第36話 森のめぐみ
「ゴブブ~ゴブブ~」
ゴブリン達がご機嫌で何かを運んでいる。
もしかして、あれは……
「ゴブタロウ、それはなんだ?」
「(あっカイン、これ、ココナの木。ちょうどいい大きさ見つけたから、ダンジョンの中で育てる)」
やっぱりか。
ココナの木は丸い大きな実をつける。実の皮は硬いが、割ると白い果肉とあっさりとした果汁が出てくる。
ゴブリン達が運んでるのは2メトルもないので、実をつけるのはまだ先だろうが。
「(大きな木はダンジョンに入れられない。ちょうどいい大きさの木はなかなか見つからない。今日は運がよかった)」
「ゴブリンルームにあるアププの木なんかも、おまえらが運んだのか?」
「(そう。アププはもうすぐ実がなりそう)」
この森は自然の恵みが豊かだ。
ふむ。ダンジョンにも積極的に取り入れるか?
「深緑のダンジョン」だしな。
「よし。ゴブタロウ、森の中で木の実を集めてこい。できるだけ色んな種類をたくさんな」
「(え?木の実?木の実から育てるととっても時間かかるよ)」
「構わない。あ、アププなんかも食べずにいくらかは取ってくるんだぞ」
「(え~アププは食べたい……)」
「我慢しろ。その分、うまくいったら、たらふくアププ食わしてやるからさ」
「(アププ、食べ放題!?)」
ゴブタロウが一緒にいたゴブリンに説明する。
すると、猛ダッシュでココナの木をダンジョンの中に運んだかと思うと、すごい数のゴブリンを連れ出してきた。
「ゴブブブブー!」
何十匹ものゴブリン達が森の中へと木の実を探しに走り出す。これなら、木の実の方はすぐに集まりそうだな。
俺はヘッジを《交信》で呼び出す。
「ヘッジ、ちょっと表まで出てきてくれるか?」
「(りょ~かいっす~)」
すぐにヘッジがやってきた。
「下層エリアの迷宮にゴブリンルームみたいな空間をいくつかつくるように頼んでたろ?そっちはどんな感じだ?」
「(いい感じにできてるっすよ~。アニキ達が戦っても不自由ないくらいの小部屋は5、6個。ゴブリンルーム並の大空間は奥の方に2つできてるっす)」
「その大空間さ、つなげられないか?」
「(へ?合わせて1つの空間にするってことすか?ちょっと通路部分はアニキの設計とズレてきちゃいますけど、そんなに離れてるわけでもないんで、できるっちゃできますけど……)」
「よし、頼むわ。できるだけ広い空間にしてくれ」
「(いったい何をするつもりっすか?)」
「深緑のダンジョンらしくな、下層エリアにも『森』をつくる」
「(え……)」
◇◇◇◇◇◇
それから、10日後。
ヘッジとモール達による集中工事により、1つの大空間が下層エリア内にできあがった。
「ゴブリンルームと同じように昼夜もつけたのね」
ティナを始めとしたダンジョンメンバーもつれてきて、お披露目だ。
「でも、ただ広いだけでなんか寂しくない?」
「おう、そこで役立つのがゴブタロウ達に集めてもらったものだ」
「(言われたとおり、木の実たくさん集めた!)」
すみの方にはたくさんの木の実が積まれている。
アププのように食べられるものから、ドングリのようなものまで、山盛りだ。
「もしかして、これ植えて育てようってんじゃないわよね?」
「おっティナ、冴えてるな。そのとおりだ」
「……それ、何年かかるのよ」
ティナが呆れ顔だ。
だが、もちろん普通に植えて育てるなんてことはしない。
「まぁ見てろって。ゴブタロウ、頼むぞ」
「(分かった)」
ゴブタロウがゴブリン達に指示を出し、木の実をてきとうにばら撒いていく。
「(でも、なんで地下に森をつくろうなんて思ったんすか?森なら外にいくらでもあるじゃないっすか?)」
「まぁそれはそうなんだけどな。俺は冒険者が必ず通過する森エリアが欲しかったんだよ」
