第23話 300/2分の尋問・後
「まずあいつら、ぶかつの仲間にとうひょうすることをやくそくさせてる。予算のかんけいでへいとがあつまってるから、とくにくろうはしてないみたい」
「そのくらいはよくあることだし、警戒する必要はなさそうだが」
「そうね。毎年あるわ」
ミコトが神妙な顔つきで情報を綴るが、俺たちは平常心でそれを受け止めた。
人数が多い部ともなると対抗馬にはなるかもしれないが、氷雨先輩には圧倒的な実績と信頼がある。
何やかんや生徒会長には真面目な人が就任して欲しいと思う人は少なくないので、厳しくも正しいことをする氷雨先輩は生徒会長として魅力的なのだ。
それは氷雨先輩も分かっているらしく「そんなことなら……」と言いたげな顔をしている。
けれどミコトはそれを否定するかのように首を振って、口を開いた。
「そのうんどうが、いようにおおきいの。ぶかつないからそのぶいんの友だちに。その友だちからその友だちに。口コミでひろがってて、全員がせいとかいにはしられないようにするから、せいとかいに近いひとはそのことをしらない」
「なるほど。ちなみに、その規模とかは分かるか? 何人に何人が雅多の支持者っぽい、とか。ざっくりでいい」
不安にさせる言いかたなので、追及しておく。
俺の言葉にミコトは氷雨先輩を見据え。
「だいたい、2分の1」
「「半分……」」
口コミでよくそこまで広まるものだ、と感心すると同時に、冷や汗が流れる。
ミコトの言っていることが本当だとしたら、とんでもない脅威だ。
前回の氷雨先輩の支持率は70%。
そのうちの何%が浮動票で、あとどのくらいの人が氷雨先輩を支持してくれるか。
そのうちの半分を獲れたところで拮抗。
しかし、何も氷雨先輩と雅多だけが立候補するわけではない。そう考えれば、氷雨先輩が取れる票は雅多よりも――。
「なかなかの驚異ね。不良のくせしてやるじゃない」
俺の思考がどんどんマイナスな方向へ向かうなか、氷雨先輩はただ笑った。
否、嗤ったというべきか。
勝利を確信しているのか、はたまたライバルが現れた喜びでか。
理由は俺の知るところではなかったが、彼女のブラックな笑みは美しいと思えた。
「有記さん、あなた、生徒会に協力する気はない?」
「ん」
妖しげな雰囲気を醸しながら、氷雨先輩はミコトに少しだけ近づく。
ミコトは驚いたような顔をしたのちに、ちょっとだけ口角を上げた。
「いいよ。もとから、そのつもり」
交渉は成功した模様だ。
しかし、氷雨先輩はこの少女をどのようにするつもりなのだろうか。ただの情報収集なら、もっといい方法があるだろうに。
俺が不思議に思っていると、氷雨先輩はその疑問に答えるようにミコトへ指示を下した。
「あなたには情報収集と、情報の拡散を行ってもらうわ」
「じょうほう……かくさん……?」
一旦言葉を反芻したのち、ミコトは納得した様子で手を叩いた。
その様子を見て、氷雨先輩はいたずらっ子のごとき表情を浮かべる。
「要するにスパイごっこよ。楽しいでしょ?」
「うんっ」
微笑み合うふたりと対照的に、イマイチ要領を得ていない俺だけが空間に取り残されていた。
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