第71話 【冒険者】尋常じゃない

 俺達は深緑のダンジョンの攻略に名乗りを挙げた5人組のCランクパーティだ。

 なんでも魔族はAランクの獣人だっつー話だが、そんなもんを恐れて冒険者なんてやってられるか。ここで成果を上げて、俺達はBランクに昇格するのだ。


 順調に俺達は深緑の森を進み、ついに怪しい木のウロを見つけた。

 そのウロはそのまま地下への道につながっていたのだ。


「これ、明らかに作られたもんだよな?これで今回の目的は達成じゃねぇか?さっさとギルドにこの情報を持ち帰ろうぜ!」


「……いや、ダメだ」


「なんでだよ?ギルドからも深入りするなって釘刺されてるじゃねーか。ビビってるわけじゃねぇが、作戦上、情報を持ち帰るのが優先だろ」


「今回の目的は確かに魔族の居場所の特定だ。そして、明らかにここは魔族の手が入っていると見られる」


「じゃぁ……」


「だが、作戦はダンジョンがフィールド型であることが前提にある。もし、実はダンジョンが地下型だとしたら、俺達はまだ入口に到達したに過ぎないってことになる」


「……」


「この情報だけでも有益なのは間違いねーだろーが、俺は先に進みたい!Bランクを目指す俺達が奥にいる獣人にびびって、ダンジョンにも入れないなんてありえねーだろ!?」


「そうだな……俺達ならまだまだいけるよな」


「「「おぉ!」」」


 そして、俺達は木のウロから、中へ入り、ライトの魔道具で辺りを照らしながら先へ進む。

 地下の道は普通の男がなんとか立って歩けるくらいの高さしかない。幅も2人並んで歩くのが窮屈なくらいだ。

 俺はギリギリ大丈夫だが、ちょっと背の高いやつは少し屈まないと歩けない。


「ここ……俺には狭すぎるぞ」


「アンタがでかすぎるのよ。でも、これだけ狭いと大型の魔獣は入れないわね」


「そうだな。いても、せいぜいゴブリンくらいだろうな」


 そういう意味では安心だな。

 聞けば魔族は猫の獣人で割と小柄だという。もしかしたら、地下型のダンジョンってわけじゃなく、単に魔族がねぐらにしてるだけの場所なのかもしれない。


「探知の魔道具の反応は?」


「ないよ。獣人がいるとしても相当奥だと思う」


 この探知の魔道具は強い魔獣には遠くからでも反応する。Aランクの獣人なら100メルト近く先でも反応するはずだ。


 俺達は先へと進む。すると少し広くなった場所に行き当たる。


「ちょっとここで休もうぜ!腰がいてーよ」


「……ここで止まるのはどうなのかしら?明らかにここはおかしいわ。まるで戦うために用意された場所のようじゃない?」


 確かに、ここだけ広いのに何もない。まぁ広いといっても10メルト幅程度で円状の空間になっている。広いと感じるのは天井が高いからだろう。一番背の高いメンバーが普通に立てるのだから。


 そう思って上を見上げる。


「なんだ、ここ……天井が見えないぞ」


 灯りがまともに届かないほどの高さ。


「そういえば、先に進む道がないわね」


 ……まさかこの先は上に登れってんじゃないだろうな?


「もしかして、ここが魔族のねぐらなんじゃねぇか?」


 ……にしては生活感がなさすぎるが。いやまぁ魔族の生活感など知らないが。


「単純に外れってことじゃない?もどりまッキャァーーー」


「どうした!?っ何!!」


 俺は悲鳴を聞いて振り返ろうとしたが、異変に気づく。

 この洞窟の中で雨が降っているのだ。


「ギャァ!!」


「これ、酸だぞ!俺の鎧が溶けてやがる!」


「急いで戻れ!!」


「痛いーーー!あ、魔道具に反応!」


 このタイミングで魔獣!

 見ると、この広間の入口の奥にゴブリンがいる。出口を塞ぐつもりか!


「俺が突撃する!まずは逃げ込むぞ」


 鎧を着たタンク役がゴブリンに向かっていく。ゴブリンごとき1人でもどうとでもなる。

 俺達も彼の後ろに続いて、この広間の出口へと向かう。


「ってまた反応!え……」


「どうした!?あ……」


 聞く必要はなかった。


 ゴブリンがまた現れたのだ。


 俺達の周りに。


 少し高いところにあいた横穴から、見下ろすように。


 20体近くのゴブリンが。


 弓をつがえて……


「なんで……」


 さっきまでそこは何もない壁だったぞ……


 呆然としている間にも上からは酸の雨が降り続ける。


 俺は最も出口に近づいていた仲間になんとか言葉を発する。


「行け……。1人でも逃げて、このことをギルドに伝えろ」


 このダンジョンは尋常じゃない……。

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