第76話 【ルーベン】喜ばしいはずの話
「報告を聞こうか」
イルミアをはじめとした冒険者達が深緑のダンジョンより帰ってきた。
さっそく会議を開き、私とギルド長のライリーでイルミアより今回の作戦の首尾を聞き、今後の計画を検討することにした。
「まず、冒険者だけど、参加したCランクパーティ10組のうち、2組は完全に全滅。1組は1人残し全滅。1組は半壊。他重傷者多数」
「……大損害だな」
今回の作戦は様子見だったのだ。それにも関わらず、3割以上の冒険者が失われたというのは由々しき事態だ。やはり、あのダンジョンの攻略はそう簡単なものではなかったか……。
「その代わり、洞窟の中の森の中で獣人を発見。居場所はまず特定できた」
「こっちの損害はともかくとして、当初の目的は十分に達成したってことか」
ギルド長のライリーが満足気に頷く。
ん?いや、今なんて言った?
「洞窟の中の森の中?」
「それも含めて、ダンジョンの様子について説明する」
イルミアが淡々と報告を続ける。
「まず、森の奥に入ったからといって、特別強力な魔獣はいなかった。ちょっと変わったゴブリンがいたくらい」
「一度町が襲撃されたときもゴブリンだらけだったな。深緑のダンジョンはゴブリンが中心なのか?」
「たぶん、そう。他の冒険者の話を聞いても、いたのはゴブリンばっかだったって。ただ、ゴブリンのくせに武器を持って、陣形を組んで、戦略的意図を持って戦っていたみたい。Dランクパーティくらいだとやられるかも。なめてかかるとCランクでも危ない」
それは相当だな。
Cランクすら脅かすとは、もはやゴブリンとは思えん。
そういえば……
「ダンジョンを最初に見つけたDランク冒険者がゴブリンにやられたとかいう話があったが、今考えるとそのゴブリン達を相手にしていたのかもしれないな」
領都でその話を聞いたときには、セレンの町の冒険者のレベルの低さに驚いたものだが、冒険者のレベルが低いだけでなく、相手のレベルが高かったようだ。
「とはいっても、ゴブリンはゴブリン。脅威になるものじゃない」
「じゃ、なんでそんなに冒険者はやられることになったんだ?」
「森の奥に洞窟があった。獣人がいたのもその洞窟の中。ダミーの洞窟もいくつかあったみたいだけど、その洞窟のつくりが悪辣」
それから、私達はイルミアが冒険者達から聞いた話も含めて洞窟に何があったのか聞く。
「酸の雨が降ってくる洞窟か……傘でもさして進むか?」
「いや、地味だが、洞窟の道が狭いというのもやっかいだ。やつらはどうしてるんだろうな?」
「とにかく長いのもやっかいだった。魔道具の魔石の消費が激しいから、灯りや探知の魔道具用の魔石は予備がたくさん必要」
全滅したパーティもあるので、情報が十分とは言い難いが、その洞窟が魔族の本拠地だというのはよく分かった。深緑のダンジョンというから、てっきり森がダンジョンなのかと思ったが、まさか地下型ダンジョンだったとは。そこまで手をつくすような魔族だ、名前ももしかしたら、ワザと勘違いさせるような名前にしたのかもしれないな。
「で、洞窟の奥には森があったと?」
「そう。ダンジョンは魔族の好みがでると言われる。猫の獣人だから洞窟より森が好きなのかも?」
だったら、最初からフィールド型ダンジョンにすればいいだろうに。
というか、猫は森が好きなんだったか?
いや、まぁそんなことはどうでもいい。重要なのは……
「イルミア。結局のところ、いけそうなのか?」
ダンジョンマスターたる獣人を討つことができそうなのか?
領主のバーナード様の期待に応えることはできるのか?
私とライリーはイルミアを見つめる。
「問題ない。初見で対応するのは難しいかもだけど、知っていれば簡単に対応できるものが多い。なにより、魔獣が弱い」
そうだな。
比較的強いとはいえ、ダンジョンの主力がゴブリンではたかがしれている。
これは前から思っていたことだが、あのダンジョンはまだ若いのだろう。
洞窟は迷宮のようになっていたというが、イルミアが正解のルートを知っているので、そこは問題ないだろう。
魔獣が大して強くないと分かっていれば、罠にだけ注意して進めばいいのだ。
今回のような被害は避けられるだろう。
「じゃぁ、次で仕留めるか」
「うん。ただ、準備は必要。魔道具用の魔石がたくさん欲しい」
「冒険者もケガしているのが多い。休養期間は必要だし、追加で集めようと思うとそれはそれで時間がかかる」
次の遠征に向けて、ライリーとイルミアで話が進められていく。
そうか、次にはあの獣人を討伐できるのか。
喜ばしいことのはずなのだが……。
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