第82話 【冒険者】どうしたらいい?
俺は今、一人で暗い洞窟の中を歩いている。
なんでこんなことになったのだろうか……。
腕にひんやりとしたものがあたる。
また上から雫が垂れてきたようだ。
俺は足早にそこを離れる。
これが危険なものだということは、イルミアさんから話を聞いて知っている。
最初のうちは、魔道具で頭上を焼き払っていたが、もう魔石がない。
雫が当たらないように気をつけるしかない。
予備の魔石はたくさんあったのだが、それを持っていたのは俺じゃない。仲間の1人だ。
だが、その仲間はもうみんな消えてしまった……。
俺達は4人パーティだ。幸運にも最初の大きな落とし穴では、誰も大きな怪我をすることなく、着地できた。その後、イルミアさんの指示に従って、4人で洞窟を進んだ。
途中、でかいトカゲが1匹いたが、なんとか倒した。
たまたま先の方に怪しく光る目のようなものが見えたので、気づくことができたが、そうでなかったら、魔獣がそこにいることにも気づかなかっただろう。探知の魔道具は持っていたのに反応しなかったのだ。
あれはおそらくロックリザードだ。聞いたことしかないが、なぜか探知の魔道具に反応せず、奇襲攻撃を得意とする魔獣。そいつがいるところにはよっぽどの冒険者でない限り近づかないって話だ。俺達が倒せたのは幸運だったとしかいいようがない。
魔獣に遭遇したのはそれくらいでその後は淡々と進んでいた。
その最中、後ろの方で小さい悲鳴が聞こえたんだ。
たぶん、空耳じゃなかったはずだ。
それで振り返ったときには仲間が一人いなくなっていた。
こんな状況で単独行動をするようなバカじゃなかったはずだ。
当然、俺達は周囲を探した。ダンジョンの罠にでもかかったんじゃないかってな。
だが、そもそもそんなわけはないんだ。
だって、探知の魔道具は一切反応しなかったんだから。
しかも、だ。いなくなったやつは最後尾にいたやつだ。
もし、ダンジョンの罠なら、ひっかかるのは先頭にいた俺のはずだ。
となると、考えられるのはロックリザードのような探知できない魔獣にひと飲みにされちまったんじゃねーかってことだ。ロックリザードなら、人間をひと飲みにできるほど大きくないから、やられたにしても欠片が残るはずだ。つまり、ロックリザードよりさらに大型のやつってことになる。
その考えにいきついた時、俺達はすぐに決断した。
撤退だ、と。
今考えれば、そもそもロックリザードが出た時点で退くべきだったと思う。同じやつがまた出てきた時、次も都合よく奇襲を受ける前に見つけられるとは限らないのだから。大人しく撤退して、最初に落ちた場所の近くで他のパーティに助けてもらえるのを待てばよかったのだ。他のパーティも似たような状況だったのかもしれないが、イルミアさんがいる。少なくとも彼女だけは大丈夫なはずだ。
まぁ、そういうわけでいなくなってしまった仲間の捜索は断腸の思いで諦め、俺達は来た道を戻った。
そのはずだった。
だが、途中で仲間の1人が言うのだ。
この道あってるか?と。
俺は何を言ってるんだと思ったね。迷うわけがない。なにせ1本道だったんだから。その時はそんなわけないと突っぱねてそのまま進んだが、そのうち、またその仲間が騒ぎ出した。
こんな道、来る時通ってない、と。
何度も言われるとそんな気もしてくる。だが、来るときも、戻るときも分かれ道はどこにもなかった。そりゃ、道をくまなく全部照らして探しながら進んだわけじゃないから、天井とかに抜け道みたいなもんがあるとかなら、分からんが、少なくとも行きはそんなところは通ってない。
じゃぁとりあえず、少し戻ってみるかという話になって、戻ってみると、なんと分かれ道があった。
……こんなものあったか?そりゃ洞窟の中は暗いからわかりにくいが、分かれ道があったら気づくだろ。
そう思いながらも、まだ通ってないはずの方を進んでいく。当然、厳戒態勢で、だ。なんだかよく分からんが、なんかの罠にハメられてる可能性もあるからな。
……なんだかよくわからんが。
そのまま30分ほど進んだだろうか?
冒頭に戻るのだ。
俺は今、一人で暗い洞窟の中を歩いている。
そのことに気づいた。
そう、仲間の2人もいつのまにか消えてしまっていたのだ。
毒だか酸だかが時々上から落ちてくる。
予備の魔石はもうない。
仲間はいなくて俺一人。
明らかにもう道に迷っている。
ロックリザードもいるかもしれない。
俺はどうしたらいい?
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