第74話 ずるい女
「なんなんだ!あの女は!?」
異常だろ!こっちが用意していた罠をことごとくつぶしやがって!
「(あれ、魔道具のせいだけじゃなかったっすよね……)」
「あぁ、一部の落とし穴は確かに魔道具で見つけてたみたいだが、他は魔道具を使ってた様子はなかったらしい」
素でかわしてやがった。
んなことあり得るのか!?
まず、そもそもとして入口だ。
今回の冒険者の中ではあいつが明らかに一人飛び抜けた力を持ってやがった。
それがなんで、正解の入口を選ぶ!?
下層エリアへの入口は10個以上あるのに、だ。
そして、道順。
下層エリアは途中でいくつにも分岐した道からなるのに、あいつは何の苦労もなく、ただひたすらに正解の道を選び続けやがった!
「あれが、ただのカンだとしたら、もはや超能力だ」
人間のくせになんかスキルでも持ってんじゃねぇか?
《豪運》とか《予知》とか……。
「(オレっち達の会心作の二重落とし穴も見破られたわけでもなく避けられたっす……)」
そうだ。ひっかかった上で回避されたとか、魔道具で検知されたとかならまだしも、気にも止められずに回避されたのだ。どうやら、罠の底に槍衾でもあると思っていたらしいが、飛び込むならその前にふつー床は確認するだろ。見てから飛び込め!
そもそも落とし穴の底の横道だって、進行方向から見たら分からない側につけていたんだ。それもなんなく見つけやがって……なんなんだ!!
「(仲間たち、すぐやられた~)」
「あぁ、スラポン、あれもひどいよな!普通『とりあえず』で魔道具使うか?やつらにとって魔石は貴重な資源のはずだろう」
ダンジョンの中には、各所に頭上を開けた場所にして、冒険者達が届かないような場所にスライム達を待機させているスライムゾーンを用意している。そして、スライムゾーンに来た冒険者にスライム達のスキルを浴びせるのだ。スライムのスキルは弱い。だが、訓練で濃縮させることに成功したスライムのスキルを多数浴びせれば、さすがに効果は出る。
だが、あの女は一発スライムのスキルくらった時点で、魔道具を使ってきやがった。魔石は大事に使え!
最初のスライムが一瞬でやられたのをみて、仕方ないので、下層エリアのスライムは全員引っ込めた。あれじゃ、嫌がらせにもならん。
総じて、下層エリアの罠はほとんどあの女には通じなかった。
「なんなの?アタシ、Aランクよ?筋肉ダルマといい、コケシ女といい、なんでアタシが相手する人間はみんな異常に強いのよ!!」
それは、強そうな相手に俺がおまえを当ててるからだが……。
例によって、ティナが荒れている。
俺が《転移》を使って、位置を特定させないようにしながら、魔法で援護したから早々に撤退を決めたようだが、ティナ一人じゃ勝てるかどうか……。
「ねぇ、カイン兄、そういえば、あのコケシ女、なんで魔法連発できてたのかしら?人間だって、魔道具使うのにタメが必要なんじゃないの?」
「あぁ、あれはおそらく、同じ魔道具を複数持ってたんだろう。それなら、タメは一回で済んでもおかしくない」
どんなけ魔道具持ってんだって話だが……。
「というか、なんで逃したのよ?監視スライムいるんだから、あんな魔法で姿見失ったわけじゃないでしょ?」
「……それについては俺も悩んだ」
なにせ、やつはダンジョンの正解ルートをしっかりと探り当ててしまった。罠のことだって知ってしまったし、それらの情報を人間側に渡されるのは非常にまずい。
「情報漏洩を防ぐためにも、犠牲は覚悟で仕留めなきゃならないと俺も最初は思ったさ」
「じゃぁ……」
「ところで、ティナ、あの女は逃げていったわけだが、どうやって帰ったか分かるか?」
「え?ふつーに正解の道来たんだから、そのまま同じ道通って、戻っていったんじゃないの?」
それはできないのだ。戻るためのルートもあるにはあるが、行きと帰りでは道は異なる。同じルートは通れない。
「行きのルートには落とし穴を扉代わりに使ってるところがある。落とし穴は一方通行。落ちた先から落とし穴を開く方法はないんだ」
「あっ……そういえばそうね。じゃ、あの女はどうしたの?」
「ぶち抜いてった」
「……は?」
ティナが間抜けな顔をして、口をポカンと開けている。
「道が塞がってるとみるや、とんでもない出力の魔道具で無理やり道をこじ開けてったらしい」
監視スライムが言うには、
「(寝てたのかと思ったら、突然、大きな杭が出てきた~)」
だそうな。
スライムが寝てると思うくらいに発動に集中を要する魔道具なのだろうが、落とし穴の深さは5メルトくらいある。それを一撃でぶち抜くなんてとんでもない威力だ。
「スライムからそれを聞いて、俺は思ったのさ。『あ、これ、根本的にダンジョン変えなきゃダメだ』と」
「……」
「どうすればいいのか、今は分からん。だが、どうせ変えるなら、今のダンジョンの情報が漏れてもさほど痛くはない。あの女を止めるのは相当の犠牲を払うことになっただろう。だったら、大人しく帰すかな、と思ったのさ」
罠については、気づかないうちに避けられてたのも多数あるから、認識してないものも多そうだしな。
「(オレっちも今回で、まだまだダンジョンの改良が必要だと思ったっす!)」
「あぁ、ヘッジ。またイチから一緒に考えような」
俺とヘッジは軽く拳をぶつけあう。
「(ところで)」
ミズクが会話に入ってくる。
「(他の冒険者連中はどうなったのかのう?)」
「あぁ、スライム達から報告を受けてる」
今回、冒険者連中は10パーティ+女冒険者だったようだ。このうち2パーティは上層エリアにおいて、ミズク達が戦った。そいつらはその後町に帰っていったようだ。
残りのほとんどの冒険者パーティは下層エリアへの入口を見つけた時点で引き上げていった。だが、下層エリアに入ってきた3パーティはきっちり殲滅。といっても、その中で1人だけ逃げ出したやつがいる。これもあの女のせいだ!
「(ということは、少なくとも5パーティは無傷で帰っていったってことかのぅ?)」
「正確には無傷ではない。トレント達が奇襲をしかけてるからな。だが、一人も倒せてはいないな」
「……あの女も『今回は下見だ』って言ってたわ」
それらが何を意味するのか?
みんな今後の事を考え、空気が重くなる。
「(みんな?どうしたの?お腹減った?)」
……「みんな」ではなかったな。能天気なゴブリンがここにいた。
「やつらは近いうちにまた襲撃に来るから、みんな頭悩ませてんでしょ!ちょっとは察しなさい!!」
「(えっ!それやばいね!)」
「やばいわよ!」
「ぷっ」
「(ふぉふぉふぉ)」
「(なんや、コントみたいやなぁ」
ほんとにな。
だが、笑ってみると、沈んでたのが馬鹿らしくもなる。
「まぁ、まずはメシでも食って、これからの事を考えるか。大丈夫。手はあるさ」
なにせ、手を打つための元手は有り余ってるからな!
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