第42話 価値観の違い
「旦那、あんたは自由に魔獣を創れるんだろう?だったら、人間が必要とする分だけ魔獣を創ってやればいいじゃないか?その代わり、旦那達には手を出さないように約束させるのさ」
「それ、いいじゃない!ドマーニ、たまにはあんたも言いこと言うわね!」
リズリーがドマーニを褒め称える。
「そうっすよね。別に人間からしても、魔石や素材が十分に取れるのであれば、襲ってもこない魔獣を相手にしたいとは思わないっす」
「そうだな。いいじゃねぇか」
ルイーズ、ダットンも続く。
まぁ彼らの言ってることは分かる。
「共生できるもんなら、俺としてもそうしたい。別に俺達からしても人間を襲うことにメリットなんかないからな」
「じゃぁ……」
「だが、ダメだな」
俺は断言する。
「まず、創った魔獣を生贄のように差し出すってのが気に入らない」
別に俺は創った魔獣を家族のようだとか、そんな風には思っていない。もしかしたら、このあたりも人間とは感覚が違うのかもしれないが、戦って敗れたのであればそれは仕方ないと思っている。人間に魔獣が狩られてもそれはその魔獣が弱かったということだ。
だが、人間に魔石や肉や革をくれてやるために魔獣を創るとなると話は違う。
「別に弱い魔獣がやられても仕方ないと思うけど、人間に献上してやるために仲間が犠牲になるのは釈然としないわ」
「(なんでオレっち達が生きていくのに人間に気を使わなきゃいけないんすか)」
「(まるでギブアンドテイクのような言い方をしておったが、それは勘違いじゃのぅ)」
みんなも同意見のようだ。
口々に反論され、ダットンらも返す言葉が見つからないようだ。
「それに、だ」
魔獣が犠牲になることよりも、もっと根本的な問題がある。
「人間がそんな約束を守るとは思えないな」
俺達は人間のことを詳しく知っているわけじゃないが、人間が貪欲で無駄な事を好むことは知っている。
「『人間が必要とする分だけ』なんて言ってたが、その『必要とする分』ってどのくらいだ?人間は魔力がなくても生きてけるんだ。必要な分なんて、そもそもゼロだろ。それに、そんな約束を交わしたとしても、日に日に要求がつり上がっていくのが目に見えるね」
「いや、旦那、魔石がなけりゃ生活できないっすよ。灯りはどうするんすか?水も出てこなくなっちまうし、火も起こせないっすよ」
ルイーズが反論してくる。他の人間3人も頷いている。
一方、俺の仲間達は不思議そうな顔をしている。
「なんでよ?別に日が出てれば、灯りなんていらないじゃない?どうしても夜動きたければ、松明でも使えばいいじゃない?」
「(川に水、いっぱいある)」
「(人間は火の起こし方も知らんのかい。ゴブリンだって火付けくらいするぞぃ)」
「いや、たしかにそりゃそうっすけど……」
ルイーズが口ごもる。
「な?お前らは無駄な事が大好きで、魔石を無駄な事に使ってるとしか思えないんだ」
魔力は有限だ。魔力を自然と扱うことのできる魔族だって、無駄に魔力を使ったりしない。それが、こいつらと来たら、無駄な事ばかりに魔力を使いやがる。
「人間と俺達では考え方が違う。共生ってのは無理だろ」
俺が改めて宣言すると、ダットン達はしゅんとする。
「俺達がこんな風にやれてるから、なんとかなるんじゃねーかと思ったんだけどな」
「人間全員が今のお前達みたいな生活をしてくれればいいんだがな」
ダットン達は今、一切魔力を使っていない。
朝に川まで水を汲みに行き、生活に必要な水は家の脇に置いてある瓶に貯めている。調理に火が必要となれば、火打ち石で火を起こしている。食料はこの森の木の実なんかを採ってるし、たまに俺らが狩った魔獣もわけてやったりしている。
生きていくだけで魔力を消費する俺達とは違い、本当に一切魔力を使う必要がない。ある意味、俺達からすると羨ましい。
「俺達だって、最初はこんな原始的な生活、つらいと思ったさ」
「あ~いや、最初は捕虜みたいな扱いだったから、それに比べたらマシって感じだったっすね」
「だが、慣れてくるとまぁこんな生活も悪くねぇなって感じだな」
「食っていくだけなら、危険を冒す必要がない分、元の冒険者生活よりいいかもしんないねぇ」
ダットン達が口々に今の生活について感想を洩らす。
……無理だとは分かっているが、一応俺は聞いてみる。
「人間全員がお前達と同じ生活、できると思うか?」
「「「「無理だ(よ)(っす)」」」」
だよなぁ。
「魔石のある生活の方が絶対楽っすもん」
「今はまだいいけど、夏とか魔石なしじゃ干上がっちゃうわよ」
「魔石をとるには魔道具も必要だしな」
分かってはいたが、やはり人間はそういう生き物だと改めて認識させられた。
「まぁ共生の話はもういい。別に俺達に敵対せず、協力するならお前らがここで生活するのは止めはしないが、積極的に人間と共生するような事は考えられん」
「ちなみに、俺達を解放してくれたりは……?」
「それはダメだな」
ここまでダンジョンの事を知った人間を安々と返すわけにはいかない。
「別にここの事しゃべったりしないですって~」
「まぁ俺はここの生活も悪くないから、このままでもいいかな~と思ってるが」
「あ、あっしもっす」
ぐだぐだと話す人間達はひとまず置いておく。
もともと俺達は人間の町に対抗するために話を聞きに来たのだった。
「話を戻すぞ。まず、人間達はダンジョンの事をあまり分かってないってのは分かった。今、人間が町を作ることを優先して、俺達の討伐に乗り出してないことを鑑みると、そもそもダンジョンマスターの排除やダンジョンコアの確保は考えていないのかもしれない」
「そうっすね。魔石を採取するためにはダンジョンを攻略しちゃダメだと思ってるんじゃないっすかね」
「だとすると、俺達はある程度は強気に出られる。町が作られるのを黙ってみているなんてもってのほかだ」
周りをみると、仲間達はみな頷いている。
「人間の町を攻めるぞ!」
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