第40話 町への襲撃作戦会議

「(森から5,000メルトほどのところに人間どもがおるの)」


「そうか。規模や設備はどうだ」


「(人間の数は20くらいかの。木で出来た柵の中にテントを張って生活しておるようじゃ。家屋もあるにはあったが、まだ作りかけ、という感じだったのぉ)」


 俺は新しく創ったオウル種のミズクから人間が作り始めた町についての報告を聞く。

 オウル種は大型の鳥に近い種族でただ飛べるだけでなく、隠密行動もできる。ミズクも例にもれず、《隠密飛行》のスキルを持っている。


【ミズク】

 種族:オウル

 所属:深緑のダンジョン

 ランク:D

 レベル:1

 スキル:隠密飛行


 どうやら、人間の町づくりが本格的に始まったらしい。ここ数日、スラポン達からの報告でも、森の外周部の方にいる普段見ない冒険者を見かけることが増えていた。


「(どうするつもりじゃ?言っておくが、ワシだけじゃどうにもならんぞ)」


「そりゃ分かってる。とりあえずはみんなも呼ぼう」


 俺は、《交信》を使って、ティナ、ヘッジ、ゴブタロウ、スラポンを洞穴前の広場に呼び出す。


 最初にやってきたのはヘッジだ。


「(アニキ~どうし……!?)」


「(ぬ!)」


 ヘッジが洞穴から出てきた瞬間、ミズクがヘッジ目掛け、音もなく飛び立つ。

 お、これが《隠密飛行》のスキルか?確かに羽ばたいてても全然音がしないな。ティナのスキルに似ているが……。

 っとそんな場合じゃない。


「ストーップ!」


「(なにをする!?)」


 俺はヘッジのわずか手前でミズクをわしづかみにする。


「それはこっちのセリフだ。ヘッジは俺達の仲間だ。食べちゃダメ」


「(なに!?こんな健康的でうまそうなネズミを見逃せと!?)」


「狩りならダンジョンの外でな。それなら見逃してやる」


「(ぬぅ……)」


「(ビビったっす~死ぬかと思ったっす~)」


 ヘッジは縮こまり、涙目になっている。

 どうやら、ヘッジは本能的に危機を感じ取ったようだ。

 まぁ、そうだよな。生態系としては、捕食者と被捕食者の関係だよな……。


「あれ?どうかしたの?」


 そんな一悶着があったところで、ティナがやってきた。

 ん?ここの関係はどうなるんだ?


「(ぬ!?)」


「え……?」


 見つめ合う二人。

 ティナの方は別になんとも思っていないようだが……。

 ミズクの方はなにやら葛藤しているようにも見える。


「(なんだこれは!?おいしそうとチラと思う気持ちが湧き上がりつつも、絶対に行くなと体中が悲鳴をあげておる……)」


 なるほど。そうなるのか。

 AランクのティナとDランクのミズクじゃ絶対的な力の差があるからな。


 そんなことをやっているとゴブタロウとスラポンもやってきた。


「よし、揃ったな。まず、こいつは新たに創ったオウル種のミズクだ。仲良くするように。あと、改めて言っておくが、配下登録の有無に関わらず俺のダンジョンに属しているとみなした魔族は敵対禁止だ。分かったな、ミズク」


「(ご紹介預かったミズクと申す。さきほどは失礼した)」


 ミズクは素直に詫びた。どうなることやらと少し不安に思ったが、真面目な性格のようだし、これなら大丈夫そうだな。

 ヘッジの方も「よろしくっす~」とさきほどの事は引きずっていないようだ。


「それで、みんなを呼んだのは人間の町ができた件についてだ」


 一斉にザワっとなる。


「とうとうできたのね……」


「(どうするっすか?潰すなら早めの方がいいんじゃないっすか?)」


「(ゴブリン、戦える!)」


「ボク達も~」


「まぁ落ち着け。いまのところ、町はごく小規模だそうだ。すぐ脅威になるようなもんじゃないだろう」


 一旦みなを落ち着ける。だが、みんながダンジョンの防衛について前向きに考えてくれていてよかった。


「それに襲撃するにもデメリットがある」


 安易に攻めるわけにもいかないのだ。


「まず、1つは襲撃がうまくいかなければ、死者も出るだろう。それはこのダンジョンの戦力低下を意味する」


 向こうにも防衛手段はあるだろうし、ダンジョン外であれば、罠などはもちろん《交信》も使えない。相手が有利な環境で戦うというのは大きなデメリットだ。


「そして、なんとも情けない話だが、あまり刺激して、このダンジョンの排除に向けて大きく動かれても困る」


 ルーク級のやつらが大挙して押し寄せてきたら、このダンジョンは持たない。あっさりと攻略されてしまうだろう。色々と策は弄しているが、なんせ、このダンジョンの主力魔族はゴブリンとスライムだ。まだまだ弱い。

 だが、こちらから攻撃するようなことをしなければ、今のようにのんびりとしていてくれるんじゃないだろうか。


 そう。今、人間達はのんびりとしている。


 町作りをしていることから考えて、やつらは長期的に魔獣を狩り、魔石を得るつもりなのだろう。だが、そうならば、ダンジョンマスターはさっさと退場してもらうのが本来はいいはずだ。ダンジョンマスターがいなくなれば、ダンジョンコアは溢れる魔力を勝手に魔族創造に使うようになるからな。人間達にとって、俺という脅威を残しておく意味はない。


 だが、人間達はダンジョンマスターの排除よりも町づくりに精を出している。ダンジョン攻略についてはあまり力を入れていないようにみえる。


「でも、今ならそんなに守りも固くないんじゃないかしら?町ができあがってきたら、間違いなく攻めにくくなるでしょ。何もせずに放置するのはもったいない気もするけど……」


 そうなんだよな。攻めるなら、今がチャンスとも言える。

 俺としても襲撃自体は今やればある程度の戦果は見込めるんじゃないかと思っている。

 やはり気になるのは、人間がダンジョン攻略に向けてどこまで本気になってくるかってところなんだが……。


「う~ん、集まってもらっておいてなんだが、やはり人間側の考えが分からんとなんともならないな」


「じゃ、聞いてみる?……なんか、あんま役に立たない感じだけどね~」


「そうだな。ダメ元で確認しとこう」


 そう決めて、俺達はぞろぞろとみんなで、森の大空間へと向かう。


 森の大空間の奥には、小屋が1つある。

 その小屋のドアを開け、俺は声をかける。


「ダットン、話が聞きたい」

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