わしだけに銅像をください

週明けの月曜日の放課後。



 先週色々あって、今日から東和学園相談センターの初仕事だ。


 って言っても利用している人がいるかどうかは定かではない。


 俺だって使ったことないしな。


 そんなこんなで相談センター前に到着。


 ドアに手をかけようとすると、先週のトラウマが頭によぎる。


 ドアを開けたらおかまが咲き狂っていたなんて、思い出しただけでも寒気と恐怖で気が狂いそうになる。


 だから俺は、流れ星を見つけた子供が必死に願い事をするように、


 おかまがいませんように。おかまがいませんように。おかまがいませんように。


 そう三回唱える。


 よしこれで大丈夫。


 勇気を出してドアを開けると…


 おかまはいなかった。

 

 あれ、なんだろう。もしかして俺、寂しがってる?いや、それは絶対ないと信じておこう。

 

相談センター内を見渡してみる。


 前回は慌てすぎていたが、こうやって冷静に部屋を見てみると、なんかそれっぽい。


 ドアを開けてすぐの所には受付テーブルがあり、相談者はそこの手前の椅子に座り相談をする、という形だ。


 受付テーブルの奥にはデスクが右に三つ、左に三つ壁にくっつけて並べてあり、その上には名前の札が乗っかっている。


 なるほど、一人につき一つデスクがあるということか。


 真ん中にはお菓子などが置いてある机がある。

 

 そして相談センターの一番奥には、一際大きなデスクがあった。きっと、そこには一番偉い人が座るのだろう。


 名前の札には『姫田 仁之助(ひめた じんのすけ)』と書いてある。


 聞いた事のない名前だが、一番偉い人の名前くらいは覚えとかないとな。


 「姫田 仁之助さん…」


 そう小声で呟き、脳裏に刻み込む。


 すると、後ろから


 「私の事呼んだ?」


 俺が待ち浴びていた……いや、先週俺をボコボコにしてきたおかまがいた。


あんたが一番偉いのかよ!


 「い、いえ。一番偉い方なんだなぁ、と思いまして」


 「そうね♡私の役割はイルミネーションガールと皆から言われてるわ♡」


 嘘付け!なんだそのキラキラしてそうな名前は!誰も呼んでないだろ!あんたが勝手に名付けただけだろ!それ聞いたら先代の代表涙目になるぞ!


 「あ、姫田イルミネーションガール。今日もよろしくお願いします。」

 

 「はい♡よろしくね♡」


 あ、呼ぶ人いるんだ。でも先代は絶対違う役名だったな。てか長いよ。せめてもっと短くしようよ。俺絶対呼びたくないよ。


 「ションガール、ちーっす」


 「はーい♡」


 いや、短くしようって言ったけども。ションガールはやめた方がいいんじゃないかな?色々マズいと思うんだ。そもそもこいつ男だしな。


 「あれ、彼が新しく来るって言ってた人?」


 先程、ションガールと呼んでいた、金髪でいかにもギャルっぽい人が話し出す。てかギャルだ。

 

