第45話 勝利の味
「きぃーーーー!悔しい!!なんなのよ!あの筋肉おばけ!」
ティナが荒れている。
今は町の襲撃の祝勝会中だ。襲撃から帰ってきて、そのままみんなで洞穴前の広場に集まって、飲み食いしている。
「いや、今回の戦果は十分だろ。見ろよ、これ」
俺は目の前の魔道具の山を指差す。
20個くらいはあるはずだ。俺のスキルでどれだけの魔力に還元できるか、楽しみでしょうがない。
今回の襲撃の主な目的は2つ。魔道具の回収と作りかけの町のリセットだ。
魔道具の回収は見ての通りだし、町の方も柵やら家やらは粗方燃やせたらしいので、大成功と言ってもいいだろう。
襲撃に参加したのはゴブリンほぼ全員とティナだ。ゴブリン達には町の施設を燃やしながら、魔道具と思われるものの回収を頼んだ。ゴブリン達でも魔石は分かるので魔道具の判別は可能だ。
ティナの方にはそのゴブリン達のフォローとおまけで、町の中心人物の排除を頼んでいた。
「だいたい、あの筋肉、寝ているところに《無音の探索者》使って奇襲をかけたのに、避けたのよ!そんなことある!?」
ほぅ、それは奇妙だな。
ティナのスキルなら自身の気配の一切を気取られずに仕掛けられる。寝ているヤツなんか気付けるわけはないのだが……。
「しかも、その後の戦闘でもアタシのスピードについてくるし!ルークといい、なんなのよ!アタシ、Aランクの魔族よ!なんでアタシ以上の人間がこんなにゴロゴロいるのよ!!」
ムキッーーーーと言わんばかりの様子のティナは今度は食にストレスをぶつけることにしたらしい。手当たり次第に食い散らかしている。
「(あっティナ、それ、オレの……)」
「ゴブタロウ、今のティナに触れるんじゃない。そっとしとけ」
手にとったアププをティナに取られたゴブタロウをなだめる。
「そういや、ゴブタロウ、おまえ、女の子を助けたんだって?」
「(うん、かわいかった。将来有望)」
「(ほう、ゴブリンは女と見れば見境なく襲うもんだと思ってたんだがのう)」
ミズクがなんとも失礼な事を言う。
……まぁ俺も割とそう思ってたが。
「(オレ、幼女趣味ない。ティナの方がいい)」
「アタシはイヤだけどね」
ガーーンっといった表情でゴブタロウが沈んでいる。
正直、このやりとりも見飽きてきたな。というか、いい加減、ゴブタロウも諦めるなり、慣れるなりしないものか。
ちなみに、今回の襲撃では人間を襲うようには指示していない。といより、戦闘は避けさせた。
今回の戦場は相手側で行うものだったし、戦力はほぼゴブリンだけだったので、こちらの被害を避けたかったというのが主な理由だ。とはいえ、町の完成を遅らせるためにも、その長はできれば排除しておきたかったので、個別にティナに頼んでいた。……失敗したが。
別に人間を傷つけるな、とか、怪我しそうなら助けろ、とも言ってないので、今回ゴブタロウが人間の女の子を助けたというのは完全にゴブタロウの意思だ。
もちろん、別にそんな女の子など俺達の邪魔になるもんでもないので、助けたことを咎めるつもりもない。
「(しかし、今回の襲撃で人間どもは大打撃っすね)」
「(さきほど見て回って来たが、ほぼ出来上がっていた柵は全壊。いくつかあった家も半分くらいは焼け落ちておったぞ)」
「あぁ、これでまたイチから奴らは作り直さなければならないわけだ」
「(それで、また出来上がってきたくらいで襲撃するっすね)」
「そうだな」
だがまぁ、奴らも馬鹿じゃない。何かしらの対抗策はとってくるだろうから、次回も同じように襲撃が成功するとは思えない。
それでも、町の開発を遅らせることには間違いなく成功した。
俺はアププを1つ取り、ゆっくりとその味を噛みしめる。
ダンジョンを初めて創ったときに食べたその味を思い出す。
「なぁ、旦那、ちょっと相談があるんだけどよぉ」
祝勝会に参加していたダットンが声をかけてくる。後ろにはルイーズ達も控え、なにやら下品に笑っている。
「どうした?食い物なら好きに食っていいぞ」
「おぅ、それもありがたいんだけどよ。こっちも分けてくんねぇかな?」
そう言って、ダットンは俺の前で山積みされているものを指差す。
「魔道具を?」
「そうそう。けっこーレアなやつも混じってるじゃねぇか。これなんか『腕力の腕輪』だろ?」
そう言って、ダットンは1つの腕輪を取り上げる。
腕力上昇ってことは使うと力が上がるってことか?
