第35話 新たな可能性
「で、今日は何をするつもりなの?」
「ダンジョンスキルで創れる罠の検証をしようと思ってな」
露骨にイヤそうな顔をするティナ。
「別に危険な目に合わせるつもりはないから、大丈夫だぞ」
「それ、アタシじゃなきゃダメなの?ゴブタロウでいいんじゃないの?」
「いや、罠についての意見も聞きたいし、万が一があったとき、ゴブタロウだと危ないだろ?」
「やっぱり、危険なんじゃない!!」
万が一だって言ってるだろうに……。
ゴブタロウだとちょっとした事でも重傷になる可能性もあるが、ティナなら大抵の事は問題ないだろう。
それでもしぶしぶ付き合ってくれるティナ。
「今まで落とし穴しか見たことなかったけど、他には何が創れるの?」
「それをこれから確かめるんだよ。ダンジョンコアが何創れるのか教えてくれるわけじゃないからな」
《迷宮創造》のスキルは迷宮内であれば、イメージしたものを自由に創り出せるようだ。ダンジョン内の部屋はもちろん、罠や井戸、さらにはゴブリンルームのように地下空間に昼夜を創り出すことまでできる。すべてはイメージ次第……のはずだ。
「落とし穴だけじゃなくてもう少し殺傷能力のある罠が欲しいわよね」
「そうだな。なんせうちのダンジョンは戦える魔獣が俺ら以外にはゴブリンとスライムだけだからな」
「……改めて考えるとひどいダンジョンね」
ゴブリンとスライムばっかのダンジョン。
うん。すげー弱そう。
「ティナの言う通り、踏むと矢が飛んでくるだとか、魔法が発動するだとかの攻撃系は必須だな。俺としては、罠にかかった敵を転移させるようなのが欲しいんだが……」
「ヘッジ達がすごい頑張ったから、いま下層エリアの迷宮っぷりなかなかだもんね!転移でさらに惑わそうってことね」
「そうだな。あとは、転移先を天井とかにして、墜落死を狙うとか?」
「……転移の用途、間違ってると思うわ」
「そうか?あ~でもそれなら、深~い落とし穴創れば済むか?いや、そもそも落とし穴の深さって調節できるのか?」
う~ん……これも検証が必要だな。
「はい、カイン兄!」
「なんだね、ティナ君」
ティナが何か思いついたらしい。
「落とし穴の下にヘッジ達に穴を掘ってもらえばいいんじゃない?」
「ん?」
「だから、ダンジョンコアのスキルでまず落とし穴を創って、その後、ヘッジ達に落とし穴の中に入ってもらって底を掘ってもらうのよ。そうすれば、スキルで深い落とし穴が創れなくても大丈夫じゃない?前にカイン兄が、落とし穴の底から横に穴を掘って道を作ってたでしょ?横がいけるなら、下もいけるかな~って」
なるほどな。確かにそれはうまくいきそうだ。
「ティナ、やるじゃないか。それは採用だな」
「えへへへ」
いや、ちょっと待てよ……
「横がいけるなら下、か……」
いま、思いついた。落とし穴が縦だなんて誰が決めた?
俺は壁に手を当て、呪文を唱える。
「《迷宮創造》」
これでよし。いけたか?
俺は、もう一度、壁に手を当てる。
その瞬間、壁に穴があく。
「よし!」
「え、なにこれ?」
ティナが目を丸くしている。
「落とし穴だ。横のな」
これは便利だ。手を触れない限り壁にしか見えない扉として使える。
冒険者に来てほしくない場所はこれを使うとよさそうだな。ゴブリンルームへの道もこれで隠すようにするか?
「これ、おもしろ~い!」
ティナがペタペタと手をあて、穴を開け閉めしている。
ん?
「いや、待て!」
ティナの腕をつかんで止める。
「よく考えたら、落とし穴は1回発動する度に魔力を消費するんだ。無駄に触るんじゃない」
「え~いいじゃない。確か1回毎に消費魔力はたったの1でしょ」
「それでもだ。もったいないだろ」
ゴブリンルームの扉に使うのもなしだな。100匹以上がいる部屋だ。全員が毎日外に出るわけでもないだろうが、毎日相当な魔力を消費することになりそうだ。
「でも、いいね、これ。きっと天井とかにもできるよね?天井を触らないと先に進めないなんて、絶対気づかれないよ」
「あぁ、迷宮にはもってこいだな。敵が通ったら、自動的に壁動いて、迷宮の順路を変更するような仕組みを創れないかと思っていたが、落とし穴の応用でできそうだ」
よし、ついでだ。落とし穴を連結できるかも試してみよう。
俺は罠で作った横道に入り、その最奥でさらにスキルを使う。
すると壁はわずかに光輝く。
「できたっぽいな」
俺は連続して落とし穴による道を開けられるのか確認するため、一度横穴から出る。
「なになに?2つ横穴つなげたの?アタシが確認してあげる~」
よほどこれが気に入ったのか、俺が出てきた途端、ティナが壁に触れ、罠を作動させる。
「まず1つ目はおっけ~」
そして、ティナがさらに横穴の奥に手を触れる。
その瞬間、1つめの横穴と同じようにさらに奥への穴が開く。
「すごーい、完璧じゃない」
そう言って、さらに奥へと足を踏み入れるティナ。
そして、俺の目の前に再び壁が現れた。
「は?」
……これは、もしかして、1つ目の落とし穴から誰もいなくなったから、罠が復元した?
