第69話 露呈する
人間達がダンジョンエリアである上層エリアに侵入してきた。
スライム達の報告を聞く限り、一様に森の奥の方へと向かっており、探索をするという動き方ではないことは明らかだ。
「(カイン、ゴブリン準備できた)」
「(ワイらもいけるで~)」
人間の襲来を聞いて、みんなが戦闘準備を始める。
さて、どうするか……普段なら、ミズクやルビー、ティナらをゴブリン隊と組ませて当たらせるが、この形では10パーティ同時には対応できない。
「ひとまずは相手の戦力を確認しよう。両端の冒険者2パーティにゴブリン隊2パーティずつを当てる。それぞれ、ルビーとゴブタロウ・ミズクが率いてくれ」
「「「(了解)」」」
最近、ゴブリン隊は6体を1パーティとして運用している。ゴブリン全体は150体程度いるが、戦闘部隊としてきちんと訓練されているのはそのうちの60体程度。つまり10パーティだ。今回侵入してきた冒険者がゴブリン達だけで対応できるようなら、全く脅威ではなくなる。
だが、どうだろうな……。
明らかに侵略の意図をもって、攻めて来ているのだ。そう簡単な相手ではないように思う。
選抜されたメンバーが俺の前に出てくる。
スライム達からの情報を基に、冒険者の場所を把握し、ダンジョンコアのスキルを使う。
……実践で使うのはなにげに初めてだな。
「では、行くぞ。《転移》」
まずはゴブタロウが冒険者達から少し離れた場所に転移する。
一度に一体ずつしか転移できないので、その後も転移させていく。
……これ、今は時間に余裕があるからいいが、緊急時には使えんな。
「さて、冒険者はどんなものか……」
俺は戦闘になるであろう場所の近くにいるスライムに実況中継を指示する。
また、出撃していった者達にも《交信》は常にオンにしておくよう指示してある。
目で見ることができないのは残念だが、これでおおまかな状況は分かるはずだ。
「(見つけたぞぃ)」
「(ゴブリン隊で基本相手するから、ミズクは上から奇襲お願い)」
「(承知。人間は6人じゃのぅ。……ゴブタロウ、どうやら、よく見る手ぬるい奴らとは一味違うようじゃ。心してかかるんじゃぞ。)」
「(わかった。盾兵前へ。弓兵、構えて。人間に気づかれギリギリまで引きつけて、まずは先制する)」
うん。悪くない。ゴブタロウとミズクはうまく連携できそうだな。
懸念はミズクが警戒するほどの冒険者ってところか。
「(ッ!?ゴブタロウ、逃げるんじゃ!)」
「(散開!うっ)」
どうした!?声しか聞こえないから、状況が分からん!なんとももどかしいな。
「監視のスライム、どうなった!?」
「(人間が魔法撃ってきた~)」
こちらに気づいてないフリをしながら先制してきたか……。
最近、人間たちは魔道具で索敵をしているであろうことは報告を受けていた。そして、ゴブタロウ達もそのことは理解し、きちんと間合いは把握していたはずだ。つまり、より索敵範囲の広い上位の魔道具を持っているということだろう。しかも、魔法を使える魔道具持ち。装備は万端と。
「(ゴブタロウ!?)」
「(損耗3、まだやれるよ、ミズク。盾兵、突撃。弓兵は武器を替えて接近戦へ)」
「(後衛の魔法担当らしき2人はワシが受け持つ。魔法は気にせず戦え!)」
その後も苦戦は続く。
どうやら、魔法を使おうとしたタイミングでミズクが空から奇襲をかけて、キャンセルさせ続け、ゴブタロウ&ゴブリン隊9体VS人間4人の戦いに持ち込んだようだ。
だが……
「(ゴブタロウ、撤退じゃ!これ以上は無理じゃ)」
「(ッ!!みんな退却!固まらずに逃げて!)」
最終的には退却することになる。人間3人に重傷を負わせたようだが、こちらは半数のゴブリンがやられてしまった。もちろん生き残った者もみな重傷だ。
「ルビー、聞こえるか?今回の相手はひと味違うようだ。無理はするな」
「(こっちも今見つけたで~。5人や。まぁ見ときぃや)」
おそらく、ゴブタロウ達が相手をした冒険者はCランクくらいなのだろう。Dランクレベルならゴブリン隊が簡単にやられることはない。ルビーはCランクの魔族。ルビーなら相手できるのではないかとは思うが、率いるゴブリン隊はそうではない。
「(ワイが上空から魔法で攻撃する。ゴブリン隊はそれを合図に突撃や!)」
「ルビー、気をつけろ。やつらの索敵範囲はかなり広いようだ」
「(わかってますって。《ウインドカッター》)」
ルビー達の方も戦闘が始まる。どうやら、先制攻撃には成功したようだが……
「(よし、ゴブリン、そのちっこい女を集中攻撃や。《ウインドボール》」
「(戦況、優勢~人間1人倒れた~)」
おぉ!スライムからの報告を受ける限り良さそうだな。
「(監視スライム、こっちの損耗は!?)」
「(ゴブリン3体倒れてる~)」
……5人中1人を倒し、こっちはゴブリン12体のうち3体がやられてるってことか?それは優勢なのか?
「(また1人倒した~倒れてるゴブリンはいっしょ~あ、逃げた~)」
「(ちっ旦那逃げられたわ。追うか?)」
「いや、いい。他の冒険者の方へ合流するのかもしれない。よくやった。一旦帰ってこい」
「(了解や。あれやな、魔力を探知してるっぽい魔道具使いを優先的に倒すのがポイントやな)」
なるほど。最初に倒した1人がそれだったということか。
魔力の探知をされなければ、魔法の発動がバレないから攻撃がしやすくなる、と。
……いや、魔法で攻撃するのって、おまえだけだ、ルビーよ。奇襲はかけやすくなるかもしれんが、戦闘入ってからじゃ関係ないしな。
「ねぇ、カイン兄、これまずくない?」
「あぁ、だいぶまずいな……」
まだ2パーティとしか戦っていないが、まともに戦えたのはルビーだけだ。今の2パーティだけが特別強かったなんてこともないだろうし、ゴブリン隊だけで相手をするなんてとてもじゃないが無理だ。
ここに来て層の薄さが露呈したな。
人間はおそらくCランクレベルの冒険者に絞って攻めてきているのだろう。Dランクレベルなら、ゴブリン達でもなんとかできたのだが、Cランクともなると……。
普段でもたまにそういった腕利きのやつらは相手にしてきたが、ここまで一度に迫られたことはなかった。Dランクレベルなら、一度にある程度の量を相手にできるが、Cランクレベルだと途端に厳しい。
「(Eランクのゴブリンじゃ厳しいってんなら、トレント達を向かわせたらどうっすか?)」
「いや、トレント達は奇襲専門だ。やつらの魔道具の前じゃ奇襲は無理だろう」
そもそもトレント達の動きは遅いので、冒険者達を追いかけるのは無理があるだろう。
「アタシがいくわ」
……確かにティナなら問題なく、蹴散らせるだろう。だが、なぜだろう。今ティナを向かわせるのは危険な気がする。
「いや、普段とは状況が違う。最大戦力であるお前がコアを離れるのは危険だ」
「えっ、それって……」
そう。今はダンジョンの危機だ。これまでとは違う。
コアの防衛も視野に入れて行動しなくてはならない。
「残念だが、今ある純粋な魔族の戦力で相手するのは厳しい。下層エリアを使うぞ」
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