第57話 【ジェイムズ】魔木よ来い

「魔木とな!」


「はい。ヴェールの町のルーベン町長より報告が上がっております。また、同様の報告が冒険者ギルドからも来ておりますので、間違いないでしょう」


 エリックが言うには深緑の森で魔木が採れるようになったらしい。魔石だけでなく、魔木まで採れるとは!

 キておる!感じる!ワシの時代がやってくるぞ!これは陞爵も視野に入ってくるな。隣のフェイン伯爵の悔しがる姿が目に浮かぶようじゃわい!!


「それで、魔木はどのくらい産出できそうなのだ?」


「そこまではまだなんとも。ルーベンの方も、まずはこの吉報を、と取り急ぎとのことでしたので。ですが、直にその報告もやってくるでしょう」


「うむうむ。そうだな。魔木が出るなど重要な情報じゃ。即座にまずは一報入れるのは当然じゃな」


 魔木は高い価値を生む。

 ワシもそうじゃが、貴族の家具など大抵は魔木を使う。普通の木で作った家具など使おうものなら、周りに笑われてしまう。余裕のある貴族になると屋敷も魔木で作るらしい。

 魔木は貴族にとって必需品。貴族の身の回りだけでなく、様々なところで使われる。その一方で、普通の木と違って、極端に採れる場所が限られるため、希少性が高く、高い値段でやりとりされる。

 つまり、我がバーナード領内で魔木が採れるということはそれだけの富を生み出すということだ。


「魔木が採れるとなると、ますます持ってヴェールの町の役割は大きくなるな。開発の状況はどうなっておる?」


「はい。領都より派遣した魔道具使いにより、防壁や治水等、大まかな土木工事はすでに終えております。冒険者も増えつつあり、冒険者ギルトや宿、魔道具店など、各種施設も整ってきているようです」


「うむ。順調そうじゃの」


 ワシは報告を聞き、安心する。

 先日は、魔獣どもに作りかけの町を焼き払われたとか、輸送中の魔石をとられた、などという報告も聞いたが、魔族の襲撃についてはある程度は覚悟しておった。それだけに早急に土木の魔道具使いを派遣したわけだしな。……相当な魔石を使うことになってしまったが。

 なにはともあれ、その後は順調なようだ。


「また、ジェイムズ様に許可を頂いた教会についても出来上がったようです。といっても、神父とシスターの2人しかいないようですが」


「教会か……変な動きはしていないだろうな」


 教会を作ることを許可する際に、ダンジョンでの活動に関しては口出ししないと言っておったが、どうにも不安でならん。魔族を毛嫌いする教会のことだ。ダンジョンを潰す方向に暗躍しかねない。


「いまのところは特に動きはないようですな。あぁ、変わったことといえば……」


 エリックがなんとも微妙な表情をする。なんだ?やっぱり何かあるのか?


「シスターが冒険者になったそうです」


「はぁ?」


 予想の斜め上をいく、ズレた報告。

 きっとこのとき、ワシは貴族にあらぬ間抜け顔をさらしていたに違いない。


「まぁ、まだ町も発展途上で住人のほとんどが冒険者。教会でやることもないのでしょう。自ら魔獣を滅したいとでも考えたのでしょうが……」


 シスターが戦うなど聞いたこともない。

 教会は魔族・魔獣の排除を掲げていて、魔石を使うことにも否定的だ。信者の中には生活必需品のような魔道具くらいは使っているものもいるようだが、シスターともなれば、それすら怪しい。まして、戦闘のための魔道具を使うなどもってのほかのはず。つまり、そのシスターは魔道具を使って戦うこともないわけだ。

 ……戦えるのか?低ランクの冒険者は魔道具を持っていない者もいると聞くし、無理ではないか?


「町長のルーベンも最初はダンジョンコアに手を出す気かと怪しんだようです。ですが、実際には戦闘経験もないただの小娘のようで、特に問題はないと判断したようです」


「……まぁコアに手を出さんのなら、何をしようと構わんが」


 むしろ魔石をとってきてくれるならプラスだ。……採ってこれるかどうかは知らんが。

 教会は一体何をしたいんだ?いや、さすがにこれは教会の仕業ではなく、その小娘の独断か?

 ……分からん。全く、やはり教会は面倒なことをしてくれる。


「こちらの件については、ひとまずのところ問題はないでしょうし、一旦静観でよろしいかと」


 ワシが悩んでいるのを見て、エリックが進言してくる。

 まぁそうせざるをえんな。


「あぁ、それと、ルーベンより高ランクの冒険者を派遣してもらえないか、と要望が来ております。理由と致しましては……」


「構わん。送ってやれ」


 むしろ、ルーベンからの要望がなくとも、いくらでも送り出したいところだ。早く魔木を手に入れてくれ。


「承知いたしました。手配させていただきます」


 やはり、エリックは話が早くてよい。


「最後に。王都より、ダンジョンの研究者が派遣されてきております。王からの使者を兼ねているとのことですので、早急に面会を予定させていただきます」


「ほぅ、ダンジョンの研究者か」


 王も深緑のダンジョンに期待を寄せているということだろう。研究者より話を聞いて、ダンジョンの開発をより進めよ、ということか。こちらとしても願ってもないことだ。

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