 「そうよ♡」


 「は、はじめまして、二年四組 広幡 幹斗です。よろしくお願いします」


 失礼のないようにキッチリ挨拶をする。


 「はーい、よろしくねー。うちは三年二組  三山 加奈子だよー」


 三年生だったのか。まあ、さっきションガールって呼び捨てにしてたしな。


 「はじめまして、僕は二年二組 山崎 祥人です」


 さっき、律儀にイルミネーションガールと呼んでいた、いかにも真面目そうな人が続けて自己紹介をする。


 同学年で教室の階が同じだから、何度か見た事がある。


 「さあ、来なさい♡あなたの席はこっちよ♡」


 「は、はい」


 おかまに誘導されて受付センターの奥のデスクの方へ行く。


 どうやら、小さいデスクのうち三つは空席らしい。


 俺が入っても、あと二席残るのか。


 俺の席は入って右側の一番奥の席だ。


 隣の席の名札には『水野 椿(みずの つばき)』と書いてある。


 隣の席の人が椿であったことに安心しつつ、俺は席に座っておかまにいくつか質問をする。


 「相談センターってどんなことするんですか?」


 「その名の通りよ♡そこの受付カウンターで相談者の話を聞いて、色んなことを解決したりするの♡」


 なるほど。ただ話を聞いて終わりって訳ではなく、解決までしっかり導くらしい。


 「今までにどんな相談を受けてきたんですか?」


 まだ不明確な部分があるので、例を出してもらう。


 「ココ最近だと、物を落としたから探してくれだったり、自分がどう思われてるか気になるから探って欲しいっだったり、人間関係の相談とかかしらね」


 意外と活動してるんだ、ってことに驚いたけど触れないでおこう。


 やっぱり思春期ならではの悩みが多いんだな。


 「それで、僕は何をすればいいんですか?」


 「あなたは椅子に座っていればいいわ。相談者が来たら私と一緒に対応しましょう♡」


 「わ、わかりました」


 とりあえず座って待ってろ、ってことか。




 ***




 「こんにちはー!」


 元気よくドアを開けて、入ってきたのは椿だ。


 話しやすい人が来て少しほっとした。


 俺の隣だし相談者が来るまで雑談でもしようか。


 「授業、お疲れ様」


 「あ、おつかれー。てか、同じクラスなんだから置いてかないでよ〜」


 「あー悪い悪い」


 「明日からはちゃんと待っててねー」


 「りょうかーい」


 置いてかないでと言われても、授業が終わると椿は何人かの生徒に囲まれていることが多いんだよな。


 次回からは待ってみることにしよう。


 雑談しようとしたものの、あんまり話題が出てこない。


 「失礼」


 もっと話題はないか頭の中で模索していたら、誰かが部屋に入ってきた。


 相談者かと思い振り返ってみると、入口に校長がいた。


 校長は、ゆっくりと歩き、受付カウンターの前の席に腰を掛ける。


 おいおい、まじか。


 誰かなんかやらかしたのか?


 何があったか考えてみる。


 俺の中ではおかまの暴力事件と言う結論に至った。うん、間違いないだろう。


 だって二席空いてるしな。きっと彼らは入院しているんだろう。


 視線をおかまに向けてみる。

 

 ウィンクしてきた。


 どうやら、校長は相談者だから校長のところに行くぞってことらしい。


 なんで伝わった俺。


 てか、校長が相談者だったらとんでもないことだ。俺に任せていいのか?


 ウィンクのせいか、緊張のせいかは分からないが、俺の身体は少し震えた。


 十中八九、前者だろう。


 俺とおかまは立ち上がり、校長の正面の椅子に座る。


 「校長先生、どうなさいましたか?」


 おかまがいつもよりマシな喋り方で話す。普段からそうしてて欲しいな。


 「物を落としたから探してくれだったり、自分がどう思われてるか気になるから探って欲しいだったり、人間関係の相談を、以前したばかりで相談続きで悪いのだが」

 

 それあんただったのね。思春期真っ只中の高校生ならではの悩みかと思ったら、還暦真っ只中のジジイの悩みだったのか。


 「わしの銅像を作りたいんだけど協力してくれない?」


 すると、校長は胸の前で両手の人差し指を合わせ、どこかモジモジした様子で喋り出す。


 はい一旦ストップ。


 なんだァそのしゃべり方は?


 俺の知っている校長はこんな可愛くないぞ。いや、今も別に可愛くないけど。


 てか、これどうやって対応したらいいの? 


 「ほう。そりゃまたなんでですか?」


 俺が対応の仕方に困っていると、おかまが上手く対応してくれる。


 「実はこの前、他校の校長先生との飲み会で……」


 『見てくださいよ!これ私の銅像!まじパネェ!』


 『いやいや!私の銅像もマジ卍って感じですよ!』


 『私の銅像なんかインスタ映えスポットだよ!わははは!』

 

 「……ということがあったんじゃが…」


 「いや、ちょっと待ってください。他校の校長先生ぶっ壊れてませんか?」


 校長が何事もなかったかのように、話を進めようとするので、思わずツッコんでしまう。


 「君は何を言っているのかね?イマドキはそんなもんじゃよ」


 「そうよ。幹斗ちゃん静かに♡」


 「は、はぁ…」


 ジジイとおかまにイマドキを教えられた。え、なにこれ。俺が悪いの?


 「なるほど。それで話についていけなかったから、銅像を作って欲しい、と」


 「そ、そうじゃ!」


 校長先生は嬉しそうにおかまを指さす。


 ほんとなんなんだ。この人こんなキャラじゃなかったでしょうが。


 こんな人の話を朝礼で長々と聞かされてるのをアホらしく感じる。


 「でも校長先生、銅像って材料も高いし、僕らじゃ多分上手く出来ないですよ。業者に頼むのが得策かと思いますが。」


 俺はシンプルな疑問をぶつける。


 「心配せんで良い。生徒に作って貰った方が愛が生まれるだろう。それに、材料はここにある!」


 どこから取り出したのかは知らないが、校長はバサッと大きな風呂敷をカウンターの上に広げる。

 

 そこに広がった材料は粘土、絵の具、以上。


 「こ、校長先生本気で言ってますか?」


 「わしはいつだって本気じゃ!汗水流して、仲間と共に作り上げたものは、どんなに高級な材料さえも凌駕するんじゃ!」


 汗水流すのは俺らだけどね。


 これで銅像作ったとしても、他校の笑いものになるとしか思えないんだが。絶対無理だ。


 「無理無理無理無理、絶対無理ですって!ね、姫田さん!」


 「いいじゃない!私そう言うの嫌いじゃないわよ!」


 いや断れって!無理だろ絶対!どこに火着いてんだよ!誰か代表になんか言ってやれって!


