第66話 苦い思い出
魔力の管理、それは、俺達の役目だ。魔力溜まりのある場所を見つけ、それをダンジョンコアにより塞ぐ。そうして災害が起きることを未然に防ぐのだ。
この世界を守るための誇りある役目だと俺は思っているが、それを嫌と言うとはアルノルトはどういうつもりだろうか?
俺の表情を見て取ったアルノルトが慌ててフォローする。
「勘違いしないで欲しい。決してキミ達がやっていることを悪くいうつもりはないんだ。魔力の管理はこの世界のために必須だ。キミ達が世界を守っていると言っても過言ではないだろう」
「じゃぁ、なぜ嫌がる?」
「別に誇りある仕事だからってみんなが喜んでやるわけじゃないだろ」
「確かに。それはそうよね~」
おい、ティナ。おまえはさっきからどっちの味方だ……。
「それに……いや、これはキミ達が知る必要はないか」
いやいやいやいや。
「そんな中途半端に言われたら気になるだろ」
「前にいたダンジョンの話さ。今のキミ達には無縁の話さ」
「前のダンジョンってどんなところだったの?アタシ、生まれた村とカイン兄のダンジョンしか知らないから、興味あるな~」
俺もある。むしろかなり聞きたい。だが、これまでの話しぶりからして、アルノルトにとってはあまりいい思い出ではないんじゃなかろうか。
それでも、アルノルトはフッと少し困ったように笑い、昔を思い出すように語りだした。
「お察しの通り、あまり良い思い出ではないんだがね……。まぁいいだろう。私が前にいたダンジョンは『紫紺のダンジョン』という、ここより遠く離れた雪山にあるダンジョンだ」
雪山……だったら、白じゃないのか?というより、ダンジョンの名前は色絡みが多いのか?俺達が生まれた村はそうじゃなかったが。
「1年の半分は昼がなく、ずっと夜でね。空に輝くオーロラが恨めしいほど美しかった。残りの半分は逆にずっと昼なんだが、なぜか雲に覆われていて太陽を拝める日はほとんどない場所だったよ」
なるほど。それは確かに白じゃないな。しかし、なんか鬱になりそうな場所だな。
「そんな場所じゃ人間もいなかったり?」
「そうだね。近くに人間が住んでる場所はほとんどなかったね。だが、それでもダンジョンというのは人間にとって魅力的な場所なんだろう。昔は近くの国と戦争してたみたいだよ。AランクやBランクといった高ランクの冒険者だけで編成されたパーティが何組もあるタイミングでやってきてたらしい」
うへぇ。それは勘弁して欲しいな。今の俺達が同じように攻められたら、正直、守りきれる自信がない。
「それ、大丈夫だったの?」
「あぁ、そのダンジョンもAランクだったからね。四苦八苦しながらもなんとか撃退してたらしい」
「……さっきから人から聞いたように話をしているが、あんたもいたんじゃないのか?」
「いやそのとおりだよ。私より先に創られた魔族に聞いたんだ。私はその後に創られた世代でね」
「その後?」
「あぁ、紫紺のダンジョンマスターと攻めていた国の王は戦争に疲れ、協定を結んだんだ。私はその後に創られた」
「「!?」」
それって、まさか……
「人間と魔族が手を結んだってこと!?」
「……手を結んだというのはどうかな?まぁ共生するようになったという程度かな?」
すごい……。強欲な人間との共生を実現できるような魔族がいるとは……。ぜひ一度、そのダンジョンマスターとは話をしてみたいものだ。
俺は正直、とてもワクワクした。どんな方法で共生するところまでこぎつけたのか。
そんな俺を見て、アルノルトは申し訳なさそうな顔をする。
「期待しているところ悪いが、これはそんないい話じゃない」
ふと、気づくとすでに外は日が落ち、爽やかな森の様相は一転し、暗く、どこか不気味な雰囲気を漂わせていた。
「紫紺のダンジョンマスターはね。魔石の養殖を始めたんだ」
「……は?養殖?」
外が急に暗くなったと思ったら、雨が降り出したようだ。
シトシトと、静かに雨が降り続く。
「知っての通り、人間は魔石を求めている。そして、魔石は魔族のランクによって質が異なる。だがね、ランクだけじゃなく、レベルによっても魔石の質は変わるんだよ」
……初めて知った。だがまぁ考えたこともなかっただけで、言われてみればまぁそうだろうな、ということではある。
「紫紺のダンジョンマスターは人間側の要望に答えて、魔族を創り出し、適当なレベルにまで上げて、それから、魔石を出荷していたんだ。私はその出荷する魔族の管理係でね。我が子のように創られた魔族を育て、そして魔石に加工して引き渡していた」
「「……」」
「それでね。魔石を渡す代わりに人間からは、ダンジョンに手を出さないという約束と、魔道具を始め人間が作り出すものをダンジョンマスターは得られるようになった。……随分と楽しそうな生活をしていたよ」
ハハハと力なく、乾いた笑い声が部屋に響く。
うちのダンジョンに住み着いた冒険者ダットン達が、いつぞや同じようなことを言っていた。まさかそれを実践するダンジョンマスターがいること自体驚きだが、レベルの調整までする念のいれようはちょっと狂気すら感じる。
「まぁそんなこんなでね。他にも色々とあるんだけど、もうイヤになったのさ。それで遠く離れたこの地まで来て、一人で暮らしてるってわけ」
……。
「ねぇカイン兄……」
『この人を巻き込むのは可哀想よ』
口には出さなかったが、ティナの目がそう言っていた。
仕方ないか。
もちろん、うちのダンジョンはそんな事はしない。それは間違いない。
だが、今の話を聞いた直後にダンジョンへ来いとはさすがに俺も気兼ねする。
「わかったよ。あんたを仲間に引き込むことはとりあえず断念する。だが……また話をしに来てもいいか?」
アルノルトは苦笑しながら言う。
「とりあえず、ね。まぁいいよ。また、私の紅茶を自慢させておくれ」
俺はうなづいて、ティナと共に席を立つ。
「あぁそうそう。一応忠告しておくよ」
ん?忠告?
「『魔族の本来の役目』を忘れないように。まぁこの森は当面、気にする必要はないと思うけどね」
よく分からない忠告を聞き入れ、俺達は帰っていった。
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