第34話 おいしくいただきます
「ねぇ、あの冒険者達、ふつーに返しちゃってよかったの?」
「(女いた。もったいない)」
ティナとゴブタロウが冒険者を追い返して帰ってきたが、今回の作戦は疑問に思っているようだ。
……それぞれ理由は違うようだが。
「あぁ、あの程度の冒険者なら送り返す。看板見つけた最初の冒険者だろうしな」
「ダンジョンの存在を知らせるって話は聞いたけどさ。入り込んできた冒険者は容赦しないって言ってなかった?」
「俺も最初はそう思ってたんだがな。ゴブタロウ達が予想外に戦えてたんで、ちょっと考え直すことにしたんだ」
当初、人間側の戦力を削るためにも、やってきた冒険者はすべて始末するつもりでいた。
しかし、ゴブタロウ達は冒険者を相手に余裕をもった戦いを見せた。あれなら、あの程度の冒険者がどれだけ来ようともゴブリン軍団だけでどうとでもできるだろう。
であれば、だ。
「冒険者がダンジョンの脅威にならないなら、カモだ。奴らの持つ魔道具は魔力に変換できるからな」
「……それって、むしろ人間にいっぱい来て欲しいってこと?」
「あぁそうだ。さっきのやつらもぜひ魔道具をまた持って再チャレンジして欲しいね」
魔道具はどうやら、そんなに簡単に調達できるもんでもないようだが……。
「これから、3つのエリアに分けてダンジョンの防衛を考えることにする。まず、ダンジョンコアのある洞穴を含めた下層エリア、そして、洞穴の外ではあるものの、ダンジョンエリアとなっている上層エリア、そして、その外側の外周エリアだ」
忘れがちだが、《交信》などのスキルが使えるダンジョンのエリアは洞穴だけではなく、その外側にも及んでいる。今回もそうだが、ダンジョンのスキルが使えるのとそうでないのでは防衛能力に大きな違いが生まれる。
「下層エリアは防衛の最終ラインだ。それなりの秘策もある。情報漏洩を防ぐ意味も込め、下層エリアに入ってきた冒険者は必ず殺す」
ティナが頷く。ゴブタロウは……まぁいいや。
「(ということは、カモな人間達は下層エリアまでは入れないってことっすね)」
ヘッジが会話に加わってくる。
「そういうことだ。というより、基本的には上層エリアですべて対処する。上層エリアでも、手強い人間はできれば殺しておきたい。それが叶わなければ、仕方ないから、下層エリアで対応する、って感じだな」
「う~ん、それならさ、やっぱり看板はやめた方がいいんじゃない?下層エリアに近づく冒険者が増えちゃうんじゃない?」
ふっ甘いな、ティナ。
「大丈夫だ。とも言い切れないが、あの看板は厳密にはここを示してないんだよ」
「えっでも、さっきの冒険者は看板見て、こっちの方に向かってきたよ?」
「あぁ、おおまかにはな。だが、あの看板はここを外した地点を中心とした半円状に置いてある。つまり、あの看板の裏側まっすぐに進んでこられても、下層エリアには到達しないんだよ」
もちろん、広く探索されたり、方向音痴なやつがいれば、見つかる可能性も十分あるが、ミスリードにはなるだろう。
……もし、ルークのやつが正確にこの場所を伝えていたら、それだけでお手上げだが。
「ぜひ、あの看板群の内側にダンジョンコアがあると勘違いして欲しいものだね」
「なるほどね~まぁここに近づいてくる人間がいても、スラポン達が教えてくれるしね」
「(いきなり、声が響いてきたときにはちょっとビビっちまったっすけどね)」
「あぁ、《交信》の使い方はもう少し訓練してもらう必要があるな」
スライム達にはあれからエサを与え続けて分裂を繰り返してもらい、今では300匹程度になっている。その数はゴブリンを超え、この深緑のダンジョン最大派閥だ。
そのうちの半数程度は、上層エリアに散ってもらっている。彼らには人間を見つければ、《交信》を使って報告するように言っている。つまり、ダンジョン内の監視機能を果たしているのだ。ヘッジが言ったように、《交信》の使い方が雑で、関係のないことまで伝えてくるし、《交信》相手も絞らず、配下全員に使っているようだ。
