第51話 リサイクル

 俺はティナよりコボルトと冒険者の戦闘の結果について報告を受けていた。

 コボルトを使って、最近増えてきた冒険者の力量を測ったのだが、やはり、結果は芳しいものではなかった。

 コボルト5体は冒険者2人を相手に一方的にやられてしまったらしい。


「というよりも、あまりの状況に戦意喪失してたわよ。奇襲で1体やられて、続いて魔法で2体。残る2体のうち、1体は半狂乱になって向かっていって、あえなく切り捨てられて、もう1体は恐怖のあまり逃げ出しちゃったわ。その1体も弓でやられちゃってたけど……」


 そのティナの報告を聞き、俺はゴブタロウ達で対抗する策は断念した。

 もちろん、コボルト達が相手した冒険者がたまたま実力者だったという可能性もあるにはあるが……。


 やはり、長期的に人間達と戦うには戦力不足と言わざるを得ない。下層エリアでなら、対抗できる可能性は十分あるが、下層エリアは最終防衛ラインだ。戦場にするのはできるだけ避けたい。


 そこで、俺はルイーズの話に乗ったのだ。


 ルイーズは輸送を行う魔導車を襲撃してはどうか、という策を提示してきた。


「旦那が魔道具を魔力に換えることができるってんなら、冒険者に取られた魔石を取り返したらいいんじゃないっすかね?あの町が魔石を採取するために作られたんなら、どっかに……おそらく領都っすけど、そっちに運ぶんじゃないっすかね?そこを狙えばいけるんじゃないっすか?」


 いい案だ。

 創った魔族が冒険者に狩られたとしても、その魔石を取り返せれば、俺のスキルで魔力にもどせるわけだ。

 もちろん、創る際に要した魔力をそのまま取り戻せるわけではないが、冒険者に対抗するために創らざるを得ない魔族に要する魔力は実質的に減るわけだ。

 まぁ、襲撃後に輸送の護衛を強化されれば、やりにくくはなるが、護衛のために高ランクの冒険者を森から引き剥がせれば、それはそれで悪くない。

 しかし……


「いい案だ。だが、おまえらが人間を襲う案を出してくるとはな……」


「え~と……やっぱり、魔力溜まり?でしたっけ?それをどうにかしてくれてる旦那達を見捨てるのはどうもおかしい気がするんすよね……。ここに住んでるからかもしんないっすけど、人間の方が悪者に見えちまって。ただ、代わりといっちゃーなんですが、無抵抗な人間は見逃してやってくれないっすかねぇ?もちろん、護衛のやつらに手を出すなとまでは言わないっすけど」


「……」


「旦那、どうしたっすか?あ、いや、見逃してくれってのは強制するつもりはないっすよ!?てか、できないっす」


「いや、そうじゃない。人間でも俺達の役割を理解してくれるやつもいるんだな、と思ってな」


 人間はまるごと敵だと思っていたが、俺達の事を知らないだけで、中には分かってくれるやつもいるのだ。

 そう思うと、少し感慨深いものがある。


「分かった。お前たちに免じて、無用に人間に手出しすることは避けよう。ティナ、よろしくな」


「はいはい。アタシの出番だと思いましたよ~。ちょっと手間だけど、できる限り人間は傷つけないようにするわ」


「おぉ、旦那、アネゴ、あざっす!」


 そうして、奇襲を得意とするティナとミズクの二人に輸送を狙ってもらった。

 結果、予想以上においしいことになった。


「みてよ!この魔石!持って帰るのが大変だったくらいよ!」


「(どうやら、貯めていた魔石を運ぶタイミングだったようじゃな。苦労したかいがあったわい)」


「ちょっと!魔石運んだの、ほとんどアタシじゃない!ミズクはそんなに働いてないでしょ!」


「(護衛の人間を打倒したのはワシのが多いわい)」


「それも、アタシが人間の注意をひきつけてあげたおかげでしょ!」


 やいのやいの言い合う二人。

 それも本気で言い合っているのではない。首尾よく魔石を回収できたことで上機嫌だ。

 もちろん俺も。


「二人ともよくやった!外周エリアで狩られた野良魔獣の魔石ほとんど回収できたんじゃないか!?」


 得られた魔石は300以上。小ぶりのものが多いから、DランクとEランクの野良魔獣の魔石がほとんどだろう。だが、低ランクとはいえ、この量。相当な魔力になることが期待できる。


「でも、おしかったな~。あのでっかい魔道具、魔導車っていうんだっけ?あれ、絶対、魔力的においしいと思うのよね~。大きすぎて持って帰れなかったけど……。あ、そうだ!次回はカイン兄も一緒に行こうよ!そしたら、その場で魔力に換えられるじゃない」


 輸送には魔道具が使われていて、相当なスピードで移動していたらしい。

 ティナとミズクの二人に任せてよかった。ゴブリン達では追いつくことすらできなかっただろう。


「う~ん、どうなんだろうな?俺のスキル自体は魔力を自然に還すだけだからな。ダンジョンコアを持っていったとしても、ダンジョン内でスキル使わないとダンジョンコアの魔力にはならないんじゃないか?」


 確かにそれほどの魔道具、ちょっと惹かれるが……。

 それに今、俺が人間の目につくのはできれば避けたい。


「それに次回からは人間の方も対策してくるだろうしな。その様子を見てから、次回の事を考えよう」


 できれば、今回の作戦は続けたい。

 だが、あの町の人間は一度のゴブリンの襲撃であっという間に対策をとってみせた。2度目がそう簡単にうまくいくとも思えない。


 まぁ、それはさておき、だ。


「ねぇカイン兄」


「あぁ、せっかく取ってきてくれたんだ。その成果を数字にして見ないとな」


「(ランクアップに到達すると良いのぅ)」


 俺は魔石の山に手を触れ、スキルを使う。


「《永劫回帰》」


 魔石が光出す。

 魔石は光の粒となり、周囲に拡散していく。

 だが、その一部はダンジョンコアへと流れていくのを確かに感じる。


「どう?魔力増えた?」


「まぁ待て」


 ワクワクが止まらないといった様子のティナを制し、俺はダンジョンコアの魔力を確認する。


【深緑のダンジョン】

 管理者:カイン

 ランク:D

 魔力:19,842/20,000

 スキル:ダンジョン創造Ⅱ、魔族創造Ⅱ、魔族強化、交信Ⅰ、魔力調整


「よし!」


「キャーーーいいじゃない!!」


 今回の魔石の魔力を吸収したことで15,000くらいの魔力が増えている。

 今は1日あたりに増える魔力が正味800弱であることを考えると相当な量だ。

 というか、ダンジョンコアに貯められる魔力の限界近くになっている。

 貯められる量に限りがあるのを忘れてたな……少しずつやればよかった。


 さぁ、あとはこの魔力をコアの強化に回して、ランクアップするかどうかだ。

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