第68話 ほんのり甘い
俺とティナは帰ってきてから、アルノルトに会ったことを仲間たちに話をしていた。
「(じゃ、ワイはまんまとそのエルフが持ってた魔道具にやられてもーたってことかいな)」
「(エルフがこの森にいたとはのぅ)」
「(しかも、ドワーフもいるっってことっすよね?この森すごいっすね~)」
みな、Aランクの魔族がいたことに驚いていた。
「(てか、実は探せばもっといるんじゃないっすか?今回は残念だったすけど、Aランクを仲間に引き込めたら、一気に戦力アップじゃないっすか?)」
確かにヘッジの言うとおりだ。でもなぁ。
「アタシがこれまでどれだけこの森を調べてると思ってるのよ!そんなに簡単に見つかったら苦労しないわ」
そうなる。これまでもティナには仲間に引き込めそうな野良魔獣を探してもらっていたのだ。隠れたAランクに狙いを絞ったからといって、何かが変わるもんでもないだろう。もちろん、ティナ以外の手を増やすということは考えられるだろうが。
「(いや~やめといた方がええやろ?今回のエルフもそうやけど、Aランクってそう素直なのいんやろ。探すだけ無駄とちゃう?)」
ティナをチラリと見ながら、ルビーが言う。
「……素直かどうかは別としてアルノルトの話を聞いても相当にひねくれてるのは間違いなさそうだ。別に隠れてるってわけでもなさそうだったが」
「(ドワーフは探すべきじゃろ?聞けばかなり有用な魔道具を作れる魔族のようじゃし、仲間に引き込むのは無理だったとしても、多少時間と労力をかけてでも探したいのぅ)」
俺もそう思う。
こちらの頼みに応じて魔道具を作ってくれるってんなら、それだけでかなり助かる。
「今は森に来る人間も減っているようだし、魔道具が作れるというドワーフのドノバンを探すか。ティナだけでなくゴブリンやスライム達にも協力してもらおう」
あいつら数だけは多いからな。
俺はゴブタロウを呼び寄せる。
「(カイン、見て~)」
ゴブタロウが来ると、その手にはポポトを持っていた。
ポポトは茎の部分がこぶし大に膨らんでできる野菜だ。茎といっても、地面の下にできるもので、引っ張ると一気にいくつも採れる。茹でてよし、焼いてよしの何でもいける万能食物だ。
「それ、どうしたんだ?」
「(ダットン達の家の近くで育ててたのが採れた。ドマーニがすごい詳しくて、いっぱいできた!)」
そういや、ドマーニの実家は農家だとか言ってたな。それで農業を始めたのか。
「すごいじゃない。森にもともとあったアププとかバニーニだけじゃなくて、人間がやるような農業まで始めたのね。……まぁダットン達は人間なんだから不思議なことじゃないのかもだけど」
「俺達はそこまで食事に気をつけてないからな。ダットン達にはもしかしたら、不満だったのかもしれないな」
魔族は魔力さえあれば生きていけるので、厳密には食べなくても大丈夫だ。
だが、食べることで、植物や動物が宿す魔力を摂取できるため、ダンジョンから魔力の補給を受けない野良魔獣は結果的に食べることが必要となる。ダンジョンの配下として登録されていれば、魔力は補給されるので、食事は単なる趣味になる。
「(ゴブリンは食べ物必要。アププとかだけじゃ足りない……ってことはないけど、美味しいものが増えるのはいい事)」
ゴブリンでダンジョンの配下になってるのはゴブタロウだけだからな。
ゴブリンルームや地下の森の大空間に果物はたくさんあるので、食べるのに困ることはないだろうが、果物だけじゃ飽きるのかもしれない。
「(ダットン達も喜んでた。もっと畑増やしたいって言ってた)」
「あぁ、森の大空間は広いからな。かまわんぞ」
しかし、ダットン達は、最近、ゴブタロウ達との訓練に駆り出されて大変そうにしてたのに、いつ間に畑なんて作ったんだか……。
ゴブタロウはその場でポポトをココナの葉にくるみ、焚き火の近くにおいた。
時間はかかったが、出来上がってきたのは、ほんのりと甘く、ホクホクとした焼きポポトだ。
それをその場のみんなで食べた。
「おいしいじゃない。ちょっと単調だから、塩とかなんか味つけた方がいいかもしれないわね」
「(ミミズほどじゃないっすけど、うまいっすね)」
「(う~む。まぁうまいといえばうまいがのぅ……)」
「(ワイは好みやな~。この食感がたまらんな。1個で腹いっぱいになってもーたけど」
「(まだ畑小さいけど、ポポトいっぱいとれた。探さなくてもあんなにたくさん採れるなんて、農業ってすごい)」
確かに、探さなくても採れるってのはすごいよな。
これからもドマーニには頑張ってもらおう。
「……いや、違う。ゴブタロウ、おまえには頼みたいことがあって呼んだんだ」
「(???ポポトもっと持ってくる?)」
「あ、お願い。アタシ、もっと食べたいわ」
「(ワイも~)」
いや、待て待て。ポポトから離れてくれ。
しかし、洞穴前の広場で青空の下、ポポトを食べながら、みんなで無駄話をするのも悪くないな。
おかしなことに頭を悩ませず、こんな風にのんびりと過ごしたいものだ。
……そう思ったのが悪かったのだろうか?
警報が鳴り響く。
「(人間来た~)」
「(人間来たよ~)」
「(こっちも来た~)」
「え、これって……」
偵察のためにダンジョンの配下として登録しているスライム達からの《交信》だ。
「……多いな」
それからもスライム達の声は続く。
「スラポン、状況を説明しろ」
俺はスライム達のまとめ役であるスラポンに説明を頼む。スライム同士の方が意思疎通はスムーズだ。
「(カイン~なんか、人間がいっぱい来たよ~」
「『いっぱい』ってどのくらいだ?」
「(ん~集まってるのが10個くらい~?みんなこっち向かってるみたい~)」
「!?」
約10パーティってことだろう。別に森に10パーティくらいいるのは最近ではおかしなことではない。気にかかるのはそれが、ほぼ同時だってことと、全員こっちに向かってくるってこだ。
「(主よ、これは……)」
「あぁ、どうやらドワーフ探しは中止だな」
人間達が本腰入れて攻めてきたみたいだな。
深緑のダンジョンと人間との本格的な戦いが今始まったのだ。
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