第78話 ロックリザード
さて、ダンジョン拡張部隊の次はロックリザードだ。
「(やっとまともな戦力になる魔族が増えるんやな~。CランクのダンジョンなのにCランク以上の魔族がダンジョンマスター含めて3体ってどうかと思うで?)」
「(むしろ、その戦力で先日の冒険者達を退けられたんだから、大したもんじゃろう)」
「……」
ルビーとミズクが耳の痛いことを言ってくる。
「いや、分かってはいたんだがな。やっぱりコアの魔力は大事に使わなきゃならんし、まずは方針を決めないとだな……」
「(そんなこと言うといて、コア獲られたらアホやで?)」
うっ……それはまったくもってそのとおり……。
「(まぁまぁ。主よ、そのためにもロックリザードを創るんじゃろう)」
「あぁ……」
微妙にミズクのフォローが逆にイタイ…。
だが、そのとおりで、今、このダンジョンは圧倒的に駒不足だ。下層エリアでの戦力としてロックリザードには大いに期待している。
「さて、問題なのは、いったい何体創るかってところだな」
今のダンジョンコアの状態はこれだ。
【深緑のダンジョン】
管理者:カイン
ランク:C
魔力:86,489,/100,000
スキル:ダンジョン創造Ⅲ、魔族創造Ⅲ、魔族強化、交信Ⅰ、遠隔創造、転移Ⅰ、魔力調整、天変地異
魔力は潤沢にある。貯留上限ギリギリだ。
これでも地脈から引き出せる1日あたりの魔力10,000のうち、6,000くらいはコアの強化につぎこんでいる。
配下魔族への魔力補給やダンジョンの維持に使うのは1,200くらいだから、そりゃもう余裕だ。
むしろ、これまでが使わなすぎたのだ。せっかくCランクになったのに、それに見合ったダンジョンになってないといえる。
もちろん、ヘッジ達が魔力を使わずにダンジョンを拡張してくれるおかげでもあるけど。
「ほんとはロックリザードも配下じゃない状態で下層エリアにいてもらえればいいんだけどな」
創造した魔族は自動的に配下になる。
創った後で配下から外すのは自由にできるが、配下から外されるのを喜ぶ魔族は普通はいない。配下になっても別になんらかの拘束を受けるわけでもなく、単純にコアから魔力の補給を受けられる分トクだからだ。
「(またケチくさいことゆーて……めっさ魔力余ってんやから、ドーンといったれ!)」
「まぁそうだな。下層エリアは広いしな。ここは奮発するか!」
そして、俺はダンジョンコアを片手にロックリザードを創造していく。
「《魔族創造》ロックリザード」
そして、総勢50体のロックリザードが創造される。ここには収まりきらないので、1体を残し、他は下層エリアに散ってもらった。
その消費魔力量、なんと50,000!溜まっていた魔力の半分以上を使ってしまった!
「(そんな『使ってやった』みたいな顔してんけど、よう考えてみ?50,000って5日分やからな?大したことないで?)」
……まぁそういう考え方もできるな。
「(そうじゃのう、日常的な魔力の補給とて、ロックリザード分で1日あたり1,500。むしろまだまだ余裕があるのぅ)」
ミズクよ、おまえもか。
「……いや、いいんだ!どうせ、今はもう大して魔力は残ってないしな!」
ルビーとミズクがジト目でこちらを見ている気がするが、気のせいだ!
