第79話 アタシも強くなりたい

「やっぱりダメじゃない」


 ここは地下にある森の大空間だ。目の前には、ダットン達4人が倒れている。


「アネゴ……強すぎっす」


「こないだ戦った時よりつえーじゃねーか……」


「そりゃそうよ。アンタ達相手に本気出せるわけないでしょ。殺されたいの?」


 ダットン達は新しい魔道具を得て、自信満々でティナに挑んでいったが、結果はこれだ。4人がかりでもまだまだティナの方が強いらしい。


「もう、どうしたらいいのよ!一人で訓練するしかないのかしら……」


 こないだの女冒険者に勝てなかったのが悔しかったらしい。

 だが、確かにティナも強くなってもらわないと困る。ダンジョンコアのスキルが使える俺は全体の指揮をとるのがいいだろうから、できれば前面に出て戦うのは避けたい。Cランクまでの魔族で相手できないような強敵は必然的にティナがすべて相手取ることになる。


「ティナ、これを使ってみるか?」


 俺は1つの指輪をティナに渡す。


「それ、『敏捷の指輪』じゃないっすか。なくなったと思ったら、ダンナが持ってたんすか!」


 ルイーズが騒ぎ出す。これは一時期ルイーズに貸し出していた魔道具だ。つけると瞬発力が上がるらしい。


「人間用に作られた魔道具をアタシが使えるかしら?」


「分からん。だから試してみようってことだ」


 ティナは胡散臭げに指輪を見回した後、右の薬指にはめる。


「どうだ?」


「いまのところはなんとも」


「つけただけじゃ何も変わんないっすよ。走ってみたらどうすか?俺の場合は明らかに速くなりましたよ?」


「ふ~ん?」


 ルイーズのアドバイスを受けて、ティナが走り出す。

 速い。

 さすがは獣人。身体能力は抜群だな。


「めっちゃ速いじゃないっすか!!効果出まくりっすね!!」


「あんな動きされたら、俺らじゃぜってー敵わねぇ……」


 ……どうだろうか?

 確かに速いが、そこまで驚くほどか?


 そうこうしているとティナが浮かない顔をして戻ってきた。


「ダメね。少なくともアタシには効果は感じられないわ」


 やっぱりか。


「「「「え~~~あんなに速かったのに!?」」」」


「獣人なめるんじゃないわよ。アタシが本気出せばあれくらいにはなるの」


 ティナはスピードを褒められて、少し得意げだ。

 一方のダットン達はいかにティナがこれまで手加減していたかを知り、愕然としている。


「魔道具からティナの方へ魔力が流れようとしてるのに止まってしまってるように見えたな。魔族が持つ魔力が魔道具の働きをジャマしてるのかもしれない」


「ダメか~まぁ期待してなかったけどね」


 そう言いつつも残念そうなティナ。だが、諦めるのはまだ早い。


「こっちはどうだ?」


 そう言って、今度は杖をティナに渡す。


「それって、なんかの魔法の魔道具かしら?」


 同じく魔法の魔道具を使う者としてリズリーが気になったようだ。


「そうだ。《アースニードル》の魔道具だな」


 魔道具の力を内に使うステータス上昇系の魔道具はダメでも、外に放つ魔法の魔道具なら大丈夫なはずだ。以前、俺でも魔道具の魔法は使えたから間違いない。


「魔法か~そもそもアタシ《ライト》の魔法くらいしか使えないし、使いこなせるかなぁ」


「魔力を持ってない人間が使える道具だぞ。ティナが普段魔法を使わないからといっても、使えないわけはないだろ」


 自分の戦闘に組み込めるかどうかは別だろうが。


「ちょっと抵抗あるけど……」


「まぁ、とりあえず使ってみろよ」


 しぶしぶといった感じで、ティナが杖を構え、目を閉じる。


「《アースニードル》」


「うぉっ!!」


 円錐形の土の塊が地面から飛び出し、その尖った先端部分がダットンの顔の横を通り過ぎていった。


「あぶねぇよ!アネゴ、慣れるまであっちでやってくだせぇ!」


「あら、案外狙い通りにできるものね~」


「わざとかよ!!」


 冗談冗談とニヤニヤ笑いながら、ティナが言う。


「でも、使い勝手は悪くないわね。私でも普通に使えるし、魔力を消費しないし。ただ、やっぱり私の戦闘スタイルとどう組み合わせるかは考えないとダメね」


 ティナは自身の身体能力を活かして、短めの剣に格闘術を組合わせたヒットアンドアウェイの戦法だ。これに魔法も使うとなると、確かにちょっと難しそうだ。


「……ちょっとした思いつきだが、魔法は攻撃に使うんじゃなくて、動作の補助に使ったらいいんじゃないか?」


「カイン兄、どういうこと?」


「つまりさ。《アースニードル》でティナを射出する、とかどうだ?」


 自分の足元に土の塊を突き出すことで、初速を稼ぎ、高速移動ができたりするんじゃないか?《アースニードル》で生まれる土の先端はとがっているものの、もともと突き刺すというよりも、その質量で打撃を与える効果の方が高い。ティナなら自分に使っても刺さるということはないだろう


「いや、旦那?あくまでも魔法は攻撃だぞ?自分で自分を攻撃してどうする?」


「……やってみるわ」


「おいおいマジかよ……」


 呆れた様子のダットン達の横で、ティナが再び杖を構える。


「《アースニードル》」


 土の塊が今度はティナの足元から、斜め前に向かって勢いよく生えてくる。

 それに合わせて、ティナが跳ぶ。


「「「「なっ!?」」」」


 まさにロケットスタートだ。俺の目でもかろうじてその姿を追えるくらい。ダットン達には消えたように見えたかもしれない。

《アースニードル》の勢いにティナの脚力が加わり、とんでもないスピードになったようだ。


「《アースニードル》ってそーゆー魔法じゃねーだろ……」


「俺達が同じことやっても、魔法使った瞬間悶絶するだけな気がする……」


 ダットン達が呆然としている一方、戻ってきたティナは大はしゃぎ。


「これよ!これ!これならいけるわ!!」


 発動までの時間や跳ぶタイミングなどまだまだ調整は必要だろうが、実践に使える手応えは感じたらしい。


「足は大丈夫か?」


「う~ん、痛いは痛いわね。先端がとがってない《アースニードル》とかないかしら?」


「いや、無茶言うな。だが、ピラー系やウォール系も試してみてもいいかもな」


 潤沢にあるわけでもないが、これまで倒した冒険者からいただいた魔道具はまだまだある。

《アースニードル》に限らず、使えそうなものを選べばいい。


「ちょっと見えてきたかも!!カイン兄、ありがとう!!!」


 これでティナもパワーアップしてくれるかな。

 しかし……魔石の消費がかさみそうだな……。

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