第54話 森に隠れるもの
「おぉーーーー!」
ランクアップして翌日、俺はダンジョンコアの魔力を見て、喜びの声を上げずにはいられなかった。なんと、1日でダンジョンコアが地脈から引き出した魔力は10,000もあったのだ!
「Eランクで1,000、Dランクで2,000だったから、Cランクは4,000かと思っていたが、随分と増えたものだ」
まさに嬉しい誤算だ。
引き出せる魔力の量は5倍だが、使える魔力の量は5倍どころじゃない。
Dランクのときはなんだかんだで1,200程度は魔族への補給やらダンジョンの維持やらで使っていたので、実質的に1日に使える魔力量は800くらいだった。それが、今では、8,800くらいになったわけだ。10倍以上になったことになる。これが喜ばずにいられるだろうか。
「これなら、配下の魔族をある程度増やしても余裕でやっていけるな」
俺はダンジョンコアを手にして、広場へと出る。
「さて、まずはコイツだ。《魔族創造》トレント」
目の前にトレントが現れる。
【ウドリー】
種族:トレント
所属:深緑のダンジョン
ランク:D
レベル:1
スキル:同化
トレントは10メルトほどの高さの「木」の魔族だ。基本的な種族特性として身動きしなければ、そこら辺に生えている木とは見分けがつかない。この森で奇襲をかけるにはもってこいだ。
「ウドリー、よろしくな。お前の仲間はこれからたくさん増やすつもりだが、お前がリーダーになってくれ」
「(承知した)」
ウドリーのスキルは《同化》か。周囲の景色と同化するということだろうか?もともと持っている性質を高めるタイプか?
「ウドリー、おまえのスキルはどんな効力があるんだ?」
「(オレのスキル、周囲の木をオレと同化させる)」
ん?
「同化させる?おまえが周囲と同化するんじゃないのか?」
「(はい、周囲の木を同化させる)」
……簡潔に答えてくれるのはいいんだが、いまいち要領を得ないな。
俺が思案しているとミズクがやってきた。
「(ほほぅ、トレントじゃな。この森の魔族としてはうってつけじゃのぅ)」
「ミズク、トレントに詳しいのか?こいつのスキル、《同化》っていうらしいんだが、知ってるか?」
「(ん?《同化》じゃと?トレントが持っとるスキルは《擬態》で、種族統一のはずじゃぞ)」
魔族のスキルは種族でみんな同じスキルを持つ場合と個体毎に違う場合がある。
ミズクのオウル種やヘッジのディグホッグ種なんかは前者で、みんな同じスキルを持つ。一方、ゴブタロウのゴブリン種やティナの獣人種なんかは個体毎に異なるスキルを持つ。ミズクいわく、トレントは前者だというのだ。
「いや、持っているスキルについては確かに《同化》だ。《擬態》じゃない」
そう言って、俺はコアをミズクに見せる。
「(……確かにのぅ。もしかしたら、このトレントは特異種なのかもしれんのぅ)」
特異種とは長く生きた魔族や濃い魔力溜まりから生まれた魔族に多いとされる特別変異種だ。特異種はその種族の特性を大きく離れ、やたら気性が荒かったり、信じられないほど弱かったり、ととにかく特異だ。ミズクはウドリーが特異種であるから、種族統一のスキルとは違うスキルを持っているのではないか、と言っているのだ。
特異種か……長短あるものだが、ウドリーの場合はどうなのか。
「(で、話はスキルじゃな。とりあえず使わせてみてはどうかの?)」
「それはそうだな。対象は木らしいから、危ないもんでもなさそうだし。よし、ウドリー、そこの木にスキルを使ってみてくれ」
「(承知した)」
そう言うと、トレントはゆっくりと俺が指示した木に近づき、立ち止まる。
……かなり鈍そうだな。奇襲にはいいかもしれんが、外すともうダメそうだな……。
「ちなみにふつーのトレントのスキルはどんな効果なんだ?」
「(種族特性を強化するタイプじゃの。スキルを使ってると普通の木と全く見分けがつかなくなるというものじゃ)」
なんの変哲もないスキルだな。ウドリーだって、上の方に目と口がついてるから正面からはちょっと怪しく感じるだろうが、後ろ姿は木そのものだぞ。その目と口だって、ウロだと言われれば、そんな気もするくらだい。スキルがなくたって十分だろ。
「(……)」
「……ところで、ウドリー、スキルはまだか?」
「(今、使ってる)」
「ん!?」
なんか変わったか?見た感じ、俺が指定した木に変化はなさそうだが……。
「なにか変わったのか?」
「(まだだ)」
時間がかかるってことか?
「どのくらいの時間がかかるんだ?」
「(半日……はかからないはず)」
はぁ?随分と時間がかかるんだな。
「(……ワシは人間の町でも覗いてくるかの)」
そう言って、ミズクは飛び立ってしまった。
う~ん……ウドリーには悪いが、これはさすがに待ってられんな。
◇◇◇◇◇◇
それから半日経って、ウドリーのところにもどってきた。
「(主、できた)」
「おぉ、やっと終わったか。おつかれ。で、スキルの効果どうなんだ?」
そう言って、俺は指定していた木に目を向けると、その木がお辞儀をしてきた。
「……は?」
どこからか、もう1体、トレントがやってきた?いや、そんな都合よくあるか?
まさか、《同化》ってのは……
「(この木、同化させた)」
普通の木をウドリーと同化させて、トレントに変えるってことか!?
「(こいつは驚いたのぅ)」
いつからいたのか、ミズクが声をあげる。
「(時間はかかるが、ウドリーがいれば、トレントは増やし放題ということじゃのぅ)」
そうなる。
なんだそのぶっ壊れたスキルは!?
いや、待てよ、同化ってことは増えたトレントのスキルも《同化》なのか!?
だとしたら、ねずみ算的に増えていくことに……
スキルを確認してみると、残念ながら、そんなことはなかった。
ウドリーのスキルによって、トレントと化した元ふつーの木は、ふつーのトレントと同じく、スキルは《擬態》だった。また、《同化》に要する時間は木の大きさに比例するらしい。後に色々と試した結果、ウドリーと同じくらいのサイズなら、1日に3体、半分の5メメルトくらいのサイズなら、1日に6体生み出せることが分かった。
「よし、ウドリー、ひとまず同化させたトレントは上層エリアと外周部の境界くらいの位置にいてもらって、もし人間の冒険者がくれば襲うように指示してくれ。そして、おまえはスキルを使って、仲間を増やしまくれ!」
スラポン達も数は多いができることは限られる。
だが、Dランクのトレントなら、奇襲でなら冒険者も相手にできるだろう。
それが、これからドンドン増えていくのだ。しかもノーコストで!!
「これは……ゴブリン軍団主力の時代は卒業したか?」
俺は降って湧いた、この特異な機会に顔が緩むのを止められなかった。
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