落とし穴は誰かがその中にいる限り、穴は空いたままになる。だが、中に誰もいなければ、穴は塞がり、再び元に戻る。
いま、横穴は2つの罠が連続している状態だ。ティナが奥側の2つ目の落とし穴に足を踏み入れたから、1つ目の落とし穴が復元したのだろう。
「お~い、ティナ?」
返事はない。
横穴はそれなりの深さだった。5メルトくらいはあっただろう。それだけの土壁が間にあったら、声も聞こえないだろう。
だが、俺達には《交信》のスキルがある。
「おい、ティナ?聞こえるか?」
「ちょっと!カイン兄、助けてーーーー!真っ暗なんだけど!出られないーーー」
軽くパニックになったティナのSOS。
「そっちからは開かないのか?」
「開かないから、助けてって言ってるの!ねぇ!早く開けてよ!!
これ、かなり使えるんじゃないか?完全一方通行の罠。
さっき、落とし穴の底を掘るとか考えてたが、縦に二重で落とし穴を創れば、簡単に生き埋めにできるぞ。でも落ちずに済んだ仲間がいたりしたら、また開けられるだろうし、触れないと作動しないから、墜落死も期待できないな。やっぱり殺傷能力としてはイマイチか?
いやまてよ、三重にすれば……
「ちょっと、カイン兄ってばーーー」
「あ、悪い悪い」
俺は壁に手を触れ、横穴を開けてやる。
「ちょっと怖かったんだからぁ」
半泣きのティナが出てくる。
「悪かったって。というか、罠にはおまえが勝手に入ってたんだぞ」
「それはそうだけどぉ」
いやしかし、二人して同時に入らなくてよかったな。
あ~そういえば、落とし穴の底からヘッジ達に横道作ってもらってるけど、あっちは大丈夫だったのか?
その後、ヘッジに聞いてみたら、
「(あ、そうなんすか?いまんとこずっと開きっぱなしなってるっすけど。横穴掘ったときに出る土のたまり場になってるからかもしんないっすね)」
とのことで、とりあえずは大丈夫なようだ。
ヘッジには一応気をつけるよう言っておく。
まぁ、落とし穴が塞がってもヘッジなら掘って出てこれるだろうけど。
落とし穴以外の罠を検証するつもりが、落とし穴の新たな可能性を見つけてしまったな。
落とし穴の新たな使い方に気づいたあと、当初の予定どおり、他の罠についても調べてみた。
だが、結果としては、罠と呼べるようなものは各属性の下級魔法を放てるくらいのものだった。
「なんか、罠ってイマイチじゃない?」
「だなぁ」
種類が少ないのもそうだが、びっくりするほど制約が多いのだ。
まず、発動タイミング。罠を設置した地点に何かが接触する事だけしか設定できない。つまり地面に設置した場合には、横に避けたり、ジャンプして飛び越えてしまえば発動しない。「ある空間を通過したら」とか「音を感知したら」みたいな発動条件を設定できると面白かったんだが……。
避けられてしまう可能性があるなら、避けられないほど設置しまくってやれ、とも考えたが、これもダメ。1つの罠を設置したら、およそ5メルトくらいは間隔を開けないと次の罠が設置できない。足の踏み場もないほど罠だらけにするってことはできないわけだ。
ちなみに、落とし穴も底に追加で設置することはできたが、落とし穴の「途中」に追加で落とし穴を設置することはできなかった。隠し通路にしたかったんだがなぁ。
そして、極めつけは維持コストだ。落とし穴は復元に要する魔力は1で済んだが、魔法攻撃系はなんと1回につき10も消費した。まぁその分設置の消費量は10とお安い感じだったので、「従量課金」の傾向にあるのかもしれない。
「殺傷能力って意味では魔法攻撃は悪くはないんだけど……」
「維持コストが高すぎるな。あれなら、自分で使えばいいだろう」
「いや、攻撃魔法を自由に使えるのってカイン兄だけだからね……。でも、維持コストの件を置いといても、魔法攻撃の罠って発動がちょっと遅いよね。光っちゃうから罠の発動には気づかれるだろうし」
う~ん、イマイチ。
ちなみに残念ながら、転移の罠はダメだった。
あとは、魔獣を大量に召喚するような罠ができないかと試してみたが、これもダメだった。まぁ罠というより《魔獣創造》だし、そもそも《魔獣創造》はコアに俺が触れてないと使えないので、期待はしてなかったけど。
「まだダンジョンコアのランクはDだからな。コアが強化されればもう少し使い勝手が良くなるのかもしれない」
というか、Eランクだともしかすると落とし穴しか創れなかったんじゃなかろうか?
「当面は罠以外で考えないとダメかもな……」
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