第17話 300秒の生徒会会議

 またキス云々の話が流れてよそよそしくなって3日が経った木曜日。

 全力で放送した甲斐もあり、生徒会メンバーである4人が久々に生徒会室へ集まっていた。


 長机をふたつくっつけ、扉から見て右側に俺と氷雨先輩、左側に柔路姉妹が座っている。

 どこかピリピリした空気が蔓延するなか、氷雨先輩が口を開いた。


「率直に言うわ。あなたたち生徒会室に来なさすぎなのよ!」

「そんなこと言われてもなぁー……あっ眠い」

「寝ないでぇぇ!」


 集まった直後に寝ようとするしおり先輩を、氷雨先輩は叫びながら身を乗り出してカクカクと揺らす。

 眠そうだが起きてくれたようだ。よかった。


「でもゆきちゃん先輩っ、わたしたち、ちゃんと仕事やっていますよ?」

「ええやっているわ。やっているけどね、予算の計算はできればここでやってほしいわ」

「ゆきちゃん先輩は心配性ですねぇ。暗号化してメモを取っているので大丈夫ですよぅ」

「黙りなさい!」


 にへらと笑うこよみを氷雨先輩が咎める。

 しかし、こよみは生徒会室で作業をするのが嫌というわけではなく、予算にケチをつける輩が乗り込んでくるので嫌だと以前漏らしていたのだ。このくらいで『生徒会室で作業しますっ』とはならない。


 それでなっていたら中等部3年くらいにはもうここでやるようになっていたことだろう。


 だが、予算にケチつけるやつの対処をするのが面倒なのは氷雨先輩も同じ。

 むしろ正当かどうかを判断することをしただけで、ほかの仕事も抱えていることもあり、細かい内訳などを覚えているわけでもない。


 こよみだったら覚えていて、もうちょっと対処する時間が短くなるかもしれないが家業を理由にとんずらするのでどうしようもない状態になっている。


「こよみさん、禁断の領域に踏み込むようで悪いけれど」

「はいっ?」


 闇をふんだんに乗せた笑みを浮かべながら、氷雨先輩はへへと平和そうに笑っているこよみに告げる。


「予算に文句をつける生徒を納得させるのも、会計の仕事だとは思わないかしら」

「むぅ……。別にいいんですけど、ゆきちゃん先輩とかずくんが……」


 別にいい、と聞こえた気がするしその後も口は動いていたようだが、肝心の内容が聞こえなかった。

 それは先輩も同じらしく、怪訝けげんな顔をして。


「何か言った?」

「いいえ何もっ! ああっ、そろそろ家の仕事がなんかやばいことになっちゃいます! 帰宅しまーすっ!」

「あっ、待ちなさい!」


 光の速さでカバンを手に取り、走り去ってゆくこよみを見る氷雨先輩には憔悴の色が感じられた。俺が言うのも何だが苦労が多そうだ。


「そ、そうよ。まだ柔路さんはちょっと声をかけるだけで集まってくれるわ。しおりがいてくれるならって寝てるー!?」

「あんまり叫ぶなよ……今、なんかよく分からない人とベッドに入る夢を見てたんだから……」

「起こして正解よ!」


 ふあぁ、とあくびをするしおり先輩の手をぺちぺちと叩く氷雨先輩。

 彼女はそのまま言葉を紡いだ。


「私、あんまり公開前の文章が書かれた書類を持ち歩きたくないの。生徒会室で作業してくれる?」

「……すや」

「寝ないでよぉぉぉ!」


 昨日本読んで徹夜したのだろうか。

 どこか他人事のように叫ぶ氷雨先輩と寝るしおり先輩を眺めていた。


 だって、俺は――氷雨先輩とふたりっきりで過ごしたいから。


 副会長としてはゼロ点の気持ちだが、嘘をつく選択肢はない。

 しおり先輩はもうひとつあくびをすると目を覚まして。


「んー、しおりは友達と後輩応援派だから。んじゃおつかれぃー」


 それだけ言うと、生徒会室から去っていった。

 氷雨先輩は失意のあまり机につっぷして、俺に問いかける。


「何秒持った?」

「300秒――ちょうど5分です。緊急性のない題材の会議としては最高記録ですね」

「……寝るわ」

「起きてください」


 ぐったりとする氷雨先輩を無理やり起こし、俺たちは仕事へと取り掛かった。

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