第18.5話 時給300円の幼馴染の憂鬱・300円で拾われた先輩の友情
いつからか、わたしはかずくんの一番でいることを諦めてしまった。
マイナスという概念を知ったとき、色々布教しまくって色々な人に「気持ち悪い」と罵られたのに、たったひとりだけ興味を持ってくれたかずくんは、そこにいる。
けれど。
「和馬くん、新刊を並べる作業は終わったわ。次は何をすればいいかしら?」
「さすが氷雨先輩、早いですね。では、POP作りをお願いします」
「任せて頂戴」
息の合った作業、滑らかに行われる報連相、透けて見える相手への信頼。
にっこりと笑いあうふたりからは、そんな語句がぴったりくる。
だからこそ、わたしは――かずくんのことは好きだけど、かずくんの幸せを全力で応援しようと思えたのだ。
それに、ゆきちゃん先輩には恩がある。
教室で浮いて、学校に行けなくなってしまったお姉ちゃんを救ってくれたのは紛れもなくゆきちゃん先輩なのだから。
ふたりが同時に幸せになってくれるなら、もちろんわたしも幸せ。
だけど、わたしの視線はどうしてもかずくんと昔見た、簡単な数学の参考書へと向かっていた。
◇◆◇
「氷雨先輩」
「何かしら?」
勉強の合間に読書をしていた先輩に、俺はずっと気になっていた疑問をぶつける。
「氷雨先輩って『友達がいない』って言っていましたが、しおり先輩のことはどう思っているのですか?」
「う」
俺が問うと、氷雨先輩は明らかに動揺した表情を浮かべる。
別にそこまで動揺することでもないだろう、と思っていると、先輩は明後日の方向を向きながら理由を呟いた。
「友達だからと思って、ほかの人に『この子、友達なんだー』って言って実際は違ったら、とか。相手は迷惑じゃないかな、とか思って……」
冷や汗を流しながら言う氷雨先輩の言葉に、俺は妙に納得していた。
つまり、『友達がいなさすぎてどこから友達を名乗っていいのか分からなくなった』パターンだろう。
俺は内心でわかります、と激しくその気持ちに同意の念を寄せていた。
俺も似たようなものだからだ。
どこかもの悲しさを感じながらも、俺は「なるほど」と返す。一番ダメージが少なさそうな返答だと思ったのが理由だ。
「それだし、あのぅ」
氷雨先輩はそこまで紡ぐと、言いにくそうに口ごもる。
視線でその先を促すと、ぽつりと彼女は呟いた。
「しおりは共犯者、っていうか、仲間っていうか。なんか尊敬も混じっているような気がするしよく分からないの」
頬を若干朱に染め、唯一無二の友人を褒める氷雨先輩に、俺は笑いかけた。
内心で『素直になれないカップルかよ』と思いながら。
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