第38話 【ジェイムズ】成長する町

「エリックよ、ダンジョンの方の開発状況はどうなっておる?」


 教会にダンジョンの存在を確認させた後、ワシはすぐさま、町を作るように命じた。

 我が領地に降って湧いたようなこの機会。

 一刻も早く、安定した魔石の採取場所として開発したい。


「はい。既に領都で開拓者を募り、第一陣として20名ほどが出立しております。もう既に現地には到着し、町づくりに向けて動いておるでしょう」


 ほう、さすがはエリックだ。視察を担当したキースが帰ってきてから、まだ一月程度しか経っておらんのに、そこまで手配が済んでいるとは。


「開拓者には近くのセレンの町からも移住を募るように言ってあります。ダンジョンの存在をより広く公表すれば、領都外からも人は集まるでしょう」


「そうか。では、そろそろ大々的に公開するとしよう。ただし、くれぐれもダンジョンを攻略するような事はしてはならん。周辺の魔獣の狩りに専念することを厳守させよ!」


「はい。第一陣の開拓者の中には冒険者もおりますが、その件については厳命しております。ダンジョンの公表の際には我が領の法として、その旨周知いたしましょう」


「うむ」


 よくわかっているな。有能な部下を持つと助かる。


「それで、ダンジョンの名前なのですが……」


「名前か……そうだな、我が領のダンジョンであることを知らしめるような名前がよかろう」


「いえ、そうではなく……」


 エリックが言いづらそうにしている。なんだ、珍しい。


「既に決まっているようです。『深緑のダンジョン』という名前だそうで……」


「なに?誰が決めたのだ?」


 別に名前などどうでもよいが、ワシに無断で何を勝手にしているのだ。


「どうやら、魔族がそのように名乗っているそうです」


「なに!?魔族がでてきたのか!?」


「あ、いえ、魔族は確認できていないようです。ただ、森の中に看板があったそうで」


「看板?魔族が用意したのか?」


「おそらくは……」


 ふん、魔族でも文字を書けるものなどいるのだな。

 生意気な。


「まぁ名前などどうでもよい。既に現地で深緑のダンジョンと呼ばれているのであれば、それでよかろう」


「はっ、寛大なお心に感謝いたします」


「だが、看板を見つけたということは、冒険者がダンジョンを見つけたということか?」


「どうやら、開拓者が到着する前にセレンの町の冒険者が看板を見つけたそうです。その冒険者らは看板の先に進んだそうなのですが、魔獣に追い返されてしまったそうです」


 なんだ、それは?情けない。

 まぁ攻略でもされたら困ったことになっただろうから、結果的にはよかったか。


「で、森にはどんな魔獣がいたのだ?キースからはスノーウルフとかいうのがいたというのは聞いたが」


「現在、冒険者ギルドの方に情報を整理させていますが、その冒険者らが看板の奥で相手をしたのは、どうやら……」


 またも、エリックが言いよどむ。

 それほどの魔獣が出たのであろうか?

 あまりに強力な魔獣ばかりだと魔石の採取がはかどらない。C~Dランクあたりの魔獣が多いと良いのだが……。


「ゴブリンだったようです」


「は?」


 ワシの聞き間違えか?


「いま、冒険者はゴブリンに追い返されたと申したか?」


「はい……」


 ……そんなことがあるのか?

 ゴブリンは確かに力は強いが、やつらは頭が悪い。

 少しでも武芸を嗜んでいれば、1対1でも十分に勝てる相手だぞ。


 セレンの町には、ゴブリンにも勝てないやつが冒険者をやっているのか。

 普段は何を狩っているというのだ?


「冒険者はセレンの町の奴らに期待しない方がよさそうだな……」


「そのようで……」


 そりゃ、エリックも困惑するわい。


「ただ、随分と数が多かったとも聞いております。そういった意味では、期待の持てるダンジョンかもしれませんな」


「う~む。いないよりはいいのだが、ゴブリンごときではなぁ」


 魔石の価値としてはたかが知れておる。

 まぁスノーウルフとかいうのはCランクのようだし、クズ魔石ばかりということもなかろう。


「いずれにせよ、開発は急ぐのだぞ」


「それはもちろんでございます。それと、その町に関して、教会の方から、新たに教会を作らせて欲しいと嘆願が来ております」


 む。連中とはあまり関わり合いになりたくはない。それにダンジョンは維持しておきたいのだ。魔獣を忌避する教会が近くにあることが決して良いことだとは思えぬ。


「エリック、お主はどう考える?」


「もちろん、拒否したいところです。魔石の採取場と教会が相容れるとは思えませんからな」


 そうだろう。だが、それでもワシに上伸してきたということは……


「ですが、教会の者はこう付け加えてきたのです。『我々は、深緑のダンジョンを領主がどのように扱おうとも決して異を唱えることは致しません。コアに手を出すなというのであれば、それに従います』、と」


「なに!?」


 随分と殊勝な態度ではないか?普段の教会の言動からすると考えられん。

 やつら、どこかで魔獣が出たとなれば、すぐに『なぜ、すぐ排除に動かないのだ』と、詰め寄ってくるからな。

 一体どうした?


「そうまで言われてしまいますと、ダンジョンの確認にも動いてもらった手前、少々断りづらく……」


「……ダンジョンコアに手を出さないというのであれば、教会を作るくらい、まぁよかろう」


 なにか釈然としないものはあるが、な。


「ご高配、感謝致します。教会にはダンジョンコアに関しては厳命のうえ、許可させていただきます」


「うむ。ついでに可能なら、やつらが何を考えてるのか探れ。気味が悪い」


「承知いたしました」


 だが、教会ができるとなれば、町に人を集めることには一役買ってくれるだろう。

 そう悪いことでもないか。


 これから、その町……


「そうだな、町にも名前が必要だな。町の名前は「ヴェール」にしよう」


 一刻も早く、ヴェールの町が成長し、我が領地に富をもたらして欲しいものだ。

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