持って来ておいてよかった。
「まず、有記さんには現状出回っている情報をすべて吐いてもらうわ」
「ごうもん……?」
「拷問はしないから安心なさい。他の人の公約とか、賛同者の特徴とかよ」
「なるほど」
いきなり怖いこと言うな、この幼女。と一瞬思ったが、こいつは幼女ではなく同い年の高校1年生だった。いや、同じく16歳だとは思えんが。
「その次に、特徴から動かせそうな票を流した情報でかっさらうわ」
「こおりひめ、かっこいい」
「んっ……。そ、そう?」
ソワソワする氷雨先輩。ミコトもご満悦そうだ。
照れ隠しか、氷雨先輩のペンを走らせる速度が速くなっているように感じた。
「うん。マフィアのおやだまみたい」
「褒められている気がしないわ」
途端、ペンを走らせる速度が戻る。
表情には落胆したような様子を見せてはいないが、ちょっと刺さったのだろうか。
だが共感しかしない。
「みぃはどんな情報をながせばいいの?」
「そうね。とりあえず『現会長優しい! ステキ!』っていう感じのストーリーを流してくれればいいわ。できるだけ本当のことを言ってほしいのだけれど、必要なら脚色していいわよ」
脚色していいのか、それ自分で言うのか、という疑問が口を出かかるがぐっと堪える。
俺が口を頑張って閉ざしているなか、ミコトは小さく頷いて言う。
「それならかんたん。だってみぃは、こおりひめにたすけられたから」
満足そうに微笑むミコトに、氷雨先輩は首を傾げる。
「ごめんね、ちょっと覚えがないわ……」
「そうなの?」
若干目を開くミコトに、氷雨先輩は申し訳なさそうに首を縦に振った。
無理はないだろう。校内や校外問わず、いじめやカツアゲを目にしたら止め、アフターケアもきちんとする生活を俺が知っている限りずっと続けているのだから。
恐らくミコトもその一人で、本人にとっては忘れがたき記憶となっているに違いないが、氷雨先輩にとっては何十あるなかのひとつ。範囲を広げるともっとだ。
ゆえに、氷雨先輩を非難することはできない。そもそも人助けしているので、非難しようとする人もなかなかいないだろうけれど。
「そっか、そうだね。でも、みぃはわすれないから。みんなにもひろめればいいんだよね」
「ありがとう、有記さん」
ミコトもそれは分かっていたのか、柔らかい表情を氷雨先輩に向けた。
氷雨先輩はそれを受け、安心の色を顔に浮かべてペンを置く。
「とりあえず、簡単な指示を纏めておいたわ。最低でも週に1回は報告に来てちょうだい。生徒会室で問題ないわ」
「うん」
ミコトは小さい手でその紙を受け取り、折ってポケットにしまった。
お守りを扱うかのごとく慎重な手つきなのが少し気になったが、大事にしてもらえるのはいいことだ。
「それじゃあ、有記さん。また生徒会室でね」
「……うんっ」
今日一番の嬉しそうな笑みを浮かべると、ぺたぺたと小さな足で襖へと向かう。
扉を開けると、ミコトはふっと振り返り。
「あらためてありがとう、かいちょう」
それは、思わず聞きほれてしまうほど美しい声だった。
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