第19話 300秒で決める! ゴールデンウィークの計画
「ねね、和馬くん」
「どうしたのですか、氷雨先輩?」
バイトも終わり、へとへとになりつつも『どうしたら氷雨先輩にもっと好きになってくれるのだろう』と考えていた矢先のことだった。
紙束を持った氷雨先輩が、目を輝かせながら俺にすり寄ってくる。
「もうすぐ、ゴールデンウィークよね?」
「そうですね」
勿体ぶった様子で問いかける氷雨先輩に、俺は冷めた声で返事をする。
俺のなかではゴールデンウィーク=思いっきり寝る日という位置づけになっているからだ。
揺らぎのないと思っていたその価値に疑問が生じたのは、返事をした直後だった。
「わ、私と、どこかへ遊びに行かない……?」
不安が見え隠れする口調で遊びに誘う氷雨先輩に、俺は心を撃ち抜かれる。
上目遣いで、潤んだ瞳を投げかけられながら断れるやつなど存在するだろうか。
いや、いない。というか氷雨先輩の頼みを断れるやつが存在しない。
俺は喜びに打ち震えながら「いいですね!」と答えた。
それに満足したらしい氷雨先輩は安堵の息を吐き、紙束を丸く白い机の上に広げる。
決して大きくない机なので、簡単にスペースが埋まってしまうのだが今回は別格だ。
様々な写真と文字が印刷され、ところどころ数字も見える。
まるでプレゼン資料のようだ、と思いながら「これは?」と聞くと。
「当然、ゴールデンウィークの予定を決めるための資料よ。楽しみすぎてついつい分量が多めになってしまったわ」
えっへん、と自信を乗せた表情を浮かべる氷雨先輩。かわいい。
最初は枚数で圧巻されていたのだが、徐々に内容が見えてくる。
ここからあまり予算のかからない範囲での観光地が画像を交えながら説明されており、そのなかには先輩が分析した結果も入っていた。
生徒会長のスキルはこんなところでも使えるのか、と感心していたら。
「はっ。ご、ごめんなさい。引いたかしら?」
ふと、量が多すぎることに気づいた氷雨先輩が怯えた様子でこちらを窺う。
俺は安心させようと、ふっと笑い。
「いいえ。むしろ、氷雨先輩にここまでしてもらえて嬉しいです。ありがとうございます」
「和馬くんっ……!」
嬉しそうな顔をする氷雨先輩を愛でまくりたい衝動に駆られるがぐっと堪え、俺は言葉を紡いだ。
「貯金も結構ありますし、泊まりでもいいかもしれませんね。ほかの生徒に見られたらちょっと気まずいじゃないですか」
「それもそうね」
氷雨先輩は俺の言葉に、以前ショッピングセンターでこよみと鉢合わせたことを思い出したのか、苦い顔をする。
幸いこよみだったからよかったものの、現生徒会に不満を持つ人物と会ってしまったらどうなることか分かったものではない。
そうなれば比較的近場をチョイスした資料は無駄となってしまうわけだが、枚数も多いことだ。絞るという意味でもいいだろう。
「じゃあ、こことかはどう? 和馬くんって普段勉強と生徒会、バイト、それに家事だって頑張っているじゃない? だから休むってなるとベストだと思うの。ここだったらうちの学校の生徒と会う可能性も低いだろうし」
氷雨先輩も納得したようで、散らばった資料からひとつ取り出し、乗せていた写真を指差す。
それは自然豊かな温泉地が書かれたものだった。
確かにここならばリフレッシュにもなる。俺だけでなく、先輩もくつろげることだろう。
「いいですね、ここ! ちょっとした観光もできますし、宿もたくさんありますし。早速空室状況を確認しますね!」
「ありがとう、和馬くん!」
ふわりと、花が咲くように笑う氷雨先輩に、俺も同じく笑いかける。
幸い空室は残っており、価格もそう高くはない。
1泊2日くらいにはなるだろうけれど、いいだろう。近場といえば近場だし、また来ればいい。
俺は氷雨先輩にそのことを話し、見事了承を得たので予約を済ませた。
「えへへ……和馬くんとの温泉デート……」
にへらとだらしない表情を浮かべ、頬に手を当てながらクネクネしだす氷雨先輩。
そんな彼女がたまらなく可愛くて。温泉に行き、もっと彼女の可愛い姿を見れると思うと俄然ゴールデンウィークが楽しみになった。
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