そういや、人間が使う魔道具ってどんなもんがあるんだろうな?
「ねぇ!スピードを上げるような魔道具もあるの!?」
「おぅ!?」
ティナがダットンに迫る。
「ここにはないけど、あるところにはありますぜ。身体能力向上系はお高いっすけどね」
ダットンに代わり、ルイーズが答える。
「それだ!あの筋肉、絶対それ使ってたのよ!人間じゃありえないスピードだったもの」
なるほどな。ということは……
「もしかして、魔力を感知するようなのもあるのか?おまえらが持ってた、特定の魔力だけに反応するやつじゃなくてだぞ」
「ありますね。というか高ランクの冒険者には必須の魔道具だって言われてますね」
やっぱりか。
「その町長らしき男は多分持ってたんだろうな。ティナのスキルが通じなかったのはそれが理由だろう」
ティナが《無音の探索者》を使っているときでも魔力はそこにあるわけだ。魔道具でそれを探知できるなら、ティナの襲撃に気づけた可能性もある。
「そういうことだったのね……」
ティナが分かりやすく落ち込む。
まぁそうだよな。自分の圧倒的優位性が揺らいだのだから。探知範囲は決して広くないのだろうが、《無音の探索者》を使って楽々暗殺ってのは高ランク冒険者には通じないわけだ。
「決めた!アタシ、頑張る!レベル上げるわ!」
急にティナが立ち上がり、鼻息も荒く、やる気を見せている。
「おぉどうした?」
「人間と思ってナメてたわ。魔道具があると人間でもアタシ達に匹敵しうるし、それはルークみたいな特別なやつだけじゃないってよく分かった!アタシ、強くなる!」
やる気を見せてくれるのはいい事だが……
「どうやって?言っとくが、野良魔獣を好き勝手に狩るのは禁止だからな」
「分かってるわ!ちょっと、アンタ達、付き合いなさい!」
そう言って、ティナがダットン達を指差す。
「「「「へ?」」」」
「獲ってきた魔道具貸してあげるから、アタシの特訓に付き合いなさい。魔道具ありで、4対1なら勝負になるかもしれないでしょ!」
なるほどな。魔獣相手と人間相手だとそもそも戦い方も違うだろうしな。
「いい考えだな。よし、おまえら、好きなの持ってっていいぞ。ただし、貸すだけだからな」
「おっマジか!?さすが旦那~」
「いや、ちょっと待つっす。魔道具を貸していただけるのはありがたいっすけど、ティナの姉御と模擬戦なんて俺らには……」
「模擬戦?何甘いこと言ってるのよ?やるからには殺す気でやるわよ!」
「え……」
まぁダットン達が死んでも、もう大して困らないしな。
「よし、頑張れよ!」
「ちょっと旦那~」
「あの筋肉はアタシがシメるんだから!!」
ティナがダットンとルイーズを引きずっていく。
それに仕方なくついていくドマーニとリズリー。
だが、ちゃっかりと手には魔道具を持ってるようだ。
ティナだけじゃなく、俺も頑張らないとな。
次、ルークとやり合うときには勝てるように。
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