第46話 魔道具の使い方

「おらぁ!」


 ダットンが剣を大振りする。


「《ファイアボール》」


 さらに、そこへリズリーが使った魔道具の魔法が畳み掛ける。


 俺は広場で行われている戦いを見物している。

 昨日の襲撃祝勝会でティナがダットン達と訓練を行うと言っていたので、見に来たのだが……


「なんで、ゴブリンが相手してるんだ?」


「(さぁ?でも、人間相手の戦闘、訓練にいい。オレ達は助かる)」


 魔道具を新たに装備したダットン達4人のパーティとゴブリン5匹が戦っている。

 終始、ダットン達が押しているが、ゴブリン達もなんとか防御には成功している、といったところだ。互角とは言えないものの、ダットン達はDランクとされていた冒険者だ。それを相手にしたEランクのゴブリンの戦いであることを考えれば、かなり頑張っている方だろう。


「だって、ぜ~んぜん相手になんなかったんだもん」


 後ろからティナが現れる。


「やっぱりダットン達じゃ地力が足りないか……」


「それもあるけど、あれは魔道具の扱いに慣れてないって感じね。結構レアな魔道具もあったみたいで、最初見たときはヒヤッとさせられたけど、むしろ魔道具を使うことでスキができてたし」


「しょーがねーだろ!俺達みたいな田舎の下級冒険者はそんな魔道具使ったことないんだからよ!」


 ゴブリン達と戦いながら、ダットンが言う。


「(じゃ、次の組~)」


 そうしている間にゴブリン達は入れ替わり、新たな5匹が前に出てくる。

 当然、出てきた5匹は元気いっぱいなわけで……


「ゴブ~~~~」


「もう勘弁してくれ~~」


 ダットン達は悲鳴を上げながら、必死に戦いを続ける。


「それで、なんでダットン達対ゴブリンになったんだ?」


「とりあえず、魔道具の扱いに慣れてもらおうと思ったのよ。で、ちょうどいい相手が誰かってなると……」


「ゴブリン達しかいなかったと」


「そーゆーこと」


 まぁそうだよな。うちの主力はゴブリンとスライム。スライム相手に魔道具使った戦闘とか、ちょっと違うもんな。


「(オレ達も普段はゴブリンしか相手にしてないから、いい訓練になる。襲撃でケガしたのいっぱいいる。まだまだ強くなる)」


 うむ。いい心がけだ。

 襲撃は成功と思っているが、ゴブリンたちには死傷者も出ている。それは仕方ないことだ。

 一部は冒険者と戦闘になったのに、押し返したようなゴブリンもいたようで、むしろすごいと思っている。あの町の住人達もさぞかし驚いたことだろう。


「あんなけ魔道具を使われるとコストが不安になるが……」


「必要経費よ!これから狩った魔獣の魔石はとっておきましょ」


 森の野良魔獣には基本手を出さない方針だが、巡回に出ているゴブリン達やティナに向かってくる野良魔獣も一定数いる。これまではそうしたやつらの魔石は一応とっておいてある。


