第41話 ダンジョンってなんだ?
「おぅ、なんか用か、旦那」
そう言って、一人の人間が出てくる。
小屋の中からはいい匂いがしている。どうやらメシを作っていたようだ。
「ルイーズ達は今いないのか?」
「やつらは森の方へ木材の調達に行ってるぜ」
こいつは、以前、このダンジョンを襲撃してきた人間の1人だ。
4人組のパーティだったが、なんとも間抜けなやつらであっさりと落とし穴に落ちた。
その後、ルークがやってきて、うやむやになっていたが、こいつらは人間側の事情を知るために生かしておいた。ときどき、情報収集のために、こうして話をしている。
最初のうちは、洞穴の中に牢屋のようなものを作って、代わる代わる監視もつけていたのだが、なぜかだんだんと打ち解けてしまい、いまでは森の空間にこうして、普通に暮らしている。
「どうやら、人間達が森の近くに町を作っているようでな、その件で少し話を聞きたい」
「お~ついに、このダンジョンも普通に知られるようになっちまったか~。で、俺に聞きたいことって?」
ダットンに事情を説明していると、他のやつらも帰ってきた。
「カインの旦那、どうも。みなさんもお揃いで、ご無沙汰してやす」
「ちょうどよかった。おまえらも旦那の話を聞いてくれ。俺だけじゃたぶんよく分からん」
助かる。正直、ダットンだけだとどこまで情報が正しいものなのかも分からない。
……4人揃ってもたかが知れれてるが。
まぁ、それも、このダンジョンを襲撃してきたときの様子を見れば推して知るべしって感じだ。
俺は改めて状況を説明する。
「それで、普通に考えたら、町を作るよりもダンジョンマスターの討伐を優先しそうなもんだが、そこのところはどうなんだ?討伐の冒険者を派遣するのに町が必要ってこともないだろ?」
「「「……」」」」
4人が顔を見合わせる。
「なぁ、ダンジョンマスターってなんだ?」
「は?」
「いや、なんとなく、話の流れから、カインの旦那の事だろうってのは分かるんだけどよ。ダンジョンを作った魔族をダンジョンマスターっていうのか?」
……なるほど。俺達が人間のことをあまり知らないように、人間達もダンジョンの事をあまり知らないんだな。
「ということは、ダンジョンマスターがいなくなっても、ダンジョンコアが自動的に魔族を生み出すなんて話も……」
「知らねーな」
俺もアタシもとダットン以外の奴らも続く。
「そもそもダンジョンってなんなんだ?」
おぉぅ、そっからか……
というか、人間みんなこのレベルなのか?単にコイツがバカなだけなんじゃないか?
他のやつらの顔を見ると、俺の表情から言わんとしていることを読み取ったのか、ルイーズが口を開く。
「そうっすね。旦那が思ってるとおり、ダットンは馬鹿っす」
「あぁ!?」
「でも、ダンジョンが何か、なんてたぶん、ちゃんと知ってるやつなんていないんじゃないすかね?俺が知ってるのも、魔獣が出てくるところはそのうちおかしくなっちまうってことと、そういったところにはたまに魔族がやってきて、ダンジョンを作るってこと、そしてダンジョンにはダンジョンコアってお宝があるってことくらいっす」
俺は唖然とする。
魔力溜まりを解消するために俺達がダンジョンを作っているということを人間達は知らなかったのだ。
魔力溜まりを放置していいことなんか一つもない。
それどころか、魔獣が異常発生したり、天変地異など起こして困るのはむしろその周辺の人間の方のはずだ。
俺達は人間達の役にも立っているはずなのに、なぜ、一方的に敵対してくるのかと疑問に思っていたが、そもそも知らないのだ。
「地脈を流れる魔力がたまに一箇所に溜まってしまうことがある。そうなると、おまえらが言うように魔獣が発生し始め、ひどくなると天変地異まで起こる」
4人とも、ふむふむと静かに俺の説明を聞いている。
「アタシ、魔石の採取場所で天変地異が起きて、街が消え去ったって話は聞いたことあるわよ」
魔石の採取場所、か……
「それを防ぐためには、その淀んだ魔力を管理してやる必要がある。そこで、地脈を流れる魔力の管理者たる俺達が、ダンジョン化することで、魔力が溢れないようにフタをしてやるわけだ」
「えっ!?じゃ、旦那達は天変地異を防ぐためにダンジョンを創ってるってことっすか?」
「そうだ」
「「「「……」」」」
4人は黙り込む。
魔族なんて、魔石の提供以外に人間の役に立つことなんてないとでも考えていたのだろう。
それが一転、むしろ災害を防ぐために働いていたと分かったのだ。
混乱もあるだろう。
「それなのに人間ときたら、ダンジョンを守る我々を襲ってくるばかり。一体何を考えているんだか……」
「んじゃ、ダンジョンコアをとっちまったら、また天変地異が発生するんすか?」
「ダンジョンができたばかりのときにコアを取ったらそうなるな。ダンジョンコアによってフタをしておけば、そのうち自然に地脈は治る。そうなったら、コアを取っても問題ないといえば問題ないな」
「ダンジョンコア、取っちまったら、ダメじゃないすか!?」
「だから、そうならないように俺達が守ってるんだろ?」
ドマーニ達が黙り込む。
さすがのこいつらも自分達がしようとしていたことが、どんなにマズイことか理解してきたようだ。
「別に俺はよう」
ドマーニがポツポツと話し始める。
「別にセレンの町に愛着なんざねぇ。どうなろうとかまわねぇ」
……おいおい、何を言い始めるんだ?
「だが、自分達のせいで、街がまるごと消えちまうような災害を引き起こすってのは気持ちいいもんじゃねぇ」
……
一層沈んだ空気になる。
「(人間、ダンジョンの事、知ったら、攻めて来ない?」」
さすがはゴブタロウ、この空気をものともしない。
しかも、なかなか目の付け所がいい。
俺もここまで話をしていて、その事はふと思った。だが……
「……いや、ダメだろうな。人間は魔石を必要としている。ダンジョンコアを狙うこと自体は避けるかもしれないが、魔獣を狩ること自体やめはしないだろう」
ドマーニ達にはゴブタロウの声は通じない。ティナが通訳していやっている。
「だったら、ダンジョンコアは放って、どこか遠くに逃げればいいんじゃないのかい?」
唯一の女冒険者のリズリーが名案とばかりに声をあげる。
「残念ながら、それはできない。ゴブタロウ達なら可能だろうが、俺やティナのような高位の魔族はダンジョンコアから魔力の補給を受けないと生きていけない」
「そっか……」
簡単な解決策があるなら、既に誰かが実行しているだろう。そう簡単にはいかない。
だが、人間達はなぜこんなにもダンジョンの事を知らないのだろう。
はるか昔から我々魔族は地脈の管理者として務めを果たしてきた。人間の側に知られていないというのは少し不自然な気がする。
……やっぱ、こいつらが世間知らずなだけなんじゃねーだろーな。
「なぁ、旦那」
ドマーニが口を開く。
「魔族と俺達人間って共生することはできないのか?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます