第73話 【イルミア】発見!
「よし、中に入るぞ!」
「止まって」
私は、今まさに洞窟の中へと入ろうとしている冒険者達を呼び止める。
「イルミアさん?」
「あなた達は帰りなさい。今回の作戦はこれでお終い」
「おいおい、どうしたんだ?俺達はまだ全然余裕があるぜ?こうして、あからさまに怪しい洞窟を見つけたんだ。調べないわけにはいかないだろ……って」
話しかけてきた男の目が、私が抱えているモノに気づく。
「それ……」
「同じように怪しい洞窟の入口に倒れてたのを拾った」
正確には倒れる直前で、だけど。ゴブリン達が追ってきてたけど、もちろん一蹴した。
「すぐ気を失ったけど、その前に何があったか聞いた。この男のパーティはこの男を除いて全滅。洞窟の中に罠があったって」
「罠なら探知の魔道具を持ってきてるぜ」
確かに普通のダンジョンの罠なら、探知の魔道具があれば見つけられる。探知範囲が狭いから、進む速度は遅くなるのがネックだけど。
「探知できないものがあったらしい。詳しくは戻ってから話す。とにかく洞窟内は危険。今はコレを持って戻って」
そう言って、私は抱えていた男をおろす。
「おいおい、あんたはどうするんだ?」
「私はまだ、洞窟の中を見ていない。少し探ってくる」
特にここの洞窟はさっきのと違って怪しい……気がする。
目の前の男はどうやら、私が一人で行くのは危なくないのかと言いたいようだ。
「心配ない。この男に聞いた程度の罠なら探知できなくても私なら問題ない。帰る途中で他のパーティを見かけたら、同じように帰還するように伝えて」
それだけ言い残して、私は洞窟の中へと入っていく。
洞窟の中を進むとすぐに少し広くなったところがあって、そこからいくつかの道に分かれていた。
私は迷わず1つの道を選ぶ。
とくにその道を選んだのに何か理由があったわけじゃない。
考えても正解の道が分かるわけないんだから、とりあえずカンだ。
「ん?」
歩いていると上から何か降ってきた。
倒れてた男は上から酸が降ってきたって言ってたけど、これは酸じゃなさそう。
「《ファイアボール》」
とりあえず、魔道具で上をテキトーに攻撃してみる。
カランカラン……
「魔石?」
上から魔石が降ってきた。見た所、Eランク程度の魔石だ。
「さっきのは低ランクの魔獣の攻撃だった?」
ということは、男の話にあった酸も、魔獣の攻撃だったのだろうか?
ダンジョンの罠じゃないとすれば、その魔獣さえ倒せば止まるはず。
確証はないが、それがもし低ランク、そうスライムなんかの攻撃だったのだとしたら、撃ち落とすのは容易だろう。
「次来たら、今度は捕まえよう……」
何も考えずに攻撃してしまったことを少し反省して、さらに洞窟を進んでいく。
すると今度は探知の魔道具に反応がある。
反応した場所は前方の地面。
とりあえず、ジャンプして飛び越えてみる。
「存在感知型ではない、と」
存在感知型の罠だと、上空を通りすぎただけでも罠が作動するのだが、その気配はない。ちなみに存在感知型の罠は矢や魔法が降ってくる程度なので、作動しても私なら問題ない。
念の為、反応した地面に定石通り石を投げる。
すると、石が当たったところを中心として穴が広がる。
「典型的な接触感知型の落とし穴ね」
ダンジョンにも難易度がある。接触感知型の落とし穴は低難易度のダンジョンでよくある罠だ。もちろん高難度のダンジョンにもあるのだが。
「襲ってくる魔獣のランクといい、この罠、ダンジョンの難易度は低そうね。……あれ?」
よく見ると落とし穴の底の方に横穴がある。
「……怪しい」
私は落とし穴に飛び込む。
落とし穴の壁を蹴り、反対の壁へ。そしてもう一度同じことを繰り返し、横穴に入る。
「って、落とし穴の底、普通に地面?」
普通、落とし穴の底は槍衾になってたりするもんだけど……。
気をつける必要なかったわ。
横穴は奥へと続いていた。どうだか分からないけど、これが正解の道なような気がする。
その後もいくつか落とし穴がありながらも、順調に進んでいく。
魔獣の姿は一向に見えない。
「でも、とにかく広い」
これまでいくつもの分岐があって、まだそのうちの1つの道しか歩いていないのにこれだ。
「あ、また切れた」
ライトの魔道具の魔石がまた切れた。これでもう3つ目だ。
攻略するなら、魔石は十分に予備を用意しておかないとダメね。
そうこうしていると、明かりが見えてきた。
その明かりの方へ進むとそこには……
「森?」
なぜ、地下を進んできたのに森が?
ぐるぐる歩かされて上下の方向感覚を狂わされたのだろうか?
……いや、よく見てみると、上は明るいけど、天井がある。
ここはやはり地下のダンジョンの中なのだ。
「でも、不思議ね」
私は森の中を歩いていく。
もちろん、警戒は怠らない。
ギンッ!!
突然、背後から振るわれた刃に自身の剣を合わせる。
「やっぱり?アンタも魔道具持ちなのね」
……いた。獣人だ。
今回のターゲット。
ちょっと予定とは違って、深入りしてしまったが、こいつを倒せばこれでお終いだ。
「こんなに簡単にあなたに会えるなんてラッキーね」
「……そうね。随分とアンタは運がいいみたいね。でも、ここでお終いよ」
私の二振りの剣と獣人の持つ小剣が幾度となくぶつかり合う。
速い。
Aランクの獣人だけのことはある。
しかも、見た目は年端も行かない少女に見えるのに、それに似つかわしくないパワーがある。あれが魔道具なしだというのなら、なんてふざけた生物なのだろう。
しかも、なんだろう?妙に攻撃が読みにくい。獣人がいくら強いとはいっても、魔道具によって底上げされた私とそう能力が変わるわけではないように思うけど……。
ん?
バシュッ!
背後からやってきた空気の刃が捻った私の体のすぐそばを通り抜ける。
「一対一だなんて言った覚えはないわ」
「さすが、魔族、卑怯ね」
魔法を使う魔獣が近くにいるようだ。
「あんなに大勢で攻めてきといてよく言うわよ!」
探知の魔道具の反応からすると、かなりの数に囲まれてるみたい。
「ちょっと手数が足りないわね」
「言っとくけど、逃さないからね!」
「安心して。今回は下見だから。また来るわ」
「逃さないって言ってるでしょ!」
「《フレイムフォール》《フレイムフォール》《フレイムフォール》《フレイムフォール》《フレイムフォール》」
私は魔道具を連発する。
私が逃げに徹するときの鉄板の技だ。
魔族連中が炎に包まれてるうちに、私は来た道をこっそりと戻った。
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