【桜祭り編】2.ジョーカー
四月二十六日
現在、相談センター
「はいアガりー」
「三山先輩強っ!」
「幹斗もまだまだだなー」
「いや、祥人よりは強いので!」
俺が相談センターに入ってから、早くも二週間が経過した。
最初はなんだかんだ言っていたが、すっかり慣れてしまった。なんなら今、みんなでババ抜きを楽しんでる。
相談センターに関係ないことを出来るまでに成長している。それが良いか悪いかはわかんないけどね。
「幹斗ちゃん、相談センターには慣れたかしら?」
そんな俺の心情を知ってか知らずかおかまが俺に聞いてくる。
「はい、最初の校長はちょっとビックリしましたが、それ以外はマトモな人が多かったのでなんとか慣れることが出来ました」
「あら、それなら良かったわ♡」
嬉しそうにウインクしている。石にされそう。
ちなみに、校長の銅像はどこに置いてあるかと言うと、校門を入ってすぐのところに置いてある。
祥人と校長をその真下に埋める予定だったが、予定が合わず、設置する日に二人は来れなかった。
自分の銅像なのに来ないとかありかよ。
校長の件が終わったあとは落し物探しや人間関係の相談などを受けた。
みんな色々な悩みを抱えているんだな、と改めて実感した。
そしてもう一度ババ抜きが始まる。
「そーいえばここら辺で毎年エイプリルフールの日にやってる祭りあるじゃん?」
「あーありますね。桜祭りでしたっけ」
「あーそうそう、それそれ。今年祭り会場の近くが工事で延期になったって話あったじゃん?」
「え、そうなんですか?全然知らなかったです」
祭りの名前は知っていたが、全く興味がなかったから延期したというのは初耳だ。
「あ、まじ?五月一日になったらしいよ」
「そうなんですか。五月一日じゃ桜は咲いてませんし、これじゃ桜無し祭りですね」
「あはは、たしかに」
そんな俺のつまらない事にも笑ってくれる、三山先輩は優しい。
三山先輩は最初話しづらいイメージがあったが、かなり後輩思いで良い先輩だ。
相談センターの女性陣は優しいことがわかった。
「いやぁぁぁぁ」
俺と三山先輩がババ抜きをしながら雑談をしていたら、もう一人のプレイヤー、祥人が叫び出す。
「うわっビックリした」
「す、すみません。少し動揺をしてしまいました」
少しどころじゃ無いんだよな。
こいつさっきからジョーカー引いたらめちゃくちゃ発狂するんだよ。バレバレ過ぎるよ。
「あ、そういえば」
発狂をしていた祥人が急に冷静に話し出す。情緒不安定かよ。
「五月一日って『青春の日』らしいですよ」
たまにこういう雑学を言ってくるから、頭が良いのか悪いのか分からなくなる。
「へーそうなんだ。まあ俺らには関係ないよね」
「それ、自分で言ってて悲しくならないの?」
とっても悲しいです。後輩に追い討ちかけないでください先輩。
「はい、アガりー」
「あーまじかー」
「出直してきなー」
まあ二位だから良いか。まだ終わってないけど。
「ほいっ」
「あああああー。また負けた…」
「祥人、弱すぎだ」
「なんでだ…。十番が本田だろ?それで九番が…」
祥人がババ抜きに全然関係ないことを冷静に分析し始めた。
きっとサッカーの背番号のことを言ってるんだろう。こいつはババ抜き中にもサッカーのことを考えてるらしい。いいからサッカー部入れ。
丁度ババ抜きが終わったところでコンコン、とノックの音が部屋に鳴り響く。
「どうぞ♡」
「失礼します」
そんな面接みたいに入らなくても良いんだけどな、ここは。
おかまとテレパシーで会話し、俺が対応をすることになった。
そう、二週間でおかま専用テレパシーも手に入れたのさ。
嘘です。
***
一年前 四月一日 とある場所
「俺らも来年高校生か」
「そうだねー。春太も大きくなったねー。つい最近まで私と同じくらいだったのに」
「それいつの話だ」
「さぁ〜?」
「なあ」
「なに?」
「来年からは一緒に行くのやめないか?」
「え?なんで?」
「俺らが目指してる高校ここの近くだし、春奈もぶっちゃけ恥ずかしいだろ」
いくら幼なじみとはいえ、付き合ってない男女二人が祭りに行ってるところを見られるのは少し恥ずかしいのだろう。
「恥ずかしくないよ、全然」
「でも無理してたりしないか?」
「なんでそんな事言うの?春太は私と一緒に行きたくないの?」
「いや、そういうことじゃ…」
「じゃあ来年も一緒に行こうよ」
「ちょっと考えさせて」
春奈は大きなため息を付く。
「春太はさ、あの約束覚えてる?」
「約束?」
「嘘でしょ?」
「ごめん」
春奈には分かった、春太は今嘘をついている。
小さい頃何度も何度も二人でババ抜きをしていたから、ちょっとした動作でお互いの心情が分かる。
では、なんで春太は嘘をついてまで祭りを断ろうとするのか。
その答えも春奈には分かった。
春太はきっと、周りの人から何か言われることを恐れている。
昔から春太は優しい。
誰かが何か言ったら笑ってそれに共感する。
春太は周りを気にしすぎている。
だからこそ自由な私は春太といると楽な気持ちになれるのかもしれない。
私は春太が好きだ。多分、春太も私のことが好きだ。
それでも今の春太はこの関係を断ち切ろうとしている。
そんなのあんまりだ。
春奈は春太に腹を立てた。
自分は春太の隣を離れたくない、でも春太のしようとしてることは許せない。
ここで後者の気持ちを優先してしまったら、自らこの関係を断ち切ることになるのは分かっていた。
それでも春奈は
「もういいよ」
矛盾している感情を突き破り、怒りのままに行動した。
春奈はその場から立ち、春太のもとから離れていった。
「ま、まって」
春太の声は届いていたが、今の春奈には響かなかった。
春太は悔やんだ。
自分が100パーセント悪いのは分かっていた。
今の状況を誰に聞いても春太が悪いと答えるだろう。
春太は自分が嫌いだ。
大好きな春奈の気持ちを踏みにじってまで、自分の安全を手に入れようとしたしたのだ。
もし時が戻せるなら別の選択をしていたのかもしれない。
もし自分が気持ちを伝えていたならどうなっていたか。
春太は大きな決断をする度に後悔し、『もし』というもう存在することの無いルートを想像する。
自分が傷つかないようなルートを選んで通っていた。
春太は傷つかないようなルートを選ぶことで自分が傷付いてることには気付いていた。
いつ攻撃されてもいいように『言い訳』という装備で自分の身も固めていた。
それが落ちる度に振り返り、通ってきた道をもう一度通り、『言い訳』を拾い直していた。
そうすることで何度も同じ道を通っていた。
だか、外からの攻撃を守るための装備は内からの攻撃には勝てない。
『もし』『だって』この二つの道をもう何回繰り返しただろうか。
春太は自分が前に進めないことに気付いていた。
それでも春太は明るく振る舞い、自分を、他人を傷つけないように生きている。
それが最善だ、そう思っていた。
いつの日か、春奈は自分のことを優しい、と言ってくれた。
しかし、春奈を傷付けてしまい、春太は改めて思う。
俺は最低だ。
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