ロックリザードは予定通り、みな《擬態》のスキルを持っている。
見た目は大きなトカゲ。体長は1メルトくらいだろうか。体の表面は灰色でゴツゴツとした感じで、まさに『岩』という感じだ。ちょっとこの洞窟の色合いと違うが、スキルを使っていなくても、遠目から見たら生き物には見えないだろう。
「ロックリザード、これからよろしくな。さて、まずは《擬態》を使ってみてくれ」
「(承知した)」
その瞬間、ロックリザードの気配が薄れる。
そこにいることは分かってはいるのだが、見た目にはまったく分からない。さきほどまでは灰色だったのだが、スキルを使ってからは洞窟の色と全く同じ色・質感に変わったようだ。よくよく見ると若干目の部分が白くなっているように見えるが、そこに『いる』と知らなければ絶対気づかない。
「(ほほぅ。これはスゴイのぅ)」
「(まったく分からんな。魔力もトレントと一緒で感じられんで)」
トレントの《擬態》についても確認済だ。やっぱり《擬態》のスキルを使えば、魔力も隠せるようだ。
「あとはちょっと戦いの様子も見たいかな」
トレントは《擬態》は使えるものの、なんせ鈍い。
枝を振り回す一撃はリーチもあり、スピードも悪くはないが、移動速度は壊滅的。冒険者が離れて長距離から魔法で攻撃してきたら、もうどうしようもなくなるだろう。
トレントは本当に奇襲特化だ。
その点、ロックリザードはどうなのだろうか?
見た目はなんとなく、やっぱり鈍そうだが。
「(よっしゃ、先輩Cランクのワイがちょいと相手したろ。かかって来―や)」
「(わかった。行くぞ)」
ロックリザードが《擬態》を解き、ルビーに向き合う。
ちなみに《擬態》のスキルは移動中は使えないことが分かっている。立ち止まっていないとスキルの効果が現れないのだ。一度戦闘に入れば《擬態》のスキルは基本役に立たない。
「(いつでもええで~って!?)」
ルビーが言い終わるか否かというタイミングでロックリザードがルビーに飛びかかる。
そのスピードが……速い!
見た目とは裏腹にかなり俊敏なようだ。
ロックリザードは飛びかかった勢いそのままルビーに噛みつこうとする。
……というかルビーが小さいから丸呑みされる勢いだ。
「(っあぶな!)」
ルビーがすんでのところで飛んで躱す。
「(こっちもやるで!《ウインドカッター》)」
風の刃がロックリザードを切り刻……めない。
ロックリザードの岩のような表皮がルビーの魔法を弾く。
「(なんやて!)」
ロックリザードは再び、空中にいるルビーへとびかかり、今度は爪で切り裂こうとする。
「(なんちゅーやつや!《ウインドボール》)」
ルビーが切り替えて、風の塊をロックリザードへと打ち出す。宙にいるロックリザードは避けることもできず、モロにくらい吹き飛ばされる。
といっても、あの表皮じゃ大したダメージにはならんだろう。
「(グェェ)」
「ん?」
ロックリザードが仰向けにジタバタしながら苦しんでいる。
「そこまで!」
俺は戦いを止める。しばらくしてロックリザードは起き上がってきたが、まだ苦しそうだ。
「(なんなんや?《ウインドカッター》は弾いたくせに《ウインドボール》は効くんかいな)」
「(ほぅほぅ、ロックリザードは背中側には硬い表皮があるようじゃが、腹側はそうでもないようじゃの)」
なるほど。《ウインドボール》は腹の方に当たったから、ダメージを受けた、と。
「(ん~わかりやすい弱点やな~)」
「あと、飛びかかって攻撃、というのが少し単調な気もするな。飛びかかると弱点を晒すことにもなるわけだし」
表情が読みにくいが、ロックリザードは申し訳なさそうにしているように見える。
「(飛んでいるルビーが相手じゃったから、腹を晒すことになったが、地に立つ人間相手なら、そこまで気にもならんじゃろう)」
「そうだな。それにスピードはかなりのものだ。レベル1にも関わらず、あれだけ動けるのはさすがはCランクといったところだな」
主には奇襲がまずメインの攻撃手段となるのだから、その初撃のスピードが期待できるのは非常に良い。それに奇襲を外してもトレントと違って、十分戦えそうでもある。
戦力としては十分だな。下層エリアの防衛には大いに役立ってくれそうだ。
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