最初にやらせた時なんて、それはもうひどかった。
「(虫いた~)」
「(風気持ちいい~)」
「(あれ~)」
「(うさぎ、走った~)」
こんな調子だ。
最初は10匹くらいで始めたが、いきなり100匹とかでやらないで本当によかった。
ゴブタロウなんて目を回してたぞ。
その後、時間をかけて指導して、なんとか関係ないことまで《交信》でばらまくことはやめさせたが、それでもまだ十分ではない。これから要特訓だ。
だが、その監視機能が有効であることは今回示せた。
冒険者達も襲ってくるわけでもなければ、スライムがいることに気づいても攻撃してくることはないようだ。
この広い森で、人間の動向を察知することはかなりの難題だったが、この方法なら無理なくやれる。
《交信》が使える必要があるので、下層エリアの内側でないと機能しないし、配下登録する魔獣がかなり多くなることが欠点ではあるが。
「ねぇねぇ、冒険者達が持ってた魔道具、おいくらかしら~」
ティナがワクワクした様子で聞いてくる。
「そうだな。だが、大した冒険者じゃなかったから、魔道具も大したことないかもな……」
今のダンジョンの状態はこれだ。
【深緑のダンジョン】
管理者:カイン
ランク:D
魔力:9,702/20,000
スキル:迷宮創造Ⅱ、魔族創造Ⅱ、魔族強化、交信Ⅰ、魔力調整
継続的にダンジョンコアの強化にも魔力を費やしているものの、なんだかんだで魔力の量は増えている。もう少し積極的に使ってもいいかもしれない。
まぁそれはさておき……。
俺は2つの魔道具を手に取り、スキルを使う。
「《永劫回帰》」
魔道具は砂のように崩れ、魔力に還る。
【深緑のダンジョン】
管理者:カイン
ランク:D
魔力:10,902/20,000
スキル:迷宮創造Ⅱ、魔族創造Ⅱ、魔族強化、交信Ⅰ、魔力調整
「おぉ、1,200も増えたぞ!」
「すごいじゃない!やっぱりあの《アイスニードル》の魔道具がよかったのかしら?」
「そうかもしれないな。魔石も入ってたしな」
これはおいしいな。やっぱり、ぜひとも冒険者には来てもらいたいところだ。
「(魔法、怖い。仲間、やられた)」
ゴブタロウが少し複雑そうな表情を見せる。
そうだった。死者はいないが、3匹のゴブリンがこれにやられたのだ。
その3匹には魔力を与え、今は休ませている。
「ゴブタロウ達も魔力を感知できるといいんだがな。魔法が使われることが分かるだけでも、被害を減らせると思うんだが……」
「う~ん、どうなのかしら?アタシ、魔法はほとんど使えないけど、もともと魔力は多少分かるわ。あとから訓練してどうにかなるものなのかしら?」
「ヘッジ、おまえは魔力の流れは分かるのか?」
「(う~ん、こないだの強い冒険者とアニキが戦ってたときには、なんか圧力みたいなのは感じたっすね。あれが魔力なんすかねぇ)」
あの時は魔法も連発してたからな。ある程度、濃い魔力なら分かるということなのだろう。
「(魔石、あるの分かる)」
「(あ、それはオレっちも分かるっすよ)」
魔石は魔力の塊みたいなもんだからな。
「魔石ほどでない魔力も感じ取れるといいんだが、Eランクくらいの魔獣だと厳しいのかもしれないな」
「(……)」
ゴブタロウが残念そうにしている。
「まぁ、そんことができなくても、おまえらの今日の働きは見事だったぞ!」
俺は立ち上がり、ティナに合図する。
ティナは頷いて、洞穴の奥から、でかい図体をした魔獣を引っ張り出してくる。
「じゃじゃ~~ん!どうしても話し合いに応じなくて、襲ってきたから、返り討ちにしたオークでーす!」
これについては事前にティナに相談を受けて、討伐を許可していた。
「全部で3頭ある。こいつで今日は肉祭りだ!」
「もちろん、スラポン達の分もあるわよ!」
その後は、ダンジョンのみんなで大騒ぎしながら、オークの肉を食べた。
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