第81話 【冒険者】いるじゃねぇかよ
俺達は暗い道を進む。
ダンジョン前の大きな落とし穴に落ちて、パーティメンバーの一人が足を怪我した。立てないほどではないが、肩を貸してやってなんとか進んでいるような状態だ。もちろん、いつも通りに剣をふるうことなどできないだろう。
ポタッポタッ
「またよ。焼き払いましょ」
「《ファイアボール》」
前回の討伐作戦で、この頭上から降ってくる液体には気をつけなければいけないことが分かっている。
どうやらこれはスライムの攻撃らしい。
スライムは個体によって、毒や酸を持っているやつがいるが、弱すぎてこれまで気にしたことはなかった。
だが、いくら毒や酸が弱いといっても、この洞窟の中で長時間浴び続ければそりゃ影響も出てくるだろう。どうやら、洞窟の中で天井の高いところにいるらしく、ときどき上からポタポタと降ってくる。
「……これ、ほんとにスライムの攻撃なのか?触ってもなんともないぞ?」
「私にだって分からないわよ。でも、これでやられたパーティが前回いるんだから、慎重にすべきよ」
岩陰に隠れているのか、雫が垂れてくるところで上を見上げてもスライムの姿は見えない。
だが、魔法で攻撃すれば止むので、やはりスライムがいるのだろう。……たぶん。
「しかし、この洞窟はいつまで続くんだ?」
もうかれこれ半日は歩いているんじゃないだろうか?
ときどき罠の反応があって、避けて進んでいるが、魔獣はまったくいない。
あぁスライムはいるっぽいが。
特段身の危険は感じないが、先が見えないというのもつらい。
「俺が怪我したばっかりに、悪いな」
「あなたのせいじゃないわよ。どのみち罠に気をつけて進んだら、歩みはゆっくりになるもの」
「そうだぞ。だいたい、お前の怪我はアンナをかばったせいだろ。気にすんな!」
そんな話をしながら、俺たちは進み続ける。
そして、また嫌なものを見つけてしまった。
「また、分かれ道か……」
「どうする?また、目印だけつけて、先に進む?」
ここまで何度分かれ道があったかもう覚えていない。
目印はつけて進んでいるから、迷っているということはないだろうが、もうどっちの方向に進んでいるのかさっぱり分からない。
「もしかしたら、落とし穴のあったところまでもどった方がいいかもな」
「……そうね。もう抜け出してるパーティがいるかもしれないものね。そっちから助けてもらった方が早く出れるかもしれない」
それもあるが、他にも理由はある。
魔石だ。
灯りの魔道具を使い続け、雫が落ちてくるところでは攻撃魔法の魔道具も使っている。
魔獣との戦闘はないものの、地味にイタイ。
「あら、灯りの魔道具の魔石が切れそうね」
そんなことを考えているそばから、仲間が魔石を交換する。
魔石については町から多めに支給を受けているので、予備もかなりある。
だが、先が見えないこの状況ではそれが十分かどうかは分からない。
「よし。戻ろう」
俺は決断する。
戻るだけなら、目印を辿って戻ればいいだけ。
来たときと同じ時間かかったとしても魔石が尽きるということはないだろう。
助けが来るのを待つ形にはなってしまうが、仕方ない……。
俺達は来た道を戻り始めた。
「しかし、ほんとに魔獣いねぇんだな」
「森の方にはいたのにねぇ。なんでかしら?」
「イルミアさんいわく、洞窟は罠ばっかで、魔獣は洞窟抜けた先の森にいるらしいぞ」
「……それ、出発前にも聞いたけど、ほんとかよ?この先に森があるとか……」
いや、それは俺も同感だけどな。なんで地下に森があるんだか……。
そんな無駄話をしながら歩いていた俺達だったが、突如、鈍い物音に中断される。
ドッ!!!
「へ?」
音がした方を見ると、仲間の一人が倒れていた。
「どうし……」
ブシャーーーーー
声をかけようとした仲間の首からすごい勢いで血が流れる。
そして、このとき初めて俺は状況を理解した。
仲間の首に大きな灰色のトカゲが噛み付いていたのだ。
「キャーーーーーー!」
「構えろ!」
「こっちにももう1匹いるぞ!」
残されているのは俺と足を怪我した剣士、それに魔法を使う女が一人。
対するはでかいトカゲ2匹。
「なんだコイツは!?」
そんな疑問を持つが、相手は待ってくれない。
「速い!!」
でかい図体の割に速い。
1匹のトカゲが俺の首めがけて飛びついてくるが、俺はなんとか槍でガードする。
だが、
「嘘だろ……」
そのトカゲは俺の槍にがっちり噛みつき、そのまま首を振り……俺ごと放り投げた。
「がはっ!」
当然、俺は壁に打ち付けられる。
落ちた灯りの魔道具が離れたところから近くの壁を照らしている。
「くっ!アンナ早く魔法を!」
魔石が足りなくなるとか言ってる場合じゃない。この状況を打開するには魔道具しかない。
「おい!早くしろ!」
返事すら聞こえないので苛立って声を上げる。
だが、あたりには俺の呼吸音が響くだけ。
手元に灯りの魔道具がないので周囲の状況も分からない。
灯りのないところから飛びかかられたら、ヤバいな。
そんなことを考えていたが、暗闇の中から、2匹の赤いトカゲが慌てることなく、ゆっくりとこっちに近づいてきた。
灯りの魔道具に照らされたそのトカゲの目は怪しく輝いていた。
この討伐作戦に成功すればランクアップできるはずだと、5人みんなで喜んでいたのが懐かしい。
「……なんだよ、すげーのがいるじゃねぇかよ」
なんでダンジョンなんかに来ちまったんだろうな……。
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