第25話 ゴブリンルーム
ゴブリン達の居住スペースがやっと整った。
場所は洞穴に入って、ダンジョンコアのある部屋から分岐する道の1つの奥だ。
道の奥は広大な1つの空間になっていて、その中でゴブリン達が自分達のいいように住処を作っている。
案外器用なもので、木や葉っぱなどを持ち込んで、簡単な小屋を作っている。
だが、ヘッジとモール達のダンジョン拡張部隊の全力をもってしても、当初の予定を大きく超え、10日もかかってしまった。
なぜか?
ゴブリンが大量に増えたからだ!
どこから聞きつけたのか来るわ来るわ。
さすがに最初のときのように集落まるごとというのはなかった……と思うが、毎日増え続け、今では100匹くらいになっている。
途中から俺も数えるのを諦め……というか、ゴブタロウに仲間にするかどうかも含めて管理を任せた。
いや、丸投げじゃない。そもそも、ゴブタロウ以外はダンジョンの配下じゃないから、言葉が通じない。どのみち、ゴブタロウの通訳が必要になる。やることは一緒だし、じゃあ俺いらないじゃん?
最初にダンジョンコア強奪事件があったもんだから、数が集まって大丈夫かと不安にも思ったが、ゴブタロウのカリスマ性なのか、それともゴブリンという種族がきまじめなのか、集まってきても問題らしい問題は起きていない。
……いや、居住空間が問題だったか。
最初は洞穴の中にいくつか穴を掘ってやればそれでいいかとも思っていたが、数が増えてきてからは、一面ゴブリンの穴だらけになってしまうことに気づき、1本の道の奥に巨大空間を作る形に変えた。
だが、その変更のおかげで、ここはちょっとした空間になっている。
「とても地下とは思えないわよね……」
「(いや~我ながら頑張ったっす)」
ティナとヘッジがこの空間を改めて見て、嘆息する。
「うむ。ここは『ゴブリンルーム』と名付けよう」
なんとこのゴブリンルーム、昼夜があるのだ。
ダンジョンコアのスキルで設定ができた。
しかも、要する魔力はたったの30。ゴブリン10匹分だ。
それで、ゴブリン約100匹を抱えられるなら安いもんだ。
一旦落ち着いたとはいえ、これからも増えるかもしれないしな。
「(何も知らずにみたら、外にあるゴブリンの集落となんも変わんないっすもんねぇ)」
「そうよね。いつの間にか、勝手に外から木まで持ち込んで植えてるし」
そうなのだ。さすがにそこまで大きな木ではないが、高さ3メトルほどはある木を外から持ち込んで来て植えている。
これだけの空間だ。確かに樹木の1つも欲しくなるだろう。だが、ゴブリンも景観なんかに配慮するんだな。
「(アニキ、たぶん、木は見た目の問題じゃなくて、食料っすよ)」
「ん?」
「(植えてある木、アププの木とかバニーニの木とか、そーゆー果物がとれる木ばっかっすから)」
……なるほど。
「それはそれですごいわよね。ある意味、ゴブリンが農業やってるってことでしょ?」
「確かにすごいな。まぁそこまでうまくいくかはまだ分からんが……」
残念ながら、実がなっている木は1つもない。
葉を見る限り、青々としているから、植え替え自体はうまくいっているようにも見える。
「(実がないのは、できたそばから食っちまうからかもしんないっすよ?)」
その可能性もあったか。だが、さすがにまだ青い実まで取ったりしないだろう。
……しないよな?熟すまで待つくらいできるよな?
そんな話をしているとゴブタロウがやってくる。
「(カイン、ありがとう。みんな気に入ってる)」
「礼ならヘッジに言うんだな。モール達と一緒にかかりっきりで作ってくれたんだから」
「(うん。ヘッジ、ありがとう)」
「(いえいえ~。納得のいくものができて、オレっちも嬉しいっす)」
なんとも微笑ましい光景だ。
なんてことを考えていたら、ゴブタロウが気まずそうな顔をして、こちらを見ている。
「どうした?なんか問題か?」
「(問題はない。けど、できれば水場が欲しい)」
水場か……まぁそりゃこれだけの人数が暮らすのだ。外に水を汲みに行くのも一苦労だろう。
俺はヘッジの方に視線を向ける。
「(水場っすか~。まぁ井戸掘るのがいいんでしょうけど、掘って出てくるかは分かんないっすからね~。これまで、別の所はここより深いところまで掘ってますけど、一度も水は出てきてないっすよ)」
そうだよな。この森は山の麓に位置するわけだし、掘って水が出てこないということもないだろうが、どこまで掘らなければならないかが問題だ。
「(掘るなら、それこそ落とし穴でお願いしたいっすね)」
「いや、普通にダンジョンのスキルを使えばいいじゃない?確か、井戸どころか川だって創れたでしょ?」
まぁそれはそうなんだが、できれば節約したいな。
「ちなみにヘッジ、外の川から水を引いてくるなんてことは……」
「(いや、さすがにちょっと……というか、用水路なんてひいたら、『ここにダンジョンあります』って言ってるようなもんじゃないっすか?)」
用水路とただの川の区別なんかつかないんじゃないかとも思うが、怪しくなるのは間違いないな。
「仕方ない。大人しく、スキルを使うか。後でコア持ってきて、創ってやるよ」
「(ありがと!)」
「それと、集落が一段落したなら、ヘッジ達の手伝いの方、頑張ってくれよ」
「(わかってる。家だいたいできた。これからはみんなの役に立つ)」
そう言って、ゴブタロウは去っていく。
「中断させてしまったが、ヘッジも地下迷宮の方、頼むな。いつまでもダンジョンコアをあの入り口部分に置いとくわけにもいかないからな」
「(任せてくださいっす。ゴブリン達の手伝いも最近増えてますし、モール達のレベルも上がってきたのか、作業スピード上がってますからね。ガンガン掘るっすよ!)」
うむ。ヘッジの働きぶりは証明されてるからな。
ダンジョン拡張部隊は安心してみてられる。
だが、そうだな……そろそろダンジョンを拡げるだけじゃなくて、内装の方もどうにかしたいな。
「……罠とか自作できないかな?」
「また、カイン兄がケチろうとしてる……。よく使ってる落とし穴もそうだけど、自動的に修復するようなの作るにはどうしたって物理的な罠じゃなくて魔力使う必要があるでしょ。無理だよ」
「そうなんだよなぁ。でも使い切りでも補修すれば何度も使えるわけで……ゴブリンに作ってもらえないかな?」
「普通に考えたら、ゴブリンにそんな事できるわけないってなるんだけど、この空間見ると、ちょっとできそうな気も……。それでもできるのは作業だけだろうから、設計とかは誰かがやらないとダメだと思うな」
設計ねぇ。簡単なのなら、俺やティナでも考えられないことはないと思うが……。
「そういや、ティナ、お前の方はどうなんだ?力になってくれそうなやつは見つかったのか?」
ヘッジもゴブタロウ達もちゃんと成果を出してるぞ。
「ふっふっふっ」
ティナがドヤ顔でニヤけている。
なんだ、その顔は?
「任せてよ!カイン兄好みの、いいの見つけたんだから!」
いい笑顔だな。
だが、俺好みってなんだ?
好きな魔獣の話なんかしたこと……あ~いや、あるか。
アンデッドでも見つけたのか?
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