第67話 【ドノバン】魔道具を極める

「オヤジ、頼む!もうちょっと安くしてくれ!」


「バカか?ウインドカッターの魔道具がそんな安くなるわけねーだろ」


「ドノバンさ~ん、こないだ頼んでた探知の魔道具できてる?」


「おぅ、できてるぞ。持ってけ」


「オヤジ~そこをどうにか頼む!魔木相手に俺らが持ってるファイアボールの魔道具を使うわけにはいかないだろ?」


「そりゃそうだ。素材が燃えたら意味がねぇ。……仕方ねぇ、今度魔木が手に入ったら、をギルドじゃなく、こっちに直接卸せ!その約束でその値で売ってやらぁ!」


「さすがオヤジ!」


 オレはドノバン。このヴェールの町で魔道具屋をやってるドワーフだ。


 魔道具はいいぞ。

 作り手の想像力と技術次第でなんでもできる。自分が直接使えない魔法を使うことだろうが、身に宿る魔力を隠すことだろうが、な。これほど奥が深く、極めがいのあるモノなど他にないだろう。……作るのに魔石を始めとした素材が必要となるのがネックだが。

 以前は自分で素材を採るために、今で言う深緑の森に住んでいたんだが、いかんせんあそこには魔道具を使うやつがいねぇ。作るのはそりゃ楽しいが、道具は使ってなんぼだ。それで仕方なく、オレは森を出て、人間の町に移った。

 魔族にも魔道具を使うやつはいるが、やっぱり人間の方が圧倒的に魔道具を使う。なんせ、やつらは魔道具なしには魔力を一切扱えないからな。


 ドワーフは少し慎重が小さく、体毛が多いが見た目は人間と変わらん。人間の町にいても、特に目立つことはない。オレはかれこれ20年以上、人間の町で魔道具屋をやっている。


 それから、森がダンジョン化して、人間が近くに町を作ったもんだから、セレンの町からこのヴェールに移ってきた。

 新しい町を作ってくれたのは正直助かったわ。魔道具を求めるやつらは多いし、ここからなら、自分で森に素材を採りにでかけることもできるからな。


 そして……なにより、魔木だ!

 どうやら、ダンジョンマスターが新たにトレントを創るようになったようだが、いい選択だ。

 魔道具の核になるのは魔石だが、それ以外の部分も重要だ。魔力の伝達がスムーズに行われるような物が好ましく、その点、魔木はかなりいい。魔木があれば、もっといい魔道具が作れるはずだ。

 ヴェールの町の冒険者には高ランクのやつらが少ないせいか、イマイチまだ数は入ってきてないのが残念だがな。


 あとの懸念は……どうやら、人間達はダンジョンを潰しにかかるみたいだってところか。


 別にダンジョンコアが壊されようが、マスターが殺されようが、どうでもよかったんだがな。だが、トレントを創ってくれるマスターだってんなら話は別だ。そのうち、Cランクのエルダートレントあたりも創ってくれるかもしれん。マスターがいないとその地で生み出される魔族は完全にランダムになる。今のようにトレントが定期的に生まれてくることなどないだろう。

 今のダンジョンは悪くない。このあいだの襲撃を見るに、そこまで積極的に人間を殺そうってつもりもないらしいしな。


「こちらがヴェールの町の魔道具屋だ。ドノバン殿はかなりの腕利きだ。必要なものも揃うだろう」


「あの魔導車も作れるかしら?」


「いや、あれは無理だといったろう……」


 外から聞こえるこの声は町長か。誰か連れてきたのか?


 ガチャ


 扉が開くと、やはり町長と、その後ろに小娘がいた。

 長く、まっすぐな髪に整った顔。装備を見るに冒険者のようだが、それに似合わず体つきは細くみえる。表情の抜け落ちたような顔つきも相まって、人形のようだ。


 その小娘が……消えた。


 ガキンッ!!!!


「!?」


「なにをするイルミア!!」


 イルミアってのか、この小娘は。

 剣を抜いて、いきなりオレに切りかかってきやがった。

 なんとか、手持ちのハンマーで防いだが……。小娘のくせになんてスピードだ。


「……」


 そのイルミアは不思議そうな顔をしながら、剣を鞘に収める。


「ごめんなさい。魔族がいたかと思って」


 !?

 いや、魔力を隠す魔道具は常に身につけている。

 人間がオレを魔族だと見破ることなどできるわけがない。


「何を言う?この町に出入りするものは魔族・魔獣でないことは入念にチェックしている。ドノバン殿が魔族なわけないだろう」


 イルミアは探知系のものであろう、腰につけた魔道具を手に取りなたら、首をかしげる。


「……なんでそう思ったんだろ?ごめんなさい。でも、誰もケガしてないし、いいよね?」


 なんだその結果論は……。というか、根拠もなく、なんとなく魔族だと思ったから切りかかってきやがったのか、この小娘は。なんてやつだ……。


「ドノバン殿、すまない。この娘はダンジョンマスターを狩るために領都から連れてきたAランク冒険者のイルミアという。腕は確かなのだが、その……ちょっとアレなところがあってな……」


「あぁ随分とアレだな……」


 オレじゃなかったら、間違いなく死んでたぞ。……アタリだが。


「ドノバンさんって強いね。受け止められると思わなかった」


「そうじゃない、イルミア。受け止めてもらえたことに感謝しなさい」


 まったくだ……。


「で、そのAランク冒険者さんはなんか魔道具が欲しいのかい?」


「ん~魔導車は?」


「おぉ、いいな。最低でもBランクの魔石が必要になるがな」


「Bならいくつかある」


「マジかよ!よくあるタイプのやつなら5個もあれば、作ってやるぞ」


 魔導車なんてなかなか作る機会がない!いいじゃねーか、イルミア!


「普通のはいらない」


 ん?


「だから言ったろう。最新式のはBランクどころではないと」


 町長が呆れるように言う。


「最新式の魔導車だと?そんなもんあるなら、ぜひ見せてくれ!」


「いや、もう領都へ返してしまいましたよ」


 なんだよ……。もしかしたら、ダンジョンのそばより領都の方が面白いかもしれねーな。


「魔導車がなかったら、他は今のところ間に合ってるから、いらない」


「まぁ、なんか必要になったら言え。魔石は用意してもあるかもしれんが、好きなもん作ってやる」


 そして、イルミアは町長に連れられて、また別のところへ向かっていった。


 しかし、なんで気づかれかけたんだろうな。

 魔力が漏れてたわけはねーんだが……。


「ドノバンさん~、フレイムピラーの魔道具を作ってくれない?」


 おっと、また客か。ダンジョン襲撃に向けて装備を揃えるやつが多くて、ウハウハだな。


 ……ちょっと待てよ?

 もしかして、今、人間にあんまり魔道具売ってやると、マスター討伐されちまうか?


 ……まぁ、いいか。そうなったら、それまでだ。


 魔族とか人間とかどうでもいい。オレは魔道具を極める。それだけだ。

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