第22話 300/2分の尋問・前

 さすがに誰かにこの光景を見られたらまずい、との結論に至り、俺たちは客室へ向かった。何も言わずミコトもついてくる。


「あ、有記さんはなんで男湯にいたの?」


 耐え難い雰囲気がしばし流れたのち、それを破るかのように氷雨先輩が口を開く。

 その問いに、ミコトは首を傾げて答えた。


「みぃの家は、ここだから。ちょっとだけとおいけど、なんとかかよえる」

「そ、そうなのね」


 さすがに氷雨先輩とはいえ、住所は守備範囲外だ。

 雅多並みに生徒会に凸していたら別だが、ミコトは特段暴力行為などといった大きな問題行動を起こしている人物ではなく、自宅に行くこともない。


 つまり、このような事故が起こってしまう可能性もなくはないのだ。


 生徒会や学校のことを忘れる、といった目的も兼ねているため少し思うところはあるが、幸いミコトは餌付けで何とかなる模様。適当にジュースかお菓子でも与えておけば変な噂が流れることはないはず。


 ……やっぱりこの少女、小学生ではなかろうか。


「いやいや、家ってだけで男湯にいる理由にはならないでしょ?」

「ばれた」


 確かにそうだ。せめて女湯に入れ。俺が逮捕される。

 特に悪びれる様子もなくてへ、と言ったミコトに、氷雨先輩は詰め寄った。


「そっちのほうが、お風呂がちょっとひろいの。だから」

「だからじゃないの。今度からはちゃんと女湯に入りなさいよね? 変な人がいたらどうするの」

「こおりひめ、おかあさんみたい」

「誰がお母さんよ~!」


 淡々とポーカーフェイスで言葉を返すミコトは扱いづらいのか、氷雨先輩も少し手こずっている様子だ。


 でも『お母さんみたい』というところには共感する。いつもだったら問答無用で尋問・反省文コースなのだが、ミコトの雰囲気や家であるということが冷酷な措置を取ることを邪魔しているらしい。


 よって面倒見の良さだけが残り、お母さんみたくなっているのだ。氷姫の氷が溶けるとこうなるのか。


 なぜか感慨深くなって優しく説教する氷雨先輩を見る。すぐに気づかれた。


「和馬くんからも何か言ってよ。この子、私の言葉を聞いてる様子がまるでないもの」

「しつれいな。ちゃんときいてる。きいてるだけだけど」

「ほらぁ!」


 少しむっとした様子のミコトと、俺の腕を動かす氷雨先輩。

 何だか家族みたいだな、と自然に笑みが零れた。


「もう、笑わないでよ!」

「いや、すみません。氷雨先輩の新しい一面が見れて幸せで」

「こ、これからもっと新しい一面を見せてあげるから、笑わないでっ」


 はにかみながら言うと、氷雨先輩が照れながら言葉を返す。

 ああ、幸せだ。


 はっきりと幸せを感じていると、そこにミコトが口を挟む。


「いちゃいちゃしないで」

「「い、イチャイチャしとらんわ!」」


 普段全く使わない関西弁のタイミングが重なる。

 そのことに恥ずかしさを感じていると、続けてミコトが言葉を紡ぐ。


「このままだったら、こおりひめ、せいとかいちょうをつづけられなくなるよ」

「「……え?」」


 再び声が重なる。しかし、恥ずかしさを感じる余裕はない。

 真剣なミコトの瞳が、それを許さなかったからだ。


「みやたっていうやつが、うごいてる」

「……詳しく聞かせてもらえるかしら」


 氷雨先輩が身を乗り出して、ミコトに情報を乞うた。

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