第55話 【オスカー】新たな価値
俺はオスカー、Dランクで4人組の冒険者パーティのリーダーをやってる。
以前はセレンの町を拠点として活動していたが、ヴェールの町ができてからは、そっちに拠点を移した。もともと深緑の森で狩りを行っていたので、近くに町ができたのは願ったりかなったりだ。
しかも、冒険者に対して、町が魔道具を貸してくれるという大盤振る舞いだ。消耗する魔石については自前だが、魔道具自体はタダ。俺達はある事件により、魔道具の一切を失ってしまったので、これは非常に助かった。おかげで、順調に狩りを行うことができている。
順調なのは俺達に限った話ではない。このヴェールの町にはDランクを中心に冒険者が集まっているが、みな景気よく魔獣を狩っているようだ。
……不安になるほどに。
「しかし、随分とおとなしい森になっちまったな」
タンクのハリソンがつぶやく。
別に森に変わりはない。ヴェールの町ができる前と比べて魔獣が弱くなったとかそういうことではない。
ハリソンが言っているのは『あの日』のことだろう。
「今となっては、夢だったんじゃないかって思っちゃうわ。……魔道具がなくなったんだから、夢なわけはないんだけど」
ハリソンが言っていることの意味を察して、デイジーもぼやく。
俺達は以前、ゴブリンに襲われて、魔道具をすべて失ってしまった。
Dランクの俺達がEランクのゴブリン5匹になすすべもなくやられたのだ。そりゃ、Eランクといえど魔獣は魔獣。侮っていいわけはないが、俺達だってそれなりにDランク冒険者としてやってきた自負がある。あのゴブリン達は明らかに異常だった。
しかも、なぜか俺達は魔道具を奪われただけで、ほとんどケガもしていない。
一体なんだったんだろうか。
あれから、あのゴブリン達は見かけていない。ゴブリン自体は出るのだが、ふつーのゴブリンだ。俺達でなんなく狩っている。
「まぁ、あのゴブリン達がいないなら、いないで助かるさ」
「ダメよ!あのゴブリン達が出てきてくれないと、私達は馬鹿にされっぱなしよ!」
「すっかり噂が広がっちゃいましたからねぇ、『ゴブリンにもやられるパーティ―』って……」
そうなのだ。デイジーとイザベラが言うように、俺達はあの異常なゴブリンのことを冒険者ギルドに報告した。だが、その異常性は信じてもらえず、ヴェールの町の冒険者達からは馬鹿にされてしまっている。実際に目の当たりにすれば、あのゴブリンが普通ではないと誰もが感じてくれるものだとは思うのだが……。
そんな事を話しながら、俺達は森の奥へ向かう。と言っても、あまり奥の方には行かない。看板の事を知った町長が、
「Cランク以下の者が看板より先へ行くことは許可しない」
と宣言したからだ。
なんでも、ここのダンジョンの魔族と町長はやり合ったことがあるらしい。
ダンジョンの魔族は獣人で元Aランクの町長と互角に戦ったそうな。だから、その魔族が出てくる危険性を考慮して、Bランク以上でないと看板より先には行ってはダメ、ということになったようだ。これについては俺達も納得だ。元Aランクの町長と互角にやり合うようなやつと戦いたくなんてないし、なにより、あの看板より先に行けば、またあのゴブリンが出てくるかもしれない。
「足跡、発見!大きさからすると、たぶんオークね」
「よし、追うぞ」
デイジーが獲物の痕跡を見つける。俺達はデイジーを先頭にして前へと進む。
「今日は残ってるといいな」
「昨日はことごとく全滅でしたからね」
最近、冒険者が増えてきて、森の入り口付近ではかち合うことが多くなってきた。
昨日もこうして獲物を追っていたのだが、すでに他の冒険者が交戦中だったり、仕留めた後だったり、と散々だったのだ。看板の奥に行かなければいいだけなので、もっと町から離れたところに行けばいいのだろうが、やっぱり町の近くで仕留められると、運搬が楽でいいのだ。オークなんぞ仕留めた日には持ち帰るのに一苦労だからな。
まぁセレンの町に持ち帰っていたときを思えば、ちょっとくらい距離が伸びても楽な事には変わりないのだが、その楽に慣れてしまうとなかなか抜け出せない。
獲物が本当にいなくなってくれば、そうも言ってられないのだろうが、まだまだ大丈夫だろう。
そんな事を考えながら歩いている時だった。
「!?敵しゅ」
ウォォン!
「ぐあっ」
デイジーが声を上げきる前に、ハリソンが吹っ飛んだ。
なにか巨大な棒のようなものがハリソンを突然襲ったのだ。
「罠か!?」
「いや、違う!魔木よ!」
俺はデイジーの目線の先を見上げる。
すると10メルトほどの木の上の方に顔のようなものがついてるのが見える。
「Dランクのトレントだ!イザベラはハリソンを。デイジー、周りに反応はないか!?」
「大丈夫よ。まだ近くに魔獣はいないみたい。たぶん……」
デイジーは町から借りた探知の魔道具を持っている。トレントを相手にしている間に他の魔獣がやってこないか確認して欲しかったのだが、なぜか自信なさげだ。
「いってぇ~こいつ、相当パワーがある。俺以外は受けるな。避けろ!」
ハリソンが起き上がってくる。だが、左腕はだらんと下がったまま。おそらく折れているのだろう。それでも右手に盾を持ち、最前線に立つ。
「イザベラ、魔法準備。デイジー、囲んでやるぞ」
トレントの正面はハリソンに任せ、俺とデイジーは側面に周りこんで、攻撃を仕掛ける。
トレントは俺達の攻撃を避けようともせず、枝を正面のハリソンめがけて振り下ろす。
ウォォン!
「おらぁ!」
今度はハリソンが盾でトレントの枝をしっかりとガードする。
「来ると分かってりゃ、問題ねぇ」
よし!あとは俺とデイジーで削りつつ、イザベラの魔法で止めをさせばいける。
その後も、ハリソンがトレントの枝を受け、俺とデイジーでチマチマと攻撃を重ねていく。
「いいわよ!」
「散開!」
「《アイスニードル》」
イザベラが使った魔法をトレントはモロに受ける。
「オォォ……」
うなりのような低いうめき声が聞こえ、それが止んだかと思うと、トレントは動きを止めた。
「ふぅ。なんとかなったな」
「最初はちょっと焦ったけど、あとは割と楽だったわね~」
「いや、軽く言ってくれるな……あいつの相手をまともにしてる俺は死にものぐるいだったぞ」
そう言って、ハリソンは盾を掲げてみせる。
その盾は見るも無残に、ぐにゃぐにゃに折れ曲がっていた。
「……買い換えるしかないか。痛いな」
「いや、いてーのは俺の腕だ!こいつ相手にするなら、もっとイイ装備を要求するぞ!」
「いいんじゃないかしら?どれだけの数がいるのか分からないけど、魔木なら装備を更新するくらい余裕でしょう」
イザベラの言うとおりだ。
俺達はこの森の新たな価値を発見したのだ。
ヴェールの町は一段と活気づくに違いない。
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