第37話 成長したダンジョン
「よし、せっかくだから、このまま下層エリアの紹介といこう。ヘッジ、案内してくれるか?」
「いいわね。アタシも一部しか知らないし」
「(んじゃ、入り口から順に行くっす)」
「(ボクも行く~」
俺達が話していると、果物に飽きたのか、スラポンもやってきた。
ゴブタロウは相変わらず森の中を食べ歩きしているようだ。
俺達は下層エリアの入り口までみんなで戻る。
◇◇◇◇◇◇
「(まずは、ここが下層エリアの入り口の1つっすね。)」
「ん?いま、『1つ』って言った?」
「そうだ。なにも入り口が1つである必要はないからな」
「それって、侵略経路が増えるってことじゃないの?入り口は少ない方が守りやすくない?」
「そんな事いったら、上層エリアの入り口なんていたるところにあるぞ」
なにせ、森だ。入り口も何もない。
「守らなければならない場所を限定するってのは大事だ。強力なコマを置いて、人間がそこをすり抜けたりしないようにするのは当然。だが、それはここである必要はない」
なんせ、ダンジョンコア以外に守らなければならないものなんてないからな。
あえて言うなら下層エリアにはゴブリンルームがあるが、ゴブリン達は守る対象じゃない。むしろ戦闘要員だ。
「このダンジョンは残念ながら、強力なコマといえるような魔族は残念ながら俺とティナくらいしかいない。俺らが戦えるような場所はダンジョンコアの手前に用意してある」
「……そうよね。ゴブリンやスライムを『強力なコマ』とは言わないわよね」
ティナから乾いた笑いが漏れる。
「そうだ。主戦力のゴブリンやスライムは数がいる。だから、むしろ冒険者を分散させて、こちらの数の利を活かせるような形にする方が望ましい」
「なるほどね。だから入り口も複数あるのね」
「(それに入り口はいくつか森の中にありますけど、全部が下層エリアにつながってるわけでもないっす)」
「(ボク達の部屋、いっぱい~)」
「まぁ、スラポン達の居場所の話しはさておき、とりあえず先に進もうか」
そう言って、俺は入り口へと入っていく。
最初にダンジョンコアのあった部屋は今では何もない。ただ、いくつもの穴が開いてるだけだ。
「(ここからは迷宮になってるっす。ダンジョンコアに続いてる道はこの中の1つだけっす)」
「当然、正しい道以外にも罠はあるし、魔獣もいる」
「そこでスラポン達の出番ってわけかしら?」
「(そうだよ~)」
スラポンが元気に飛び跳ねる。
「よし、じゃ、スラポン、案内してくれるか?」
俺はヘッジと代わってスラポンに案内をするようお願いする。
「いいよ~こっち来て~」
スラポンに続いて、穴の中へと入っていく。
「ちょっとこの穴狭すぎじゃない?」
この道は、入り口付近は普通に人間でも歩いていける程度の広さになっているが、奥に進むにつれ、少しずつ狭くなるように作られている。
「正規の道はともかく、そうでない道は俺らが通る予定もないからな。ゴブリンが動き回れるスペースがあれば十分」
「……なるほど。人間は戦闘のために動くのがツライようにしてあるってわけね」
ゴブリン達は個体差はあれど、せいぜい俺の腰くらいの背丈しかない。人間が動きにくいような広さでもゴブリン達なら十全に動ける。
「(ボク達も戦うんだよ~上見て~)」
全員が上を見る。少し先の天井には窪みがあり、何かがふよふよと動いていた。
「(みんな~やっちゃって~)」
スラポンが合図をすると、窪みから液体が滴る。
(ジューーーー)
液体は地面に落ちると、嫌な音を出し、煙を上げる。
「これ……もしかして《溶解液》?」
「(そうだよ~すごいでしょ~)」
「あぁ、すごいぞ、スラポン。よくみんなで頑張ったな!」
これぞ特訓の成果だ。
あれほどまで微妙な効果だった《溶解液》だが、訓練して濃縮できるようにし、さらに何匹かが一斉にスキルを使うことで、攻撃として成り立つものに仕上がった。
「(かがんで進んでるような状態で急にこれが降ってきたら、たまらんっすねぇ)」