「まぁ仕方ないか。で、ティナ、おまえはどうするんだ?」


「そうなのよね……カイン兄、相手してくれない?」


「ダメだ」


「なんでよ?」


「俺の戦いは魔法を使う。無駄に魔力を使うわけにはいかない」


 俺が魔法を使えば、それだけダンジョンコアから俺に補給される魔力が多くなるわけだからな。


「でも、カイン兄も訓練はした方がいいんじゃない?いざという時、戦えないと困るでしょ?」


 言外に俺のレベルも低いことを指摘してくる。

 確かにそれはそうなんだがな……


「……いや、それでもだ。もう少し魔力に余裕が出てくれば考えるが、今は温存しておきたい」


「……まぁ仕方ないっか」


 ティナがいそいそと装備を整え、外に行く準備をする。


「それじゃ、アタシは見回り兼仲間探しに行ってくるわ。それにアタシの訓練になるようなの見つけないとね」


 そう言って、ティナは森の中に入っていく。


「(一周した?じゃ、ちょっと休憩~)」


「ッぷはぁ!」


「ちょっと、旦那助けてくれよ!」


 ゴブリンとの対戦を終えて、ダットン達がこっちに来る。


「おつかれさん。どうだ?魔道具の具合は?」


「いや、魔道具はすげーな。まるで俺じゃないみたいなパワーだ」


 ダットンは『腕力の腕輪』を装備していた。


「魔法もよ。ノーコストでこの威力。そりゃ魔道具持ちとそうでないのじゃ、戦闘力は全く違うわよ」


 リズリーは《ファイアボール》を放てる杖を使っていた。


「いや、『ノーコスト』じゃないぞ。魔石を使うんだからな」


「まぁ冒険者時代はそうっすどね。いまはカインの旦那が補充してくれやすから」


 ……本気じゃないよな?冗談で言ってるんだよな?


「それにしても、よ。弓とかなら、弓が切れたらお終いだけど、これなら魔石を持っとくだけでいいんだから。魔石さえ準備できるなら、ほぼ無尽蔵に使えるわけでしょ。しかも使っても疲れるとかないし」


 まぁそれはそうだろうな。

 ゴブリンとの訓練であれだけ《ファイアボール》を連発しておきながら、まだ魔石の魔力は切れていないようだった。魔石の質にも当然よるのだろうが、それなりに使い続けられるのだろう。


「だが、ティナは魔道具を使いこなせてないって言ってたぞ」


 俺の言葉に4人は顔をしかめる。


「いや、いきなり身体能力が上がったら、逆に動きも悪くなるぜ?しかも、腕力だけだからな。どうにも振り回される感がある」


 ふむ。それはまぁそうか。体の一部だけ身体能力が上がっても、他がついてこなければ、十全に能力は発揮できないだろう。


「魔法も使い慣れないと難しいわ。ボタンでも押せば使えるのかと思ってたけど、違うのね。なんていうの?集中して祈ると魔法になる、みたいな?慣れるまでは使おうと思ってもすぐには発動してくれないし、それ以前に発動させるのがうまくいかないのよ」


 人間は魔力を使えないはずだが、魔道具を持つと多少は使えるようになるということだろうか?

 ん?ということは、俺達が使えば、もっとうまく使えるってことか?


「ちょっと、その杖、貸してみてくれ」


「え?あ、はい」


 リズリーから《ファイアボール》の杖を受け取る。


 そして、5メルトほど先の地面に向けて、杖を振るう。


「《ファイアボール》」


(ボウッッ!……ドカァーーーーン)


 明らかにさきほどリズリーが使っていたときよりも大きな火の玉が発生し、広場に大きな穴を開ける。


「なによこれ……私と全然違うじゃない……」


 これは……


「なるほど。この魔道具は装備している者の意思を汲み取って、魔力を魔法に変換するようだな」


 通常、俺達が魔法を使う時には体内の魔力を練り上げて、手のひらなどに集め、魔法に変換する。人間は魔力を使えないので、どうやってるのかと思ったが、意思を発動キーにして、魔道具が魔石から魔力を吸い上げ、魔法に変換するまで自動でやってくれるようだ。


「意思っすか?」


「そうだ。闘志とか殺気とか言った方が分かりやすいか?魔道具はそういった感情を読み取り、その強さに応じて魔法の威力を調整してるんだろう」


「てことは、今、旦那は強い意思をもって、使ったってことっすか?」


「いや、俺の場合はいつもの癖で、魔力を集めたからだな。そのせいで、ほら」


 杖の先端についていた魔石が光を失っている。


「この魔石はもう使えないな……」


「……ちゃんと補充してくれるのよね?」


 リズリーが不安そうにこっちを見つめる。


「仕方ないな」


 俺はとっておいた魔石と一緒に杖をリズリーに渡してやる。


 しかし、魔道具は便利だな。別に人間でなくても使えるのだ。

 ゴブリン達に持たせても使えるんじゃないか?

 それに俺達なら魔石なしでも体内の魔力を使えばいい。

 ……そんなことに対応した魔道具があるかは知らんが。

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