第53話 転移
「さて、次は《転移》のスキルだな」
確認できる《転移》の説明は大した情報がない。
《転移Ⅰ》
指定した魔族をダンジョン内の任意の場所に転移する。
「(まぁ想像どおりの説明やな。問題は『魔族』『ダンジョン内の任意の地点』の範囲や)」
「うぅ……見た目とのギャップが……」
ティナはまだ、ルビーの口調に慣れないらしい。
気になるのはルビーのいうとおり、転移対象の範囲だ。あと、ルビーは触れていないがコストだな。魔力の消費量が多いと気軽には使えない。
「さて、行くぞ、ティナ」
「ちょっと待って!なんで自然とアタシが実験台になってるの!」
「担当だろ?」
「初耳よ!」
それでも、仕方ないなぁとつぶやきつつ、俺の前に寄ってくる。
いや、やっぱり高ランクのティナなら、なにかあっても大丈夫という安心感があるのだ。
そもそも危険な事しようとしてるわけでもないが。
ひとまずは試しだ。洞穴の中にティナを転移させるイメージで使ってみる。
「《転移》」
スキルを使うと同時にティナが光に包まれる。
光が収まったと思うと、そこにティナはいない。
「問題なく転移できたわよ」
ティナが洞穴の中から歩いて出てくる。
無事、成功したようだ。
「不思議な感じね。ふと気づいたら、別の場所に立ってるんだもの。いざってときのために慣れといた方がいいかも」
それはそうだな。転移の使い方は色々考えられるが、戦闘している場所への増援というのは基本的な使い方になるだろう。転移した後で、ぼーっとしててやられました、では意味がない。
俺はダンジョンコアの魔力を確認する。
減っていた魔力はなんと100。思っていたより、かなり多い。
「まぁ、コストについては、何に依存するのかって話もあるな」
色々とテストしてみた結果、《転移》のスキルについては、以下の事が分かった。
・転移できる魔族は俺と配下の魔族のみ。
・転移できる魔族は1度に1体のみ。
・転移先は距離を問わないが、ダンジョンエリアのみ。
・転移に要する魔力は転移先の距離には関係なく、転移させる魔族のランクにのみ依存する。(Aランク:100、Cランク:30、Dランク:10、Eランク:5)
「1度に1体ずつってのは、ちょっといただけないな」
不利な戦況に戦力を送り込むような場合、1体ずつ送ったんじゃ、下手すると順にやられてしまうだけだろう。やるとしたら、俺やティナが乗り込むくらいでないと意味がない。
「あとは、魔族しか転移できないってのもちょっと残念ね。人間を転移できたら、便利だったのに」
確かにな。このスキルで人間1人を遠ざけられるなら、それなりに便利だ。
だが、このスキルの有用さはそんなところではないと思うのだ。
圧倒的に優れた点がある。
「これで、俺は一々ダンジョンの奥深くまでダンジョンコアを取りに行かなくてもよくなったわけだ!」
さすがにダンジョンの外にコアを軽々と持ち出すのは憚られる。持ち出してる間は地脈から魔力を引き出せないしな。コアは普段、ダンジョンの最奥に置いてある。だから、使うときには一々ダンジョンの奥まで行かなければならなかったのだ!
「そんな事言って……最近はダンジョンコアの強化くらいでしか使ってないじゃない」
それでもだ。今、ダンジョンはかなり深くなっている。最奥まで行くのがどれだけ面倒なことか。
……まぁ片道はこれまで通り歩いて行かなければならないわけだが。
「(《転移》に要する魔力については、その魔族のランニングコストと同じなのかもしれんのぅ)」
DランクとEランクについては確かに一致している。あとで分かったことだが、Cランクについても一致していたので、ミズクの推測はおそらく正しいのだろう。
ということは……
「ティナ、おまえ1日に100も魔力食ってたのか!?」
「しょーがないでしょ!アタシ、Aランクの魔族だもん!」
「ゴブタロウ20匹分だぞ。ゴブタロウの20倍働いてもらうからな~」
「うっ20倍かぁ……ん?」
あ、まずいかもしれない。
「Aランクのアタシが100なのよね?Sランクのカイン兄はどうなのよ?」
ちっ、からかい過ぎたか……余計なところに気づきやがって。
「さっき、カイン兄だって転移してたよね?消費する魔力も分かってるんじゃないの?」
「さ、確認してない事はないかな?」
「ちょっと!何ごまかしてるのよ!」
「(そういや、主よ。ダンジョンの範囲は改めてきちんと確認しておいた方がいいじゃろう)」
「おぉ、それはそうだな」
「もういいわよ……」
ティナが諦めた。
ミズクが気にしているのは、転移をテストしている中で、ダンジョンエリアが広がっていることが分かったからだ。
どうやら、ダンジョンコアのランクに応じて、ダンジョンエリアも広がっていくものらしい。
Dランクだった頃は洞穴を中心にして歩いて3時間くらいの範囲がダンジョンエリアだった。Cランクになった後は確認した結果、歩いて半日くらいの範囲がダンジョンエリアになったようだ。随分と広くなったものだ。
この調子で広くなったら、最終的にはこの森全域がダンジョンエリアになるんじゃないだろうか?
……ダンジョンってこんなに広いものなのだろうか?
「これ、たぶん人間達が狩りをしている場所も一部、ダンジョンになってるわよ」
ダンジョンエリアの境界周辺に看板を置いていたせいもあるのだが、もともと人間はダンジョンエリアの外側の森で狩りをしていた。だが、今回ダンジョンエリアが広がることで、人間の活動範囲の一部も侵食してしまったようだ。
「看板の場所、変える?」
「……いや、看板の場所を変えたら、人間達に『ダンジョンが広がった』という情報を与えるようなものだ。むしろ、今の状況からすると看板はもはや不要だろう。撤去してしまおう」
「(目印がないと、人間が迷いこんできてしまうかもしれんぞぃ?)」
「それならそれで構わない。多少迷い込んでくるくらいなら十分対処できるだろうからな。しっかりと絞りとってやる」
「(新しくダンジョンエリアになったエリアに入ってきとる人間はどうするつもりや?)」
俺はにやりと笑う。
「もちろん。排除にかかる。Cランクになったんだ。ルビーだけじゃなく、魔族をもっと創って、冒険者を押し返すぞ」
「おぉ!なんか段々ダンジョンらしくなってきたわね!」
「(そろそろスライムとゴブリン以外にもまとまった数の配下は必要じゃろう)」
「(……スライムとゴブリンばっかだったんか?よくこのダンジョンもっとったなぁ)」
好き勝手言いやがって……。
俺も同感だけどよぅ。
「で、何創るの?」
「残念ながら、創るのはまた明日だな」
「?なんでよ?せっかくCランクになったんだから、もったいぶらないでよ」
そうは言ってもな……
残念ながら、やりたくてもできないのだ。
「今はもう残魔力が1,000切ってるんだよ……」
Cランクの引き出し魔力に期待だ。
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