これからも森の魔獣は配下に加えていくつもりだ。そうなると、やはり住処は森の中が望ましいだろう。
一方で、冒険者からの護りを考えると下層エリアにも常駐する魔獣がいて欲しい。上層エリアに居てもらうことも悪いことではないが、森は広い。その魔獣が必ずしも侵略してくる冒険者とかちあうとは限らないだろう。
「じゃ、これからのために、ってこと?」
「そうだな。今いるメンバーは必ずしも森が必要というわけでもないからな。だが、魔獣だけでなく、罠のためにも森は必要だと思ってる」
「あ~下草とか生えてると罠も隠しやすいってことかしら?」
「そうだ、特に魔法攻撃系は地面が丸出しだと発動のタイミングが丸わかりだ。せめて草に覆われてる方がマシだろう。それに見晴らしが悪い方が何かと仕掛けやすい」
そんな事を話しているうちに、ゴブリン達が戻ってきた。
「(カイン、撒き終わった)」
種まきと呼ぶには随分と雑なやり方だが、まぁなんとかなるだろう。
「よし、それじゃ、みんな少し離れてろ」
俺を除き、全員がこの空間の入り口近くまで下がる。
「え、ちょっと待って。まさかカイン兄の魔法で成長させるつもり!?この広大な空間の種全部!?」
ティナが驚きの声を上げる。
まぁ確かにちょっと範囲は広いが、魔法自体は植物の生長を促すだけの単純なものだぞ。
「あぁ、木属性の魔法はあんまり得意でもないがな」
まだ騒いでるティナを尻目に俺は魔力を練り上げ呪文を唱える。
「《グロウアップ》」
広大な空間の地面が光輝く。
無造作に地面に置かれた木の実が芽吹き始める。
見る間に芽は生長を始め、幹になり、青々とした葉をつける。
あるものはそのままぐんぐんと背丈を伸ばしていき、あるものは花を咲かせ、実をつける。
ゴブリン達がとってきた木の実に種が付着していたのだろうか?
樹木だけではなく、下草も生い茂っていく。
しばらくすると外の森となんら変わらない森が眼前に広がっていた。
いや、樹木の種類としては食べられる実をつけるものが幾分多いか……
「ホントにやっちゃった……カイン兄、どんなけ魔力持ってるのよ……」
「(魔法の事はよく分かんないっすけど、これはスゴいっすね)」
「(カイン、すごい!さすが!)」
呆然とするティナ。
他のみんなは目の前で起きたことにはしゃいでいる。
特にゴブリン達の騒ぎようはスゴい。ゴブタロウなんか、《騒ぐ》のスキル使ってるんじゃないかってほどだ。
「《迷宮創造》のスキルでも当然できたろうけどな。種用意して自前の魔法でやった方が安上がりだからな」
いつも以上に俺の魔力補給にコアの魔力を使うことになるだろうが、ダンジョンコアのスキルで同じ事をするよりは消費魔力は少なくて済むはずだ。
「だからって……これ相当魔力使うわよね?1人の魔族がこれだけの魔力を体に宿していたってことがビックリなんだけど」
「これでもデーモン種だからな。魔法や魔力には自信あるぞ」
ルークにはディスられたが……。
「(すごい、もうアププもバニーニも実ってる!食べていい!?」
「あぁ、木を傷つけなければ、好きなだけとっていいぞ。スラポン達は幹を溶かしたりしないようにな」
「(大丈夫~みんなにも伝える~)」
ゴブリン達が喜んで森の方へ走っていく。スライム達もふよふよと大移動している。
おいおい、ゴブリンに踏み潰されないようにな。
「(野良魔獣に襲われることのない森っていいっすね)」
「そうよね。アタシやカイン兄はともかく、みんなにとっては外って危険な場所だもんね」
「(土の中もいいっすけど、たまには日光浴もいいすね~)」
そう言ってもらえると俺も人肌ぬいだ甲斐があったというものだ。
防衛機能としてだけでなく、みんなに気に入ってもらえたようで、本当によかった。
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