第75話 魔力探知の魔道具対策
「(しかし、冒険者みんな魔力を探知する魔道具持ってたっぽいっすね。あれ、ずるいっすよ!)」
みんなでダンジョン産の果物をかじりながら、今後のことを考えていると、ヘッジが愚痴をこぼす。
「それに関連してなんだがな、今回の襲撃でいくつか気づいたことがある」
魔力探知の魔道具はこっちの仕掛けをガンガン見破ってくるやっかいなもんだ。だが、今回の襲撃を通じて、つけいるスキも見いだせたような気がする。
「まず、トレント達のスキルだが、実は結構スゴイものなんじゃないかと思ったんだ」
「(トレントのスキルってーと、《擬態》やな)」
「ルビーの言うとおりだ。もともとトレントは木まんまなんだから、ほとんど意味ないんじゃないかと思ってたんだがな」
今回、トレントには下層エリアへの各入口付近に極力集まってもらい、冒険者への奇襲攻撃をお願いした。冒険者達はみな魔力を探知する魔道具を持っているようだったので、どこまで成功するかが不安だったが、これが予想外にうまくいったのだ。
「それがどうかしたの?」
「もしかすると《擬態》は魔力も隠せるのかもしれない」
スキルによって、トレントが持つ魔力が隠されていて、それで冒険者達が気づかなかったのだとしたら、奇襲がうまくいったことにも説明がつく。
「(なるほどな~。スキルの効果は見た目だけやないと。トレント呼んでスキル使わせれば確認すんのは簡単やな)」
「あぁ、もしそうだとすると、《擬態》は魔力探知の魔道具を持つ冒険者に対して非常に有力なスキルってことになる」
「じゃぁ、トレントをもっと増やして、もっと奇襲させようってこと?」
ティナが気づいたことをどう活かすのかと聞いてくる。
「それもある。だが、やはり深緑のダンジョンの主戦場は下層エリアだ。下層エリアで使えるようにしたい」
「(なるほどのぅ。《擬態》スキル持ちの他の魔族を創るということじゃな?)」
「正解!」
森の大空間を除いて、トレントを地下の下層エリアで擬態させるのはさすがに無理があるだろう。だが、《擬態》スキルを持ち、地下空間に適した他の魔族だっているはずだ。
「ミズク、良さそうな魔族に心当たりはあるか?」
「(そうじゃのぅ。ロックリザードが確か《擬態》を持っておったはずじゃ。あれなら、洞窟内でも戦えるじゃろうし、どうかの?)」
「いいな!それでいこう」
なにせ、ダンジョンコアの魔力は使いみちに迷っていたせいで、潤沢に溜まっている。これを機にガンガン使うぞ。
「(魔族増やすなら、拡張部隊も増やして欲しいっす。鍾乳洞エリアとか崩しまちったっすから、大工事が必要っす。それでなくても、下層エリアは改造するっすよね?)」
そういやそうだった。冒険者が逃げ出しそうだったから、仕方なく鍾乳洞の出口を1つ崩してしまった……。使いたくない手だったのに。
「もちろんだ。ヘッジ達の部隊の強化は必須だと思ってるぞ」
「はいは~い、だったら、アタシの訓練相手も欲しい!」
「……いや、Cランクまでの魔族しか創れないからな?ティナの訓練相手になるようなのは無理だろ」
確かに、ティナの訓練相手は必要だとは思うが……。
「ティナのアネゴ!俺達が相手になるぜ!」
そう声を上げたのはダットンだ。
協力的なのは嬉しいが……。
「……アンタ達じゃ相手にならないわよ」
「ふっふっふっ」
ダットンを始めとする4人組がなにやら自信ありげに笑う。
「これまでの俺達と思ってもらっちゃー困るな。これを見ろ!」
そう言って手にするのは、今回の戦利品、魔道具だ。
殲滅した冒険者達が持っていた魔道具についてはきちんと回収してある。それを持ち出してきたようだ。
「力を大きく増加する『剛力の腕輪』に魔法系魔道具のタメを短くする『集中のイヤリング』、他にも高価な魔道具がどっさりだ!」
「いい魔道具なのか?」
「あぁ、中堅どころの冒険者が持ってて、いいもんじゃねぇ。今回やってきた冒険者はボンボンばっかだったのか?」
ふむ。ゴブリン隊がいいようにやられたが、魔道具で底上げされた冒険者達だったのか。
「旦那~これもティナのアネゴのためっす。いいっすよね?」
あからさまにゴマをすってくる4人。
気持ち悪い。
「……魔道具程度でどこまでティナの相手ができるのかは疑問だが、まぁいいだろう」
「「「「ぃやったーーー!」」」」
「言っとくが、貸すだけだからな。壊すなよ」
だいぶ前にも魔道具を貸してやって、ティナにボコボコにされてたが、こいつら覚えてないのだろうか?
