第83話 司令部

「(こっち、とかげやられた~)」


「(人間、まだ迷ってる~)」


「(休憩中みたい~)」


 監視スライム達の報告がひっきりなしに頭に響く。


 ここは深緑の森のダンジョン最深部、ダンジョンコアの間だ。ここで、俺は全体の指揮をとっていた。しかし、これは……


「忙しすぎるわ!」


 誰もいないこの場で一人で突っ込みたくなるくらいに忙しない。なんせ、今回やってきた冒険者も10パーティを超えている。それらについて、監視スライムから状況報告が来て、それぞれに対応の指示をしているのだ。場合によっては転移を使って俺自らロックリザードを運んだりして。


 だが、忙しくしている分、成果は確実に出ている。着々と冒険者の数を減らしており、もう残りは半数ほどだ。やはり、探知の魔道具対策がかなり効いている。ロックリザードの奇襲に対応できずに、一発リタイアしてくれる冒険者多数。奇襲が失敗してもさすがはCランクの魔族だ。冒険者パーティを倒せないまでも手傷は十分に負わせる。ダンジョン内に50体いるロックリザードを適宜配置し、順調にその数を減らすことができた。


 そして、もう1つの対策。逆落とし穴も効果抜群だ。ちょっと監視スライムと起動スライムの連携がうまくいってなくて冒険者パーティの一部しか落とせなかったりもしたが、まぁ許容範囲だ。

 逆落とし穴はそれを起動させるスライムが道の下に待機しておく必要がある。その待機場所の分はヘッジ達に冒険者達が通る道の下にさらに地下道を掘ってもらってある。つまり、最終的に冒険者達はこの物理的な地下道に落ちてくるわけだ。これがいい。


 監視スライムは、冒険者が落とし穴の底にたどり着いた時に起動スライムに《交信》で合図を送る。そして、起動スライムは冒険者達がいるところよりさらに下にある地下道の天井の罠に触れる。すると穴が開き、冒険者は落ちてくるわけだ。落ちた先は地下道なので、罠としての落とし穴の内部には誰もいない状態になる。したがって、すぐに落とし穴は復元する。

 結果として、一度落ちると決して元にはもどれない落とし穴になったわけだ。まぁ、ふか~く掘ってある地下道でジャンプして天井に触れられればまた罠は起動するが、そのうえで、もとの場所にもどるには羽でもついてない限り無理だ。

 それに、落とし穴に落ちなかった仲間がいたとしても、その仲間はどうしようもない。なにせ、罠の起動は落ちた先からでないとできないのだ。地道にスコップで掘りでもしない限り、合流は不可能だ。


 ついでに、罠の起動面が冒険者が通る道にないことで、やはり冒険者が持つ探知の魔道具は反応しないようだった。


 これは横の落とし穴でも活きた。

 落とし穴で作った道の中に予め、岩などの異物を入れておく。するとそこは開きっぱなしになる。で、冒険者が通ったあとで、その異物を取り除いてやれば、帰り道を閉ざしてやることができる。まぁ、これがダンジョンコアに続く道だと、『ダンジョンの理』に触れてダメなわけだが、関係ないところでやる分には何も問題ない。

 ついでに起動している間、罠は魔力を発していないらしく、探知の魔道具でも検知できないようだ。これのおかげで冒険者は自ら袋小路へと入っていく。閉じ込めてしまえれば、あとはどうとでもなる。


 ……まぁこないだの女冒険者のように、強力な魔道具でも持ってれば、洞窟で道をぶち抜いてしまうんだろうが。さすがに普通の冒険者はそんな魔道具は持っていないようだ。


 総じて、今回は冒険者どもを一網打尽にできた。


 ……1人を除いて。


 そう。前回、森の大空間までやってきたあの女冒険者だけは足止めできていない。


「やっぱり、あいつはちょっとおかしいな」


 まず、ロックリザードはダメだった。《擬態》のスキルが効いて、探知の魔道具には反応していないのは確かなのだが、なにせ《擬態》は動き出すと効力がなくなってしまう。攻撃を仕掛ける瞬間には《擬態》は解かれてしまうわけで、そのわずかな時間であの女は反応してしまう。そのうえ、ルビーの《ウインドカッター》を弾き返したあの鱗をものともせず切り捨てやがった。


 逆落とし穴も仕掛けてはいるのだが、なにせ反応が速い。穴が開いた瞬間、移動してしまって、落ちてくれないのだ。一番うまくいった時は落ちかけてくれたのだが、壁を蹴って上がってってしまった。


 しかもだ。なぜかよく分からんところで、例の強力な魔道具を使ったと思ったら、洞窟の中の道を他の道とつなげやがる。つまり、洞窟をショートカットして行くのだ!これにはまいった。俺とヘッジが苦労して作った地下迷宮が意味をなさない。


「まぁ、そんな簡単に行くとは思ってなかったさ」


 別に強がりではない。あの女冒険者だけは別の対策を用意しなくてはならないことは分かりきっていた。そのためにティナも特訓していたのだから。


「(女の子、出口についたよ~)」


 監視スライムから報告が届く。

 とうとう、あの女冒険者は脱出してしまったらしい。


「それじゃ、ティナ、手はず通り頼むぞ」


「任せて。ぎゃふんと言わせてやるわ!」


 俺はティナに《交信》で激励の言葉をかけ、最後の仕上げへと向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る