第72話 【冒険者】鍾乳洞
ぴちょん…………ぴちょん…………
どうやらここは、鍾乳洞のようだ。
「なぁ、ここハズレなんじゃねぇか?普通にただの洞窟だろ」
「確かにそうかもしれないけど……断言するには早いだろ。危険もなさそうだし、もう少し進もう」
戦士の男が愚痴るように言う。
森の中でこの洞窟を見つけて、中に入ってから一切魔獣に出くわさない。
これだけ広ければバット系やゴブリンなんかが住み着いててもよさそうなもんだが……。
「ちょっとストップ!」
「どうした?」
「……もしかしたら罠があるかも」
「何!?」
罠があるってことは、ここが普通の洞窟ではなく、まさしくダンジョンだということだ。
先頭を歩く斥候役が慎重に進む。
「ここね。床から魔力の反応があるわ」
そういって2メルトほど先を指差す。
「どーゆー罠なんだ?」
「そこまで分かるわけないでしょ!」
「まぁ床にあるってんなら、何かのスイッチか、落とし穴か、だろうな」
俺はそこらへんに落ちている石を1つ拾う。
「っと」
「ちょっと何ふらついてるの!未然に罠見つけたのに……気をつけてよ!」
「あぁ悪い悪い。おまえら、一応構えとけよ」
俺は拾った石を罠があると思しき場所に投げる。
その石が地面に触れた途端、直径2メルトほどの穴が広がった。
「はい、確定~」
「落とし穴ね」
確定したのは罠の種類だけじゃない。
「ここがダンジョンだな」
「どうする?一度戻るか?」
「そうだな。罠まで見つけたんだ。本戦は今回じゃないって話だし、引き上げよう」
「そうね。無理しないのが、長生きする秘訣だもの」
「あぁ、賛成だ」
そうして、俺達3人は来た道を引き返し始める。
だが……
ズズン……
「なんだ?」
「……あたし、イヤな予感がするんだけど」
遠くで低く唸るような音がする。それも洞窟が揺れているようにも感じる。
「俺もだ。なんだか冷や汗がとまらねーぞ」
ぴちょん……ぴちょん……
流れ落ちているのは鍾乳洞の水滴か、俺達の冷や汗か……
「急ごう」
俺達は走り始める。
「魔道具の反応は?」
「一切ないわ。魔族が近くにいるわけじゃないと思う」
ここに来るまで1時間ほど歩いた。だが、もう罠などがないことが分かっている今なら、走ればそう時間はかからないはずだ。
「キャッ」
斥候役の仲間が転んでしまう。
「馬鹿野郎!転んでる場合じゃねぇだろ!」
もう戦士の男が滝のように汗を流しながら、罵声を浴びせる。
その時、タイムアップを知らせる音が聞こえてくる。
ズドドドドドドーーーー
「……」
俺達はゆっくりと音がした方に歩いていく。
「……これは罠か?それともたまたま俺達の運が悪かっただけか?」
「ダンジョンの入口が崩落で塞がるなんて聞いたことないけど……」
さっきまで道だったその場所は土で埋まり、俺達はその場に立ち尽くした。
どうしたものか……。
魔法をぶっ放して土をどけることも可能だとは思う。
だが、これが罠ではなく、自然に起きたものだとしたら、さらなる崩落を誘発しかねない。
「いや、ちょっと待て……空気の流れを感じないか?」
……確かに。
わずかだが風を感じるような気がする。
「他にも出入り口がある?」
可能性はあるな。この鍾乳洞はかなり広そうだ。他のところにつながっていたとしてもおかしくない。
「魔族がいるなら、自分で出入口全部塞いじゃうわけないもんね」
まぁもしかしたら、これが自然発生的なもので、魔族も俺達と一緒に頭抱えてるかもしれないけどな。
「どのみちここにいても仕方ない。他の出入口を探そう」
ぴちょん……ぴちょん……ぴちょん……
「なんだかここ、寒いしな」
「そうね。っと」
斥候役が尻もちをつく。
「おいおい、またかよ」
「出入口が他にもあるかもって、分かったら安心しちゃったのかも。腰がぬけちゃったみたい」
「仕方ない。少し休んでくか……」
俺もなんだか、疲れたようだ。休みたい。
ぴちょん……ぴちょん……ぴちょん……ぴちょん……
「……」
「ゲェェッ」
戦士の男が急に嘔吐しだした。
「おいおいどうした?吐くならむこうでやれ」
「……」
「おまえもそう思うだろ?」
そう言って、斥候役の方を見るが、反応がない。
「おい?」
壁にもたれかかって、座っている斥候役の肩をつかんで、再度声をかける。
ドサッ
「どうした!?」
斥候役はそのまま倒れてしまった。
明らかに顔色が悪いし、息苦しそうにしている。
バタン
戦士の男も倒れる。
なんだ?どこかで毒にでも侵されたか?
いや、でもそんな気配どこにも……
ぴちょん……ぴちょん……ぴちょん……ぴちょん……ぴちょん……ぴちょん……
「まさか……」
いつのまにか降り注ぐように落ちてくる水滴を手の平にためて、なめる。
「苦い……」
これが毒なのか?
そう思った瞬間、吐き気を催す。
「うっゲェェ……」
バタン……
……そして目の前が真っ暗になった。
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