 後ろのデスクを見渡してみると、みんながうんうん、と頷いている。


 なるほど、そういう人たちなのか。


 おかまはいつの間にか普段の喋り口調に戻ってるし、みんなおかまに賛成らしいし、これはもうどうにもならないな。


 おかまは獲物を狙うワニのように目をギラギラさせている。


 「ひ、姫田君!」


 「やってやりますわよ!」


 おかまと校長先生は長袖を無理やりまくると、ガシッとお互いの腕を交わす。


 ごつい。




 ***




 「ほんとにやるんですか…?」


 「あたりまえでしょ♡」


 「がんばろー!」


 「やるしかないっしょ」


 「やりましょう」


 俺以外は本当にやる気らしい。


 とは言え受けたからにはやるしかなさそうだな…。


 「心配そうな顔ね、幹斗ちゃん♡」


 「そりゃあ、まあ…。だって俺たちが作ったのが飾られるんですよね?失敗して校長が笑いものになるとしか思えないんですが」


 「そうね。でも大丈夫よ。彼は経験者よ♡」


 そう言って、おかまは眼鏡をかけた真面目男子、祥人の方に目線を向ける。


 嘘だろ。銅像作り経験者なんて聞いたことないぞ。


 「ちょっとかじってただけですよ」


 「え、ほんとにやってたの?」


 「はい、小学一年生から中学三年生までサッカーをやってました。今はあんまり興味ないんですけどね」


 「は?」


 なんも関係ねぇ。


 しかも九年間ってかじってたどころじゃないだろ。ガッツリやってんじゃん。


 それでなんでおかまは満足気に頷いてんだよ。


 「見ての通り、彼以外はみんな初めてよ♡」


 「いや、彼も初めてだと思いますが。なんなら彼は九年間足技を磨いてますよ」


 手先使う競技ならギリ分かるけど、九年間ずっと足を使ってるからな。


 祥人真面目だから絶対遊ばれてるな。


 いや、もしかしたら祥人もバカなのかもしれない。あの状況でおかまの謎のノリに付き合う時点でバカなのかもしれない。


 大事なことなので二回言いました。


 「まあいいわ。材料は山ほどあるし、まずは彼に任せてみましょう」


 「賛成でーす!」


 「うちもー」


 「任せてください」


 三山先輩と椿に至ってはちょっと笑っちゃってるしな。


 祥人、バカさで遊ばれてるぞ。




 ***




 「出来ました」


 祥人が額の汗を拭いながらそう言う。


 それぞれの席に戻って、雑談などをしてから十分が経った。


 嫌な予感がする。銅像って十分じゃ絶対出来ないと思うんだが。


 祥人は自身が作った物に布をかけて、隠している。


 「いきますよ!3…2…1…」


 全員が集まったところで、祥人がカウントダウンを始める。


 『はいっ!』と祥人が声を出すと同時にかけていた布を一気に剥ぐ。


 祥人が作った銅像は…


 「トロフィー…?」


 椿が不思議そうに見つめる。


 「そうです!トロフィーです!」


 「はーいストップ!」


 俺は我慢出来ず、ストップを掛けてしまう。


 「なにしてんの?なんで銅像作りでトロフィー作ってそんな自信満々な顔してられるの?」

 さっきから思ってたけど、こいつバカだわ。真面目そうな格好してるけど、バカだわ。


 「なかなか上手いわね…♡」


 「いやいや、粘土で作品作りじゃないですから!俺たちが作るのは銅像ですよ?」


 「あ、そうだった!作品のテーマは銅像だった!」


 祥人は銅像作りを完全に忘れていたらしく、頭を抱えてしゃがみこむ。


 やっぱりバカだわ。


 「てか、何が今はサッカーに興味がないだよ!バリバリ興味あるじゃん!夢諦め切れてないじゃん!」


 どうやら九年間の思いはそう簡単には切り捨てられないらしい。


 「でも、かっこいいと思うよ!」


 「椿、問題はそこじゃないと思うよ?」


 ダメだこりゃ。三山先輩に至ってはさっきから後ろ向いてプルプル震えてるしな。


 「祥人ちゃん、間違いは誰にでもあるわ。それを正すためにも私たちはいるのよ。さあ、作り直しましょう」

 

 「はい!」

 

 「次は加奈子ちゃん。あなたの番よ♡」


 「任せてー」


 相変わらず緩い感じで三山先輩は返事をする。


 この人はまともに作れるのかなぁ。


 こうして無駄に上手い祥人のトロフィーは撤去。


 ほんとにかじってたのかもしれないクオリティだった。




 ***




 「できたー」


 三山先輩が額の汗を拭いながらそう言う。

 