「もちろん、《溶解液》だけじゃなく、《毒液》や《麻痺液》のスキル持ちのスライム達も随所に隠れてもらってるぞ」
「とっても地味だけど効果はあるかもしれないわね。たとえダメージを与えられなかったとしても、1回受けたら、相当慎重に道を進むようになるでしょうから、かなりの時間稼ぎになるわね」
「(この道はハズレの道っすけど、まっすぐ進んで突き当りになるまで、普通に歩いても1時間くらいはかかるっす。当然迷宮らしく途中で分岐もありますし)」
「ヘッジ達、そんなに掘ってたの!?」
「(モール達も頑張ったっす。掘った土はゴブリン達が運んでくれたから、ガンガン進んだっすよ」
「迷宮の仕掛けはまだあるぞ」
俺はヘッジに案内してくれと目で合図する
「(それじゃ、こっちに来るっす)」
ヘッジは入り口の空間にもどり、また別の道へと入っていく。
「(さっきの道の奥の方にもあるんすけどね。こっちの道の方が近いんで)」
そう言いながら、ヘッジは道を進んでいく。
「(ここっすね)」
「じゃ、ティナ」
俺はティナに用意しておいたツタを巻きつける。
「だからなんでアタシなのよ……」
「斥候役に感想を聞こうと思ってな」
「もうなんでもいいわよ……やればいいんでしょ」
観念したティナはゆっくりと前へと進む。
すると当然のごとく、地面に穴があく。
「分かってたわよーーーー」
落ちていくティナ。だが、予想していただけに穴の底には見事に着陸する。
「で、これが何なの……」
落とし穴の底に穴があく。
「キャーーーーーーーー!」
(バシャン!)
「ちょっとなによこれ!水!?」
バシャバシャと泳ぎ、壁まで到達してツタを持って一息つくティナ。
「前に罠の検証をしたろ?その検証結果を元に考えた必殺のコンボ罠だ」
こいつは相当悪辣だ。
モノとしては、落とし穴を縦に2つ連結し、さらに2つめの落とし穴の底をヘッジに掘ってもらって、水を貯めたものだ。
今はティナにツタを結びつけているので、落とし穴は2つとも開いた状態になっているが、普通に落ちるとどうなるか。
「……水に落ちた瞬間落とし穴は復元されるわね。落とし穴は一方通行だから、落ちた水の側からは開けられない……」
「正解」
「確実に溺死ね。でも、だったら落とし穴は1つでよかったんじゃないの?」
登ってきたティナが疑問を抱く。
「それだと、一緒に来てた冒険者が助けられるかもしれないだろ。でも2重になってると、落ちなかった冒険者が1つめの落とし穴を作動させても、落ちたやつが消えたようにしか見えないわけだ」
「……どうしたら、そんな考えになるの?悪魔なの?」
「悪魔だからな」
「……」
「落とし穴はだいたいがこのタイプのやつにしてある」
「(その中には一部、1つめの落とし穴から次の道につながるルートも用意してるっす)」
「……もう罠だけで人間やってこれないんじゃないかしら?」
そうだろそうだろ。このあたりは俺の自信策だからな。
「(そんなこんなな迷宮を抜けるとさっきの大空間に行き着くっす。ダンジョンコアはその先っすね)」
「途中途中にこれから新しい魔獣が仲間になったときのために、そいつらが戦えるような小部屋もいくつか用意してあるぞ」
いまはまだ空だけどな。
「あ~ヘッジ、森の大空間作っちゃったから、悪いけど、また大きめの空間を別途作っとていてくれ」
「りょ~かいっす~」
「ドラゴンでも仲間にするつもりかしら?」
「そこまでは分からないけどな。創ったときに押しつぶされるようなことは避けたいだろ?」
早くそうした大型魔獣を創造できるようになりたいものだ。
「あ~大空間の罠の設置もしなきゃな~」
人間達を迎え撃つための準備はおおむねできた。
とはいっても、残念ながら、まだルークレベルの人間がやってきた場合には対抗できそうもない。
やるべきこと、やれることはまだまだたくさんある。
これからもこの深緑のダンジョンは成長を続けるだろう。
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