まぁ、人間の冒険者の相手をさせるわけにもいかないし、せいぜいティナの訓練で役立ってもらおう。
「(で、主よ。気づいたことがあると言っておったが、トレントの件だけかの?)」
おぉ、話が猛烈にそれていたな。
「いや、まだある。やつらの魔力探知の魔道具についてだ」
「(……あれ、ひどいっすよね。まさか罠までバレるとは思わなかったっす。あれじゃ、罠は全滅じゃないっすか)」
「いや、そうとも限らないぞ、ヘッジ。探知しながら進まざるを得なくなれば、進む速度は落ちるし、戦闘している最中とか、余裕がない状況なら罠にかかる可能性だってあるだろう」
「……あれ?でも、冒険者殲滅した下層エリアの1つで、罠にひっかかったのなかったっけ?」
「(包囲の洞窟で、オレ達、活躍した~)」
「(そういや、そうっすね。小さな洞窟で、落とし穴を扉代わりに使ってゴブリン達に包囲・奇襲させる罠には引っかかってたっすね)」
「そう。俺が気になったのはまさにそれだ」
あとで調べてみたら、その冒険者達も魔力を探知する魔道具らしきものは持っていたのだ。
なのに、なぜ気づかなかったのか?
「たぶん、あの魔道具は反応する範囲がかなり狭いんじゃないかな?」
「それはそうだと思いやすぜ。すげー高価なやつなら分からないっすけど、冒険者が持つようなやつの効果は大した距離じゃないって聞いたことがありやす」
ルイーズが補足してくれる。
「(え~と?あの洞窟では冒険者が壁に近寄らなかったから、ゴブリン達がいる落とし穴もバレなかったってことすか?)」
「いや、違う。それもあるかもしれないが、大きな要因は落とし穴が逆向きだったから、だと思う」
落とし穴はたしかに微弱な魔力を発している。あんな微弱な魔力を拾うなんて大した魔道具だと思うが、その魔力を発しているのは、落とし穴の入口側、反応する地面・壁の面だけだ。包囲の洞窟では、扉として使っていたから、罠としての反応面は冒険者がいた洞窟の壁側ではない。その反対側のゴブリンがいた面だ。つまり、魔力を探知する魔道具じゃ、反対側の反応面の魔力までは探れないってことだ。
「(なるほどのぅ)」
「(なんや、アナログな罠にするってことかいな)」
ミズクとルビーは気づいたようだな。
「……つまり、どうしたらいいってこと?」
分からない組を代表してティナが声を上げる。
「つまり、罠として使ってる落とし穴も全部、逆向きにしてしまえってことだよ」
そうすれば、おそらく魔力探知の魔道具では探知できなくなる。
「逆向きにしたら、落とし穴なのに落ちてこれないじゃない」
眉を寄せて、ティナが言う。
そりゃ、何もしなければそのとおりだ。
「そこは手動にしてやればいい。スライム達を使ってな」
つまりはこうだ。
落とし穴自体は逆向きに設置しておく。
落とし穴の付近には監視スライムにいてもらう。そして、落とし穴の反応面の方にもスライムを配置。そうだな、このスライムを起動スライムと呼ぼう。
冒険者が落とし穴に近づいてきたら、監視スライムが起動スライムに合図を送る。合図を受けた起動スライムは落とし穴の反応面に触れて、落とし穴を作動させる。
こうすれば、魔道具に探知されない落とし穴が出来上がる。
「……なるほど」
「ポイントはスライム達の連携だな。タイミングが悪いと、冒険者達が通り過ぎた後で地面に穴があいたりすることになる。そこはスラポン達に練習してもらうしかないな」
「(任せて~)」
「(いいっすね!これで落とし穴がまた有効になるっすね!)」
うむ。次に来た時の冒険者の反応が楽しみだ!
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