 それぞれの席に戻って、雑談をしてから十分が経った。


 嫌な予感がする。さっきと全く同じ流れだ。


 三山先輩は自身が作った物に布をかけている。


 「いくよー。3…2…1…」


 全員が集まったところで三山先輩がカウントダウンを始める。


 『はいっ!』と三山先輩が声を出すと同時にかけていた布を一気に剥ぐ。


 三山先輩が作った銅像は…


 「すごい!」


 椿が驚き、声を上げる。


 「そうでしょ。凄いでしょ」


 「はーいストップ!」


 俺は我慢出来ず、ストップを掛けてしまう。


 「なにしてるんですか?なんで校長ギャル化してるんですか?」


 「いいわね♡これは校長先生もよろこんでくれると思うわ」


 たしかに、あの校長なら喜ばないとも言えないな。


 でも違う!


 「なんで、ギャル化したんですか!」


 「えー、なんか途中まで普通の校長だったんだけど、ピンときちゃって」


 「なるほど、僕にはヒラメキ度が足らなかったのか…!」


「お前はちょっと黙ろうか」


 祥人はメモ帳を出して、三山先輩が言ったことをメモをしている。


 なんもためにならないからやめとけ!


 お前はサッカーの練習に励めよ!


 「ちなみに、その途中までの校長先生はどんな感じだっんですか?」


 俺も少し気になっていた点を椿が質問する。


 「ん、こんな感じ」


 すると、三山先輩が途中の写真を見せてくる。


 「か、完璧じゃないですか!」


 俺は思わず目を見開いてしまった。


 校長の髪の毛の質感、シワの位置、顔のパーツそのどれもが、忠実に再現されていた。


 なんでギャルにしちゃったんだ。


 「三山先輩やっぱりすごい!」


 「これは、なかなかの才能よ…」


 椿もおかまも同様に驚いている。


 そりゃそうだ。十分、いや、それより短い時間でここまで忠実に再現出来るのはかなりの才能だ。


 何かに生かすべきだろう。


 「その色があったか…!」


 祥人は必死にメモをしている。


 こいつは銅像の下に埋めよう。


 

 

 ***

 



 校長室前。


 その後、色々あって作り終えた校長の銅像を箱に入れて、五人仲良く校長室まで歩いてきた。


 校長室なんて入ったことないし、ぶっちゃけかなり緊張している。


 校長のキャラが大分わかったから、少しは緊張が和らいでいる、と思う。


 おかまが先頭に立ち、校長室のドアをノックする。


 ドアが壊れそうな音がしたんだけど、大丈夫か?


 すると、校長が「入りたまえ」と告げる。


 「失礼します」


 そう言い、校長室に入ると、校長はめちゃくちゃワクワクした目でこちらを見つめてくる。


 「こんなに早く出来るとは思っていなかった」


 「はい。私たちもです」


 「早ければいいってモノじゃないぞ。分かっているのか?」


「もちろんです」


「それじゃあ見せてくれ」


 「私たちが作った銅像は…3…2…1」


 ここでもカウントダウンするのね、とツッコミたくなったが、遮る訳にはいかないので抑えておく。


 『はいっ!』とおかまが声を出すと同時に箱の側面が倒れていく。


 これを見て校長が驚かないわけが無い。


 なんてったって、俺ら(三山先輩)が作ったのは…!校長の等身大の像だからな!


 「な、なんじゃこれは!」


 「校長先生、これが私たち(三山先輩)の思いです」


 「す、素晴らしい!」


 「校長先生に喜んでいただけてとても嬉しいです」


 製作者である三山先輩も校長も嬉しそうにしている。


 ちなみに俺と椿と祥人はドヤ顔で並んでいる。何もしてないのに自分の手柄にしてます。


 祥人、お前だけはドヤ顔しちゃダメだからな。


 校長の気持ち吹っ飛ばして、自分の夢を込めて違うもん作ってたからな。


 「姫田君、本当にありがとう」


 「いえいえ、私は何もしてませんわ」


 そうだな、ほんとに何もしてない。


 とは言え、最初におかまが上手く対応してくれたから解決したのかもしれない。


 三山先輩の潜在能力も顕になったしな。


 「さて…」


これで初仕事は終わりか、と思っていたら、校長が少し困ったような顔でこちらを見つめてくる。嫌な予感がする。


 「それで、これ、どこ置けばいい?」


 「「「「「おい」」」」」


 校長は一人では何も出来ないことも顕になった。






あとがき

ここまで読んでくださりありがとうございます!

正しいあとがきの方法が分かりません笑

これで合ってるのでしょうか笑

Twitterもやっているので苫田 そうで検索よろしくお願いします!

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